フォルクスワーゲン・ポロのホットモデルであるGTIと、標準モデルであるTSI。前者は後者に対して排気量も最高出力もほぼ2倍! 同じクルマとは思えないほどスペックに差のある2台だが、果たして燃費に差は出るのか? 東京から福井までの往復1000km(!)を、高速道路ばかりではなく「酷道」も挟みながら本気で計ってみたのだ。
REPORT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
速さと燃費は完全にトレードオフなのか?
VWポロの日本におけるエンジンラインナップは、直列3気筒1.0Lターボエンジン、直列4気筒1.5Lターボエンジン、そして直列4気筒2.0Lターボエンジンの3本立てとなっている。同じモデルながら、なんと2倍もの差があるのだ。
最高出力も排気量にほぼ比例しており、それぞれ95ps、150ps、200psだ。
同じボディでエンジンスペックにこれだけ違いがあれば、運動パフォーマンスに大きな差が出てくるのは容易に想像がつく。
しかも95ps仕様はTSIトレンドライン、TSIコンフォートライン、TSIハイラインという標準的なグレードに搭載されている一方、200ps仕様はバキバキのスポーツモデルであるGTIに搭載されているわけで、エンジンスペックのみならずシャシー性能に至るまで、明確にキャラクターの差別化が図られているのだ。
……なんてことはメーカーのHPを見ればわかる。
我々が気になっていたのは、そんな運動パフォーマンスの差と同じくらい、燃費も違ってくるのかということだ。
速さと燃費は完全にトレードオフなのか? あるいはGTIのエンジンはそれなりに高額なのだから、ことによると速さと燃費をある程度の水準で両立させているのか?
考えていても話は進まないので、サクッと1000km走ることにした。
というわけで用意したのは、95psのTSIハイラインと200psのGTIだ。
ドライバーは筆者とTECH編集長のM、そしてHカメラマンだ。例によってコスト節減のため最少催行人数に押さえため、乗員が奇数の3名となっているが、ステージごとに巧みに乗り換えることでほぼ条件を同一にすることは可能だ。約40kgの撮影機材は2台に均等に分け、エアコン設定温度は22℃から24℃の範囲内とした。
東京都新宿の編集部を出発し、初台インターチェンジから首都高速4号線に乗る。GTIに筆者ひとり、TSIにMとHカメラマンという布陣だ。
そのまま中央自動車道に接続し、山梨県を経て長野県へ入る。230kmほど走り、最初のチェックポイントである駒ヶ岳サービスエリアで燃費を記録する。
2名乗車のTSIが19.8km/L、1名乗車のGTIが19.5km/Lという結果だ。燃費に優れるTSIのアドバンテージは、2名乗車のウエイトハンデで相殺されたといったところか。
ここでドライバーはそのままに、Hカメラマンが筆者の運転するGTIに乗り換える。
岐阜県に入り、土岐ジャンクションから東海環状自動車道へ。そして終点の関広見インターチェンジで降りる。
ここで2回目の燃費チェック。第1ステージよりも交通量が少なかったこともあって両者とも燃費を伸ばし、1名乗車のTSIが22.4km/L、2名乗車のGTIが22.0km/Lとなった。不思議なのは2台の差で、第1ステージが0.3km/Lの差だったのに、第2ステージも0.4km/Lと、ほとんどその差が変わっていない。
だが、第1ステージはTSIが2名乗車、第2ステージはGTIが2名乗車だったので、第2ステージはもっとGTIの燃費が劣って然るべきなのだ。排気量が大きくなると、重量増の影響が少なくなるのかも知れない。
ここからは一般道をひた走る。国道418号線を西に向かい、途中で県道270号線に逸れて徳山湖を目指す。この県道も結構な「険道」だったのだが、目的は徳山湖付近から合流する「酷道」───国道417号線である。
なにしろこの国道、岐阜県から冠山峠を越えて福井県へアクセスできるのだが、あまりの路面状況の劣悪さと道幅の狭さから、途中で国道を名乗るのをやめて林道となり、峠を越えてしばらく経ってから再び国道の名を冠されるのだ。
この酷道ドライブについては改めて別の機会にレポートをお届けする予定だが、そんな状況だから当然ながら燃費には厳しい。
さらに言えば、そもそも自動車メディアの撮影は燃費にとっても厳しい。「置き撮影」は動かしては止め、またちょっと動かしては止め、の連続だし、「走行シーンの撮影」では、カメラマンの指示に迅速に対応できるよう、低めのギヤに固定することが多い。いずれにせよ、平均燃費計の数字がみるみる悪化していくのだ。
そんなこんなで這々の体で福井県側へ抜け、市内の宿に到着する。
酷道を含む153kmもの一般道を走り切り、1名乗車のTSIが16.1km/L、2名乗車のGTIが13.7km/Lという結果だった。両者の差は3.6km/Lで、初めてそれらしい違いが表れたような印象だ。とはいえGTIは2名乗車であり、前述した通りの厳しい状況を考えれば、大健闘と言っていいだろう。
排気量や最高出力の差ほど燃費に違いはない?
翌日はドライバーをチェンジし、筆者がTSI、MがGTIのステアリングを握る。HカメラマンはTSIに乗り込んだ。
二日目の最初の目的地は、古き佳き町並みを今に残す城下町、越前大野である。町のシンボルである大野城は小高い山のてっぺんにそびえ立ち、その東側には寺町が広がる。風情に溢れた城下町だ。
撮影を兼ねてしばし散策し、国道158号線を東に向かう。今度は「酷道」ではなく風光明媚な観光道路で、しばらくすると右手に九頭竜湖の雄大な景色が広がる。
前日とはうって変わって県境越えもあっという間。岐阜県に入ってすぐに東海北陸自動車道の白鳥西インターチェンジに到着する。
第4ステージはここで終了。燃費は2名乗車のTSIが14.7km/L、1名乗車のGTIが13.5km/Lだった。
ここからは東京までひたすら高速走行だ。美濃関ジャンクションで東海環状自動車道へ、土岐ジャンクションで中央自動車道へ入り、諏訪湖サービスエリアで燃費をチェックする。
結果は2名乗車のTSIが19.1km/L、1名乗車のGTIが17.9km/Lだった。
ここからHカメラマンがGTIに乗り換え、ドライバーはそのままに東京を目指す。首都高速4号線の初台インターチェンジまで、とくに渋滞もないまま走り切り、最終ステージの燃費をチェックする。1名乗車のTSIが20.5km/L、2名乗車のGTIが18.2km/Lだった。
では、総合結果である。一泊二日、別企画の撮影も行いながらの総走行距離は1052kmとなり、総合燃費はTSIが18.9km/L、GTIが17.2km/Lとなった。
JC08モード燃費はTSIが19.1km/L、GTIが16.1km/Lだから、TSIはほぼカタログ値どおりで、GTIは7%ほど上回ったことになる。
ただ、こうした数字は全行程のなかにおける高速道路の割合によって簡単に変わってくるので、この総合結果だけを見て一喜一憂しても意味はない。
ステージごとの結果からわかるのは、高速道路におけるGTIの伸びが顕著で、同時に高速道路では乗員が増えた際の悪影響が少ないということだ。まさに大排気量の特徴が顕著に表れたわけだ。
あらゆる状況においてTSIの燃費が優れているのは間違いないが、その動力性能の高さを考えれば、思いのほかGTIが健闘したという印象も強い。もちろんそのハイパワーを存分に引き出せば、燃費はみるみる悪化するのだろうけれど……。
そしてもうひとつ言えるのは、全ステージで優秀な燃費を記録し続けたTSIもなかなか侮れない速さを秘めているということ。GTIと直接比べても十分な動力性能だと感じていたのだから、もしもTSIだけに乗り続けていたらかなりの駿足だと感じていただろう。
というわけで、「GTIとTSIで燃費はどれだけ違うのか?」というテーマにひと言で答えを出すならば、「確かにTSIのほうが優れているが、排気量の差や最高出力の差ほどは違いがない」となる。
●VWポロ TSI ハイライン
全長×全幅×全高:4060×1750×1450mm ホイールベース:2550mm 車両重量:1160kg エンジン:直列3気筒DOHCターボチャージャー 排気量:999cc 最高出力:95ps/5000-5500rpm 最大トルク:175Nm/2000-3500rpm トランスミッション:7速DCT フロントサスペンション:マクファーソンストラット リヤサスペンション:トレーリングアーム タイヤ:195/55R16 駆動方式:FF JC08モード燃費:19.1km/L 価格:273万3000円
●VWポロ GTI
全長×全幅×全高:4075×1750×1440mm ホイールベース:2550mm 車両重量:1290kg エンジン:直列4気筒DOHCターボチャージャー 排気量:1984cc 最高出力:200ps/4400-6000rpm 最大トルク:320Nm/1500-4350rpm トランスミッション:6速DCT フロントサスペンション:マクファーソンストラット リヤサスペンション:トレーリングアーム タイヤ:215/45R17 駆動方式:FF JC08モード燃費:16.1km/L 価格:355万7000円