
7月16日に2度目のマイナーチェンジを受けた日産スカイライン、その最大の目玉はやはり、高速道路のナビ連動ルート走行と同一車線でのハンズオフ走行を可能にした「プロパイロット2.0」だ。そのなかに秘められた最先端のテクノロジーとは。電子技術・システム技術開発本部の寸田剛司主管と、コネクティドカー&サービス技術開発本部の海老澤雅之主担に聞いた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、鈴木慎一、日産自動車

--「プロパイロット2.0」がハイブリッド車のみに標準装備されたのはなぜでしょうか?
寸田 ハンズオフ走行を実現するにあたってシステムに冗長性を持たせる必要があり、電源やセンサー、コントローラーなど、すべてが二重になっているのですが、ハイブリッド車ですとすでに電源が二重になっているので、「プロパイロット2.0」を実装しやすいクルマであったというのは、大きな理由のひとつに挙げられます。それに新しい機能を実装することで、「これが今の日産の、最新テクノロジーのパッケージです」という売り方もできる…ということで、まずはハイブリッド車に設定しました。
--ターボ車はパーキングブレーキが足踏み式のままですが、ハイブリッド車は今回のマイナーチェンジでEPB(電動パーキングブレーキ)になりましたね。やはりプロパイロットにEPBは必要要件なのでしょうか?
寸田 プロパイロットとしては最低限必要なものです。先行車に追従し停止すると3分間はVDC(横滑り防止装置)で油圧をかけるのですが、それ以上止まるとVDCではダメなので、そうするとパーキングブレーキをかけることが安全上必要になってきます。そのためにEPBは必須ですね。これはプロパイロット2.0に限らず、これまでのプロパイロットも同じです。
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--プロパイロットの機能を「2.0」に進化させるにあたり、センサー類などの必要条件は?
寸田 360°センシングと表現していますが、車線変更するにあたっては、自車の側面が広く見えていなければなりませんので、そのためにトライカムで前方を広角で見るというのは非常に重要で、カメラでも両隣の車線を見ています。それから、従来型は車両後方にサイドレーダーを装着し、BSM(後側方車両検知警報)などを実装していましたが、今回それを前方にも追加して、レーダーで車両全体をカバーして、さらにカメラでも見て、横方向を二重で見て、確実に車線変更する…というものになっています。
--今回のスカイラインが初搭載なので、「本当はこの辺でいいんだけどここまでやっています」という所もあるんですよね?
寸田 センサー類はどれも必須のものですね。なくてもいいものは基本的にありません(笑)。横方向をちゃんと見なければならないので、前述のトライカムやレーダーに加え、ソナーやアラウンドビューモニターも使って、とにかく間違いがないように二重三重で見て、万全を期しています。
ただ、必要なものが多いのは確かで、お客様からすれば「車線変更するだけ?」と思われるかもしれませんが、それを実現するためには、従来のプロパイロットとは違うものを要求されます。センサーもアクチュエーターもコントローラーも二重三重なのはそういうことですね。
--ステアバイワイヤはプロパイロット2.0の必要条件ではない?
寸田 ではないですね。
--でも、あるとやりやすい?
寸田 はい。普通の電動パワーステアリングでもできますが、その場合はシステムを二重にしなければいけません。その点ステアバイワイヤは三重になっていますので、使いやすかったですね。何かあった場合はハンズオフからハンズオンに移ってもらいますが、それまでに空白時間がありますから、そこをシステムで何としても守らなければならないので、その何秒間かのために結構命をかけています(笑)。そこは非常に苦労しました。
--パワートレインは通常のガソリン車などでも大丈夫ですか?
寸田 はい、それは特に問題ありません。EVはむしろやりやすいですね。
--今回せっかく3.0L V6ターボエンジンが新しく設定されたので、こちらにプロパイロット2.0が装着できないのは勿体ないなと。
寸田 そうですね(苦笑)、余力があれば設定したかったところですが、優先順位の関係で…。
--それは、パワートレインやサスペンションなどの仕様ごとに、自動運転の制御のプログラムを変える必要があるということでしょうか?
寸田 はい、チューニングは必要ですね。普通のACC(アダプティブクルーズコントロール)でさえ、車種・仕様ごとにそれぞれ適合させなければなりませんし、例えば日本と欧州では使用する速度域が異なりますので、仕向地ごとにも変えています。それが、開発の大変な所でもあり面白い所でもあります。本当に現地で走ってナンボという感じですね。
--今回プロパイロット2.0になって制御できる部分が増えましたが、そのぶんプログラムの作り込みの工数は増えているわけですよね?
寸田 それはもう。縦方向の制御だけだったのが横にも増えたので、増えた工数は2倍ではきかないですね。
--ということは、センサーよりも工数が増えたことの方が、コスト増に影響している?
寸田 両方でよね。部品はお金を出せば買えますが、作り込みは我々社内でしなければならないので、一番大変だった部分でもありますし、今後の課題でもありますよね。シミューレーションという話もありますけど、最後は走らなければなりませんから。
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--今回の高精細3D地図は、いわゆるダイナミックマッププラットフォームの地図を使っている?
海老澤 はい、DMPですね。
--これは、いろんな自動車メーカーがコンソーシアムに入っていて、参加していてお金を払えばデータをもらえるのでしょうか? 実際に使われるのは初めてですよね?
海老澤 日本で商用化するのは初めてですね。で、DMPの地図をベースに、ゼンリンさんの方で我々に合うようなカスタマイズをしていただく、という流れです。
--海外ではHEREとDMPに関して連携していますが…。
海老澤 海外で展開する場合も同じように、そのまま使うわけにはいかないので、HEREさんに付加的な情報を入れて収めていただくことになります。
--OTA自動地図更新が実装されていますが、これをファームウェアのアップデートに使えるのでしょうか?
寸田 許可を取れば、できますね。
海老澤 今回はナビと地図データのアップデートができるようになっています。
寸田 今回のスカイラインは、プロパイロットのシステム自体をOTAでアップデートできませんが、今後は更新できるようにする方向で進むと思いますね。日本にはルールがまだありませんので、今は個別に折衝していますが、近い将来に明確なルールができると思います。
--現状では通信はLTEですか?
海老澤 はい、LTEです。
--将来的には5Gに移行する?
海老澤 各国で5Gが視野に入ってきていますので、技術トレンドとしては見ていかなければならないと思います。
--もし現行スカイラインに搭載するとしたら、ハードルは高いのでしょうか?
海老澤 通信モジュール自体は独立したものなので、車両への依存性は高くないですね。

--試乗したらハンズオフ走行はすごく安心感があって良かったのですが、完璧に制限速度の標識通りにしか走れないうえ、その制限速度が非常に低いですよね。
寸田 日本は実勢速度と相当乖離していますが、我々としては、支援のレベルが高ければ高いほど、制限速度をちゃんと守らなければなりませんので…。欧州などでは制限速度をみんな守って走りますので、乖離はありませんが。日本では申し訳ありませんが、状況に応じてお客様の判断でオーバーライドしていただくか、設定速度を上げてハンズオンで走行していただくより他にないですね…。
--日本の道路が、プロパイロット2.0の良さをもっと引き出せる環境になるといいですね。ありがとうございました。