ポルシェ初のフル電動スポーツカー、「タイカン(TYCAN)」。スポーツカーの雄たるポルシェがプライドを賭けて開発した電動スポーツカーだけに、そこに投入されたテクノロジーは、想像を遥かに超えるものだった。ポルシェ・タイカンのテクノロジーを徹底解説する。第5回は「シャシー編」だ。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) PHOTO &FIGURE◎PORSCHE
バッテリーがホットでもクールでも、満充電でも空でも、減速時は同じ挙動をする
前後モーターのトルク配分は可変で、機械的な接続を持たないこともあり、「コンベンショナルなパワーユニットより5倍速く制御することが可能」と、開発エンジニアは説明した。航続距離を重視したクルージングモードでは、フロントモーターのみを駆動。パフォーマンスを重視したダイナミックモードでは、リヤのトルク配分を大きくし、トラクションを高める方向。クルージングよりもさらに航続距離を重視したレンジモードでは、モーターの切り離しと接続をきめ細かく行なう。「フロントが駆動しているのか、リヤが駆動しているのか、ドライバーが自覚できないほど自然な制御」だと、自信を覗かせる。
幅広いスプリングレートを可変制御する3チャンバーのエアスプリングもパナメーラの派生だ。ただし、ボンネットの低いタイカンに合わせ、フロントは専用に設計したという。車高調整機能も備えており、例えば、90km/h以上で車高は10mm下がり、180km/h以上になると22mm下がってロードホールディングと空力の両性能を高める。
タイカンは電子制御アンチロールバーを意味するPDCC(Porsche Dynamic Chassis Control)がオプションで選択可能だ。理論的にはロールアングルをゼロまで減らすことが可能。高速・高G領域でも、極めて小さなロール角を保ってコーナリングすることを、テクノロジーワークショップのパッセンジャーライドで体感した。
タイカンはまた、低速域で逆相(最大3度)、高速域で同相に転舵し、低速域では取り回し性の高さ、高速域ではヨーモーメントおよびスリップアングルの減少をもたらすリヤアクスルステアリングを搭載する。また、後輪左右のトルク配分を行なうPTV Plus(Porsche Torque Vectoring Plus。多板クラッチ式電子制御LSDとブレーキ制御の組み合わせ)を搭載する。
回生ブレーキの最高出力は265kWで、強力だ。ポルシェはブレーキングイベントの90%は回生ブレーキでまかなえると説明する。その根拠は、ブレーキングイベントの90%は0.4G以下の減速Gに収まるというデータに基づくこと。加えて、タイカンが回生時に発生させる減速Gが最大0.4Gだからだ。それ以上の領域では油圧ブレーキを併用する。
アクセルペダルをリフトオフした際の回生制御には3つのモードを設けている。回生オフと回生オン、それにカメラを利用したオート回生だ。オート回生はカメラが捉えた情報に基づく交通環境と車速に応じて、回生のオンオフを自動的に制御する。
「バッテリーがホットでもクールでも、満充電でも空でも、減速時は同じ挙動をする。アクセルペダルを離した途端に回生することが、必ずしも効率的ではない。ダイナミックなドライビングをするときは、ブレーキペダルを踏んだときだけ回生する。タイカンの航続距離の長さは回生効率の高さに支えられており、航続距離の30%は回生でカバーする」と、担当エンジニアは説明した。
ブレーキシステムは2種類を設定する。PCCB(Porsche Ceramic Composite Brake)とPSCB(Porsche Surface Coated Brake)だ。PCCBはイエローのキャリパーが特徴で、ターボSに標準装備(ターボにオプション設定)。PSCBは2017年にカイエン・ターボで初めて採用したブレーキシステムで、鋳鉄ディスクの表面をタングステンカーバイドでコーティングしている。これにより、ブレーキングパフォーマンスを向上させると同時に耐摩耗性が向上。従来品に比べてブレーキダストが大幅に削減されるのが特徴だ。