いよいよ、ポルシェもEVスポーツカーの分野に進出した。超高性能でライバルを圧倒するタイカン(TAYCAN)である。中国・上海で行なわれたテクニカルワークショップに参加したジャーナリスト、世良耕太がタイカンに込められたポルシェの意図をレポートする。
TEXT◎世良耕太(SERA Kota) FIGURE &PHOTO◎PORSCHE
すでに3万台を受注しているタイカン
──タイカンの走行性能についてはどう認識していますか?
「電気自動車にとって、0-100km/hの加速性能を高めることは簡単なことだ。何点何秒という数字で差別化するのは難しい」
──公式発表では、タイカンは0-100km/h加速を2.8秒、0-200km/h加速は9.8秒でこなすことになっています(いずれもターボS)
「タイカンはポルシェだから、ブレーキングや加速など、ビークルダイナミクス面に関してクレイジーなテストをする。(競合と)違うのは、発進加速を繰り返したときだ。リピータブルパワーと呼んでいるが、私たちは再現性を重視している。一般的には、0-200km/h加速を2回連続で行なうと、2回目の数字は少し悪くなる。10回行なえばかなり悪くなる。タイカンは0-200km/h加速を26回繰り返しても、数字はほとんど悪化しない。それを証明したビデオがある」
──スペック表に書いてある性能を1回だけ出して終わりではなく、繰り返してもへこたれない。
「世の中にはオーバープロミス、アンダーデリバーな(期待をあおっておきながら、数字どおりの性能が出ない)クルマがあるが、ポルシェは逆だ(公表する数字は控え目だが、実際はそれ以上の性能を発揮する)」
──トルクベクタリングについてはどう考えていますか?
「フロントアクスルでのトルクベクタリングに関しては、あまりベネフィットを感じていない。インホイールモーターについても同様だ。モーターは相対的に重く、ばね下荷重が増えてしまうからね。タイカンはフロントとリヤにモーターを搭載しているが、前後のトルク配分は後ろ寄りだ。4対6よりももう少し後ろ寄りだ」
──なるほど。タイカンはどの程度のセールスを見込んでいるのでしょうか。
「年間3万台を狙っている。ほぼパナメーラと同じボリュームだ」
──控え目にも聞こえますが。
「たくさん売ることは、私たちにとって重要ではない。特別な存在であることを狙っている。ポルシェの基本的なストラテジーは、マーケットの需要よりも1台少なく生産することだ」
──タイカンはなぜあのサイズ(全長4963mm)の4シーターセダンになったのでしょうか。
「ポルシェはCセグメントにセダンを持っていないからだ。パナメーラもセダンだが、Dセグメントに分類できる。カイエンはCセグメント。マカンはBセグメントで、いずれもSUV。ポルシェ内部で競争をしたくなかったから、タイカンはCセグメントの4シータースポーツカーとした。それにCセグメントなら、プレミアムな価格づけをすることができる」
(あくまでもポルシェの社内でのカテゴリー呼称だろう。一般的な分類よりそれぞれ1クラスずつ小さい呼称になっている。通常であれば、カイエンはDセグ、マカンはCセグ、タイカンはDセグに分類されるはずだ)
──タイカンに対する反応はいかがでしょう。
「すでに3万件の予約を受け付けている。そのうち50%が新しいカスタマーだ。つまり、これまでポルシェを経験したことがない顧客ということになる。たぶん、本物のクルマが欲しくなったんだろう」
──それはテスラを意識して言ってます?
「テスラは私たちの競争相手ではない。私たちの挑戦はEVのポルシェを作ることだ。EVでリアルなポルシェを作る。効率の高さがテスラと違うところだ。Cd値は0.22で、とても空力がいい。このことは、高速域での航続距離に効く。リアルなドライビングコンディションでは、カタログが示す数値以上に良い印象を感じられると思う」
2シーターEVのスタディは行なっている
──ゆくゆくは、911のEVも出てくるのでしょうか。
「911は内燃機関のみを積んだ最後のクルマになる。2シーターEVのスタディは行なっているが、量産化されるにしても、それは911にはならない。EV化にあたってチャレンジングなのは重量だ。バッテリーの重量はスポーツカーの敵で、航続距離とのバランスで最適な妥協が必要になる」
──開発にあたっての課題を教えてください。
「充電だ。DC充電に関しては世界中でさまざまなサプライヤーが存在し、多くのスタンダードがある。CHAdeMOがあり、GB/Tがあり、CCSがある。ひとつのスタンダードを扱えばいいわけではない。日本や中国、アメリカ、ヨーロッパを含め、世界中のサプライヤーが扱う仕様をテストし、互換性を確立した。これがうまくいかないと、カスタマーは満足しないからね。走行テストも含め、世界100ヵ国以上でテストしたよ」
──日本ではABBと組んで急速充電器の整備を進めると発表しています。
「800Vの充電ステーションは今後スタンダードになる。他社も追随するだろう」
──タイカンには日本の製品は使われているのですか?
「バッテリーセルの工場がヨーロッパにあればよかったんだがね。LG製を採用しているが、彼らはポーランドに工場を持っている。単純に調達の問題だ。バッテリーセルは重たいから、CO2の観点からもヨーロッパで調達したい。その代わり、インバーターは日本製だ。インバーターはバッテリーほど重くないから、日本から運んでも問題にならない」
──最後に、タイカンが他のEVと違うところは?
「充電が早い!」
──ありがとうございました。