毎年9月の初旬に開催される自動車媒体のお祭り「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」に初参戦! しかもチームメイトは国際ジャーナリストの清水和夫氏と、トヨタ自動車の開発の凄い人......。アラフィフどころかアラスィクスティ、55歳のおじさん編集部員、モーターファンのインスタではすっかりネカマに仕立て上げられている"MJ"の公式レース参戦記! 一般人には敷居の高いJAF公認レースだが、その敷居を超えた先にはクルマとモータースポーツの新たな楽しさが見えてくる!
PHOTO●伊藤嘉啓(ITOH Yoshihiro)
ある日の午後、取材で使った広報車を返却して会社に戻るとMotor-fan.jpの偉い人に呼び止められ、「メディア対抗、出る?」と突然のお誘いを受けた。メディア対抗とは、正式には「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」といい、製造メーカーであるマツダが主催するロードスターのワンメイクレース。しかもJAF公認の公式競技。
阪神タイガースの応援参戦とサーキット走行のお誘いは断らない主義の自分は、反射的に二つ返事で「はい、出ます!」と答えた……。
のだが、数分後に冷静に考えてみると、胃の底の方にズンと感じるプレッシャーが襲ってきた。
なにせ参加するチームは業界の大御所。元レーシングドライバーであり、現在は国際モータージャーナリストの清水和夫氏が主催する映像サイト「Start Your Engines」と我ら「Motor-Fan.jp」のジョイントチームだ。
さらにチームメイトにはトヨタC-HRの開発責任者を務め、そのC-HRを駆ってニュル24hレースにも参戦したほどの腕前を持つドライバー、古場博之氏。しかも古場さんは、今はGAZOO Racingに所属しているほどのクルマと走りのプロ。そして清水和夫氏とのレース参戦経験も多い、カート&フォーミュラ育ちの若手ドライバー齊藤洋輝氏。
こんな凄い人たちのなかに素人のおっさんが加わっていいのか?
そんなノリと勢い&葛藤から人生初レースはスタートした。
30年の歴史を持つロードスターのワンメイクレース
と、ここでご存知ない方のために「メディア対抗ロードスター4時間耐久レース」がどんなレースなのかをご紹介しよう。
イベント名の通りレース車両はロードスターのワンメイクレース。初代ロードスターの誕生とともに、ロードスターの楽しさを世に知らしめるための一環として始められたもの。
ビルシュタイン製のショックアブソーバーと機械式LSDなどが装着されたNR-Aというグレードのモータースポーツベース車に、ロールバー、CUSCO製6点式シートベルト、BRIDE 製バケットシートが装着される。さらに全車エンドレスのブレーキフルードと競技用ブレーキパッド、Gulfのエンジンオイルとミッションオイル、そしてタイヤはブリヂストンのアドレナリンRE003に交換。
以上のように、レースマシンとはいえ、4時間のレースを安全に走りきれるように必要最低限のパーツが装着されるのみ。
そして、このレース車両はすべてマツダがメンテナンスを施し、イコールコンディションを保った状態で、レース当日に各チームに貸し出される。ちなみに、これらの車両はこの日のためだけに用意され、各チームは毎年同じ車両を使用している。
このレースの歴史は長く、初代NA型ロードスター登場の年1989年に第一回を開催(1989〜1997)。その後二代目NB型(1998〜2004)、三代目NC型(2005〜2014)、そして2015年から四代目で現行のND型と、歴代ロードスターで使い毎年1回の開催で、一回も休むことなく毎年開催され、今回ついに第30回、つまり30年に渡って開催されている。
と、そんな由緒あるレースに、あっけなく参加することが決まってしまったわけだ。
かく言う私、「Motor-fan別冊ニューモデル速報」の編集部に所属しているが、その前はドライビングテクニック&チューニング情報誌「レブスピード」の編集部におり、今回の舞台である筑波サーキットも何度か走ったことはある。非公認の草レースにも数回参加したことはある。
しかし本格的なレースはもちろん初めてだ。
豪華絢爛な参加チームとドライバー!
参加するチームは”メディア対抗”の名の通り、自動車専門誌やビデオマガジンをはじめ一般月刊&週刊誌、自動車Web媒体、テレビ、FM放送曲と多岐に渡るメディアがチームを組んで参戦している。
参加ドライバーは編集部の参加が必須とされ、それに加え各媒体にゆかりのある、腕に覚えのあるモータージャーナリストが中心となっている。
さらに”助っ人”ドライバーとしてレーシングドライバーの参戦も許されていいて、片山右京さんのようなレジェンドドライバーや、谷口信輝選手といった現役実力派のドライバーが参戦することもある。
そして新聞報道などもされたのでご存知の方も多いと思うが、なんと今年は自動車メーカーの垣根を越え、MORIZOことトヨタ自動車の豊田章男社長が関連会社勤務のご子息と親子での参加が話題となった。
と、レースの概要をお伝えしたところで参戦記に戻ろう。
少しハードルの高いJAF公認レース
このレースのようなJAF公認のレース参加で最初のハードルとなるのがライセンスとヘルメットやウェア類の準備。すべては参加者の安全を確保するためなのだが、いざ始めようとなるとその準備には出費がかさむ。
単独の車両でタイムを競うジムカーナやダートトライアルは国内B級ライセンスだが、いわゆるレースはもうひとつ上の国内A級ライセンスが必要となる。さらに、ドライバーの身体生命の安全確保のために、ドライバーのヘルメットやウェア類も最新のFIA2000規格をクリアしたものでないといけない。
私も一応レーシングスーツやグローブ&シューズを持っているが、ほとんどが旧規格だったり非公認……。
ヘルメットは縁あって懇意にしてもらっているARTAのGT300 NSXのドライバー高木真一選手にもらった一流品。フェイスマスクもFIA2000規格品だった。
だが、逆にそれ以外はすべて使えない。
レーシングスーツはSYEの清水さんのお古をお借りできるのだが、グローブ、シューズ、クラッシュ時に頚椎を守るHANS、そして今年から必須アイテムとなったFIA2000規格の靴下が必要となる。
これらを揃えようと思ったら10万円近くかかるだろう。
自慢じゃないがそんな余裕はない!……ので、知人のライターから借りることにした。
さすがにソックスは6800円もするFIA2000規格の高級靴下を購入した。
いよいよ迎えた決戦の日
じつはこのレースには、前REVSPEED編集部時代には監督として参戦はしていた。が、自分が走らない監督として参加するのと、ドライバーとして参加するのでは、天と地ほどの差がある気分。
前述の通り胃が重くなるプレッシャーを抱えつつ日々を過ごし、レース前日には最高潮に達した。
と、思ったがサーキット入りし、チームメンバーが集まり、公式練習が近づくとさらに緊張は増していった。
事前に練習ができればここまで緊張しないのだろうが、こちとら本番4日前まで「新型スカイラインのすべて」「軽自動車のすべて」「新型N-WGNのすべて」と連続して締め切りを抱えていたので時間もないし、そもそも練習するクルマもない。
MJ、ロードスター行きま〜す!
いよいよ午前10時30分から、30分間の公式練習だ
出走順通り、清水御大、私、若手ドライバーの斎藤選手、そして古場さんとドライバーチェンジの練習も兼ねて、それぞれが乗車。
このレースは4時間を通してガソリンを60ℓしか使えないので、燃費走行が重要になる。普通ならコーナーの進入はヒールアンドトーで減速し立ち上がるのだが、通常より手前からアクセルオフし、減速はブレーキのみ。そしてなるべく高いギヤでコーナーをクリアするという少々特殊な走りをすることとなった。目標タイムは1分15秒。
ついに練習が始まり、清水御大から車を引き継ぎ、いざコースへ!限られた時間なので各自周回できるのは3ラップのみ。
ロードスターで筑波を走るのは初めて、そして指示された走行法を試してみる。当然遅いので、後ろから迫ってくる速いクルマの邪魔をしないように気を遣う。なんてやっていると3ラップなんてあっという間。ピットサインのPinを確認してピットへと戻る。
そして第一回目の通信簿を確認。
自分のタイムは1分24秒……。まるで話にならない……。どうしよ……。
目標タイムの9秒落ち。1ラップあたり9秒も遅れたら、持ち時間の50分を走りきる頃には5分以上遅れてしまう。このままでは足を引っ張るどころの騒ぎではなく、ダントツビリ確定じゃないか!
どうする? 俺。
4時間後のゴールを目指してスターート!
その後午後12時45分から予選タイムアタックが行なわれ、ポールポジションは古巣レブスピードチームの1分11秒456。我がチームは古場さんのドライビングの1分11秒969で8番手となった。
いよいよ、秋の太陽が傾き始める午後4時。ローリングスタートで、4時間後のチェッカーを目指して24台のロードスターが走り始めた!
「Start Your Engines」には、当日レースのスタート後とフィニッシュ前の50分間程度行なったライブ中継の動画があるので、そちらでレースの雰囲気をぜひご確認ください!
(ちょっと画面の揺れがありますが)
スタートの清水御大はスタート48分&フィニッシュ41分の2スティント乗車予定。助っ人の古場さんはルール上限の40分。そして齊藤選手と自分がそれぞれ50分が持ち時間。
自分の番を待っている間の48分はあっという間。緊張マックスでヘルメットを被り、コースへと飛び込んだ。
コース上では各チームの作戦により、ペース配分=速度の差があるが、上位チームのクルマはびっくりするほどのペースで追いつき、そして抜いてゆく!
あぁ、予想の通り、明らかに周りのペースより遅い……。
そういった速いクルマにバンバン抜かれるのだが、ただ抜かれるのは悔しいので、常に上位に食い込むENGINEチームやヘルメットに見覚えのある桂伸一さんなど、ドライビングのお手本がたくさん走っているので、抜かれついでにブレーキングポイントやライン取りを真似て、自分の走りをアップデートする作戦? も用いてみた。
と、クルマやコースの雰囲気に慣れてきたこともあり、持ち時間の半分を迎える頃にはなんとなく操作が安定してきたように思えてきた。
携帯電話でつながったピットからの情報でも1分18秒から17秒台で安定してきたという。
トップドライバーも燃費という縛りがあるので、予選以外は抑えた走りを強いられるので、アマチュアドライバーとのタイム差が縮まるという側面もあり、決して速くはないが、この後の勝負権を失わずに50分の走行を終えてチームメイトにバトンタッチすることとなった。
トヨタ関連の下克上! MORIZOチームとC-HR主査のバトル勃発
その後は斎藤選手の15秒台に入るラップと古場さんの速く安定した走りによって、私が落とした順位を少しずつ回復していった。
と、ここでちょっぴりドラマが!
古場さんが順位を上げていくと、目前に現れたのは豊田親子が居るトヨタイムズ号!
トヨタ社員の古場さん:「これ、抜いていいのかなあ?」
ピットのチーム全員:「忖度なしで抜いてください!!」
と、ピットからの強い要請で社長チームを社員ドライバーがパスするという下克上が繰り広げられた!
(最終的にはトヨタイムズ号の鬼神の追い上げで抜き返されましたが)
毎年恒例のドラマが起きるラストスパート
そんなピットやコース上でドラマを繰り広げ、スタートから3時間20分を経過、すっかり暗くなった午後7時20分。本日2度目の乗車となる清水御大が約40分先のチェッカーを目指しコースイン。この時点での順位は12番手(くらいだったと思うのですが…….。)。
最終スティントは多くのチームが最も速いドライバーを投入し、残り少ないガソリンの量を気にしながらラストスパートをかける。
燃料残量を気にしつつ、できうる限りのアタックを続ける清水御大。
やがて順位をアップし、念願のトップ10に! さらに上位を目指しアタックを継続。
が、やがて我がチームのロードスターにも燃料警告灯が点灯。ペースダウンを余儀無くされる。
そして最終ラップに突入! と同時に猛アタックをしていた上位のレブスピード ともう1チームがガス欠でコース上にストップ!
我がチームは、7位でのチェッカーを受けることとなった。
こうしてハラハラドキドキの、おっさんの初レースが終了した。