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3台のマクラーレンに乗ってみて最高峰の世界とはどんなものかあらためて痛感


トラック25に基づき、積極的にモデルバリエーションを増やしているマクラーレン。


カーボンモノコックのシャシーにV8ツインターボをミッドシップ搭載するという共通のレイアウトを用いながら、その個性をどのように造り分けているのか。


現在の主力モデルである3車種を乗り比べて、その違いを確認してみよう。




REPORT◉高平高輝(Koki Takahira) 


PHOTO◉小林邦寿(Kunihisa Kobayashi)




※本記事は『GENROQ』2019年9月号の記事を再編集・再構成したものです。

 何となくチャンネルを合わせていただけなのに、途中から仕事そっちのけで画面にくぎ付けになってしまった。先日のウィンブルドンでのジョコビッチとフェデラーの決勝戦である。両者ともに既に十分功成り名遂げた王者であるにもかかわらず、1ポイントも諦めず、パワーとスピード、正確無比のコントロール、そして驚くべきスタミナと精神力のすべてを尽くし、文字通りの死闘を繰り広げた。最高峰の闘いとはどういうものか、改めて目の当たりにして感じ入ったのである。何とか仕事に戻ろうとした時に思ったのは、いずれも甲乙つけがたい本物の強者たちの姿勢は、ストイックに高性能を追求するマクラーレンのそれと似ていないかということだった。




 MP4-12Cをもって新たなスタートを切ってからまだ10年にも満たないというのに、マクラーレンの伸長ぶりは目を見張るほど。短い歴史を圧倒的な高性能でカバーして、今やスーパースポーツカーの世界に確固たる位置を占めていると言えるだろう。ご存知のようにマクラーレンは自分たちの製品をエントリーレンジの「スポーツシリーズ」と中核の「スーパーシリーズ」、そして限定生産前提の最高峰シリーズ「アルティメットシリーズ」という3本柱にカテゴリー分けしている。それでも、未だにピンと来ないのは、どのシリーズのどのモデルでも世間一般の常識からすればとんでもなく高性能なスーパースポーツカーであるからだ。マクラーレンの現行ラインナップでは、スポーツシリーズの中で一番ベーシックな540Cのひとつ上に位置するのが570Sだが、その直截なネーミングが示す通り、3.8ℓV8ツインターボエンジンは570㎰/7500rpmと600Nm/5000~6500rpmを発生、メーカー公称値の0→100㎞/h加速は3.2秒、最高速は328㎞/h。これほどの超高性能モデルをしてエントリーモデルと言うのはどんな感覚なんだろう?と一般人の私たちは理解に苦しむところだが、それぞれ2.9秒と341㎞/hを誇るスーパー・シリーズの720Sと比べれば、きちんと序列を守っているということなのだろうか。




 とはいえ、基本的には同種のパワーユニットとモノコックを使用している限り、ラインナップ拡充にも限界があるだろうと危惧する声もあったが、昨年、マクラーレンは2025年までに18種のニューモデルを送り出し、年間6000台レベルに生産台数を引き上げるという「Track25」なる野心的な中期計画を明らかにした。それに従って発表されたのが、前述の3カテゴリーには属さないハイパーGTと称する最高速400㎞/h超を豪語する「スピードテール」、そしてつい先日デビューしたばかりのグランドツアラー「GT」である。世間の噂などどこ吹く風と、マクラーレンは次々と渾身のサーブを繰り出してきている。

 現行スーパーシリーズでは唯一のモデル720Sに加わった最新作が720Sスパイダーである。基本的にはクーペと変わらず、昆虫の顔のようなフロント周りだけでなく、コクピットが前進した全体フォルムも工業製品というよりは生物のようで、マクラーレンの中でも異形異質なスーパースポーツカーである。クーペ同様、4ℓに拡大されたV8ツインターボをミッドシップ、その名の通り720㎰/7500rpmと770Nm/5500rpmを誇るが、街中や高速道路では2000rpm程度も回れば十分なドライバビリティも併せ持ち、単に転がすだけなら誰にでも可能。だが完全に乗りこなすことはよほどの上級者でなければ難しい。たとえばローンチコントロールでの全開加速時には(TCSを入れたままでも)、ちょっとでも路面のμが低いと大げさに姿勢を乱す。真価を発揮するのは一般路上では試せないような速度になってからだが、今回のこのスパイダーではそこまで試せなかった。もっとも、50㎞/h以下なら11秒で開閉する電動トップを備えたせいでおよそ50㎏車重が増えたスパイダー(1468㎏)でも、クーペと変わらないパフォーマンスを持つことはこれまでの経験から疑う余地はない。スピードが増せば増すほどステアリングフィールは研ぎ澄まされ、スタビリティはレーシングカー並みになる。ちなみに“バットレス”部分がガラス製に代わったことで斜め後方視界が向上したことは嬉しい驚きだった。ルーミーで視界良好なマクラーレンだが、斜め後ろだけは弱点だったからだ。




 600LTスパイダーも今年早々に追加された600LTのオープンモデルである。LT(ロングテール)の名称は、2015年にスーパーシリーズの650Sをベースにして作られた675LTで初めて使われたが、より軽量かつパワフル、さらに空力特性に磨きをかけたサーキット志向の硬派モデルと位置づけられていた。600LTスパイダーはスポーツシリーズの570Sをベースにしているものの、先代LT同様、よりスパルタンな高性能バージョンである。3.8ℓV8ツインターボは600㎰/7500rpmと620Nm/5500~6500rpmに引き上げられ、マクラーレンにしては珍しい大型の固定式リヤウィングとグランプリカーのような上方排気システムを備えたボディ、そして巨大なリヤディフューザーがいかにも攻撃的な雰囲気だが、720Sほど異形ではない。実際、乗り心地も720Sスパイダーに比べて明らかに締め上げられており、エンジン音も山道を普通のスピードで走っている限りではボロボロと不機嫌そうで、まったく気持ち良く感じるところはない。これまた、舞台を選ばなければ本当の実力を発揮できないのである。鞭を入れれば0→100㎞/h加速は2.9秒、最高速は324㎞/hというのだから、もはやスポーツシリーズの範疇を超えている。

 この3台の中で一番穏当と言うか、ベーシックなモデルは「スポーツシリーズ」の570Sである。繰り返すが0→100㎞/h加速は3.2秒、最高速は328㎞/hという高性能車だが、他のモデル同様、ただ走るだけならば特別な技術や経験は何も必要としない。マクラーレン・オートモーティブの第1作たるMP4-12C時代を考えれば、最新の570Sは大変にイージー・トゥ・ドライブだ。ターボエンジンの低速でのレスポンスも段違いに改善されているし、信号スタートで先頭に出るぐらいの加速なら、7速DCTもオートモードでせいぜい2000rpm程度でトントンと無造作にシフトアップしていき、何らの不満も漏らさない。タイトだがルーミーなコクピットからの視界は抜群。ドライバーズシートからの眺めの良さはマクラーレン各車共通の、いや、もっといえば20年以上前のあのF1ロードカーにも通じる美点である。




 一方で、街中や高速道路を走るだけでもその真価を感じやすいというのは720Sや600LTとの違いだ。サーキットでもない限り、爆発的に速い720Sに思い切り鞭を入れるのは難しいが、570Sは何とか一般道でも楽しめるギリギリの性能だ。以前よりはだいぶマシになったとはいえ、V8ツインターボエンジンは普段はゴロゴロ、ボーボーと不満げに回っているけれど、必要な場合は音など耳に入らないほどの爆発的なパワーを発揮して見せる。レブリミットの8500rpm近くまで回せば、2速で120㎞/hを超えるほどの、文字通り段違いの速さを持つことはお忘れなく。




 アクティブエアサスペンションのように融通無碍にフラットライドを保つ720SのPCCⅡ(プロアクティブ・シャシー・コントロールⅡ)に比べ、可変ダンパーを備えるもののごく常識的に硬い足まわりはスーパースポーツのサスペンションとして分かりやすく、こちらの方が違和感が少ないかもしれない。もちろん、速度が増すと正確さに素晴らしく繊細な手応えが加わるステアリングフィールは基本的に同じで、低速ではわずかに落ち着かなかった挙動も、ダウンフォースが生じると腰が据わってビシリと安定する。一般道でより扱いやすく、さらに何とかそのパフォーマンスを使い切れるという点に570Sの価値がある。




 初めから左足ブレーキを前提としているようなペダル配置、左右一体式のシーソー・シフトパドル(右を引けばアップ、右を押してシフトダウンも可能)、今時スイッチのひとつも備わらないシンプルなステアリングなど、どう見ても伝統的なレーシングカーの流儀と感じる点はマクラーレンすべてに共通する。ストイックに合理的に、そして徹底的に目標を追求するレーシングカーのDNAが刻まれている限り、どのようなマクラーレンもユニークなスーパースポーツカーであり続けるはずだ。

570S

マクラーレンのラインナップの基本といえる存在の570S。とはいえ僅か75㎏のカーボンモノコックシャシー、モノセルⅡにより1344㎏に抑えられた軽量ボディに570㎰/600Nmの3.8ℓV8ツインターボを搭載し、0→100㎞/h加速は3.1秒、最高速度328㎞/h、カーボンセラミックのローターと6ピストンのキャリパーを標準装備するなど、その性能は超一流だ。ボディは他にスパイダーもラインナップする。



マクラーレン570S


■ボディスペック


全長(㎜):4530


全幅(㎜):1930


全高(㎜):1202


ホイールベース(㎜):2670


車両重量(㎏):1344


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ


総排気量(㏄):3799


最高出力:427kW(570㎰)/7500rpm


最大トルク:600Nm(78.5㎏m)/5000~6500rpm


■トランスミッション


タイプ:7速DCT


■シャシー


駆動方式:RWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:ダブルウイッシュボーン


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)


■タイヤ&ホイール


フロント:225/35R19


リヤ:285/35R20


■性能


最高速度:328㎞/h


0→100㎞/h加速:3.1秒


■車両本体価格:2672万5000円

600LT Spider

重量の削減とレスポンスアップのために採用されたトップエキゾーストにより、オープン時にはさらに心地よいサウンドを味わうことができる。オープンボディとクーペでパフォーマンスの差は一切ない。
スポーツシリーズ最強の600㎰/620Nmを持つ600LTは、570Sよりも47㎜長いリヤエンド、張り出したカーボン製のフロントスポイラー、大型のリヤウイングなど、サーキットを視野に入れたエアロダイナミクス性能を持つ。


マクラーレン600LTスパイダー


■ボディスペック


全長(㎜):4604


全幅(㎜):1930


全高(㎜):1196


ホイールベース(㎜):2670


車両重量(㎏):1404


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ


総排気量(㏄):3799


最高出力:441kW(600㎰)/7500rpm


最大トルク:620Nm(61.2㎏m)/5500~6500rpm


■トランスミッション


タイプ:7速DCT


■シャシー


駆動方式:RWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:ダブルウイッシュボーン


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)


■タイヤ&ホイール


フロント:225/35R19


リヤ:285/35R20


■性能


最高速度:324㎞/h


0→100㎞/h加速:2.9秒


■車両本体価格:3226万8000円

720S Spider

4ℓの排気量から720㎰/770Nmを発揮するスーパーシリーズの720Sは、インテリアのデザインもスポーツシリーズとは異なる。可変式リヤウイングやリトラクタブル式メーターなど、本格的な走りを追求しながら、日常の快適さも持ち合わせる。新たに加わったスパイダーは、僅か11秒でフルオープンとすることが可能だ。天井部分はガラス製で、スイッチにより濃淡が可変できるエレクトロクロミックグラスが採用されている。



マクラーレン720Sスパイダー


■ボディスペック


全長(㎜):4543


全幅(㎜):1930


全高(㎜):1196


ホイールベース(㎜):2670


車両重量(㎏):1468


■パワートレイン


エンジンタイプ:V型8気筒ツインターボ


総排気量(㏄):3994


最高出力:527kW(720㎰)/7250rpm


最大トルク:770Nm(61.2㎏m)/5500rpm


■トランスミッション


タイプ:7速DCT


■シャシー


駆動方式:RWD


サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン


サスペンション リヤ:ダブルウイッシュボーン


■ブレーキ


フロント&リヤ:ベンチレーテッドディスク(カーボンコンポジット)


■タイヤ&ホイール


フロント:245/35R19


リヤ:305/30R20


■性能


最高速度:341㎞/h


0→100㎞/h加速:2.9秒


■車両本体価格:3788万8000円
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