ロータスが7月16日にロンドンで初公開し、その後世界各国を巡回中の、ロータス初にしてイギリス車初のフル電動ハイパーカー「エヴァイヤ」が9月8日に日本上陸。富士スピードウェイで開催された「ジャパンロータスデー2019」に、その姿を見せた! リチウムイオンバッテリーはカーボンファイバーモノコックにミッドマウント、その両サイドにはヴェンチュリートンネルを設置しDRSも採用という、まさに次代のEVハイパーカーだ。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢/ロータスカーズ
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ロータスと言えば日本では、漫画「サーキットの狼」で有名な初代「ヨーロッパ」をはじめ、古くは「セブン」や初代「エラン」、現行モデルでは「エリーゼ」にかつて存在したNAモデルがそうであるように、非力なエンジンを搭載するライトウェイトスポーツカーのイメージが根強い。
そのため、4つの電気モーターで最高出力2000ps、最大トルク1700Nm(いずれも目標)という数値を聞くと、およそ従来のロータスからは遠くかけ離れたもののように思えてしまうだろう。実際にこのパワー・トルクは、かのブガッティ・シロン(1500hp&1600Nm)さえ大きく凌ぐものだ。
さらに、0-100km/h加速3秒以下、0-300km/h加速9秒以下、最高速度320km以上といった桁外れのパフォーマンスや、各車軸に2基ずつ配置された電気モーターによる4WD&ESP&トルクベクタリングという、従来のプリミティブな2輪駆動とは真逆の駆動方式も、その印象に拍車を掛けている。
「Evija」(エヴァイヤ)という車名は、キリスト教における原初の女性「Eve」(イヴ)を由来とし、「最初の存在」「命あるもの」という意味を込めて名付けられているが、当日開催された発表会に出席した、ロータスカーズ販売&アフターセールス部門エグゼクティブダイレクターのジェフ・ダウィング氏が語る通り、「このクルマは初物尽くしであり、その名にふさわしいものになるだろう」。
だが、「Type 130」という伝統のタイプナンバーが与えられたこのエヴァイヤにも、ロータスのDNAはしっかりと受け継がれている。プロジェクトエンジニアリング担当のルイス・カー氏は、ロータスのDNAとして「軽量」「空力+ダウンフォース」「低重心」「ハンドリングと挙動のリニアリティ」「穏やかなレスポンス」の5つを挙げているが、少なくとも「軽量」「空力+ダウンフォース」「低重心」の3つはエヴァイヤにも継承されていると見て間違いない。
まず「軽量」に関しては、イタリアCPC社が供給するワンピース構造のカーボンファイバーモノコックを採用。その重量は前後サブフレームを合わせても129kgしかなく、バッテリー抜きでの車重は1080kg、そして最軽量仕様のバッテリーを含んだ車重は1680kgに留められている。
「空力+ダウンフォース」もロータスのお家芸と言えるものだが、エヴァイヤではパワートレインの搭載自由度が高いピュアEVの利点を活かし、より大胆かつ徹底した空力デザインが採用された。
リードデザイナーのバーニー・ハット氏によれば、エヴァイヤのデザインコンセプトは「ポロシティ」(多孔性)。まずフロントバンパー両サイドのダクトから入った空気はフロントタイヤの後ろへ抜け、ボディ側面へと流れ、またボンネット上の隙間から入った空気はウィンドスクリーンの前へ流れ、空気抵抗を低減しつつダウンフォースを増大させるよう設計されている。
さらに、ドアミラーを廃止する代わりに電動格納式カメラを採用することで、「Aピラーの気流が非常に上手く後方に流れるよう作られている」。そしてリヤには、フェンダー前部からバンパー両側へと抜けるヴェンチュリートンネルが設けられており、DRS(ドラッグリダクションシステム)用の可変フラップおよびウィングも装着するという徹底ぶりだ。
この「ポロシティ」コンセプトはインテリアにも踏襲されており、外からフロントガラス越しに見えるフローティングウィング型のダッシュボードがそれにあたる。
「低重心」に関しては、全長×全幅×全高=4459×2000×1122mmというワイド&ローのディメンションに加え、2000kWのリチウムイオンバッテリーパックをミッドマウントしているのが大きな特徴。
ハッチバックやセダン、SUVをベースとしたEVではホイールベース間のフロア床下に駆動用バッテリーを搭載するのが一般的だが、エヴァイヤはこれにより1122mmという低全高を実現しつつ、ハイパーカーらしいデザインや空力、ハンドリング、乗員2人に充分な居住空間、さらにはEVレース中の脱着・交換作業をも想定したメンテナンス性も兼ね備えている。
なお、このバッテリーパックは、現時点では製品化されていないものの、最大出力800kWまでの充電器に対応。既存で最も強力な350kWの充電器を用いても12分での80%充電、18分での満充電を可能にしている。満充電時の航続距離はWLTP複合モードで400km、かつ最低7分間は出力レベルを下げることなくフルパワーを維持できるという。
このウィリアムズ・アドバンスド・エンジニアリング社製バッテリーパックから供給される電力は、インテグラル・パワートレイン社製の電気モーター2基およびSiC(炭化ケイ素)インバーター、Xtrac社製シングル式ヘリカルギヤ遊星ギヤボックスを用いたトランスミッションを組み合わせた、前後それぞれの車軸に搭載される「E-Axle」に供給される。
そこから発生されるトルクはドライブシャフトを経て、フロント20インチ・リヤ21インチのマグネシウム製ホイールと、専用開発のピレリPゼロ・トロフェオRへと伝達される。組み合わされるブレーキはカーボンセラミックディスクと鍛造アルミキャリパーを用いたAPレーシング製だ。
「ハンドリングと挙動のリニアリティ」と「穏やかなレスポンス」については、前述のカーボンモノコックと空力設計に加え、電動油圧パワーステアリングや、前後車軸ともコーナーダンパー2本、ヒーブダンパー1本で構成されるマルチマチック社製ダンパーを採用したプッシュロッド式ダブルウィッシュボーンサスペンションもこれに寄与。
また、エコ/シティ/ツアー/スポーツ/トラックからなる5種類の走行モードを備えており、ル・マンプロトタイプカーやF1マシンを彷彿とさせる楕円形ステアリングの中央下部に設けられたダイヤルで、走行状況や好みに応じて自由に切り替えられるようになっている。
そのほか、ハイ/ロービームともにレーザー式としたドイツ・オスラム社製ヘッドライト、ディヘドラルドア、LG製フルデジタルメーター&ディスプレイ、ハニカム形状のタッチ式ボタンを備えたセンターコンソール、ソフトウェアのワイヤレスアップデートも可能なインフォテインメントシステムなど、ロータス初採用となる技術は枚挙に暇がない。
ロータス130番目のモデルにして、新時代のロータスを象徴するモデルとなるであろうエヴァイヤは、そのタイプナンバーにちなんで130台のみ、2020年よりイギリス・ヘセルのロータス本社に設けられるエヴァイヤ専用の施設で生産される計画。
工場渡し価格は180万~200万ポンド(1ポンド=130円換算で2億3400万~2億6000万円)を予定しており、別途輸送費と登録諸費用が必要。ロータスカーズのサイト(https://www.lotuscars.com)より予約を申し込み、25万ポンドの手付金を支払うと、先着順で生産枠が確保される。巡回済みのヨーロッパやアメリカではすでに受注が好調に推移しているというから、130台の行き先が全て決まるのはそう遠い日のことではないだろう。
【Specifications】
<ロータス・エヴァイヤ(M-AWD)>
全長×全幅×全高:4459×2000×1122mm ホイールベース:不明 車両重量:1680kg 最高出力:1471kW(2000ps) 最大トルク:1700Nm(173.3kgm) WLTP複合モード航続距離:400km 車両価格(予定):180万~200万ポンド(1ポンド=130円換算で2億3400万~2億6000万円)