日産GT-R50周年記念モデルに試乗した。2020年モデルである。R35 GT-Rは、2007年発表、つまり2008年モデルがスタートというわけだから、すでに13シーズン目ということになる。異例に長寿なスーパースポーツを450kmほどドライブしてみた。
とはいえ、そのR35 GT-Rの「2020年モデル」に試乗する機会があろうとは思ってもみなかった。なんといっても13シーズン目なのだ。2008年といえばポルシェ911は前の前のモデル(997型)、V8ミッドシップ・フェラーリのF8トリブートも同じく前の前のモデルF430の頃だ。ランボルギーニ・ウラカンだって先代のガヤルドだった時代だ。
日産GT-Rだけが毎年のような技術改良を受けながらずっとほぼ同じカタチで作り続けられていたのだ。
ときどき試乗する機会があったので、さすがに2008年モデル以来というわけではないが、2020年モデルに乗って純粋に驚いた。
全然古臭くない。洗練されていて、運転していて楽しい。依然として素晴らしいクルマだったのだ。せっかくだから2008年2月に撮影した写真と比べながら2020年モデルの印象を紹介したい。
ワンガンブルーに白いストライプという、ド派手なルックスは、どこへ行っても目立つこと目立つこと。子供達に人気で、高速道路で小学生に手を振られたこと数回。今どきの子供から見ても「普通じゃないなんかスゴイクルマ」に見えるのだろう。
2008年モデル
2020年モデル 50周年記念車
2008年モデルも2020年モデルもエンジンの型式はVR38DETT型で変わらない。排気量も3799ccで変わらない。スペックの比較をしてみよう。
最高出力:08モデル 480ps/6400rpm 20モデル 570ps/6800rpm
最大トルク:08モデル 588Nm/3200-5200rpm 20モデル 637Nm/3300-5800rpm
だ。出力で90ps、トルクで49Nm。これが13年の進化だ。
08モデルでも充分以上にパワフルだったVR38DETTだが、20年モデルで感じたのは、「洗練」だ。荒々しくないが、パワフル。いつどこでどんな状態でアクセルを踏んでも大きなボディがググっと前へ出る。3.8ℓという大排気量、単気筒容積633ccが生み出すトルクはさすが。昨今のダウンサイジングターボとは同じターボで生い立ちが違う。
エンジン以上に違いを感じるのがGR6型6速デュアルクラッチトランスミッションだ。
GR6型6速DCT
1速:4.056
2速:2.301
3速:1.595
4速:1.248
5速:1.001
6速:0.796
後退:3.383
最終減速比:3.700
という変速比はデビュー当時から変わらず。08年モデルでは変速のたびにシフトレバーの下のGR6本体内部で、「十数人の小人がカチャカチャシフトフォークを動かして変速してくれてる」感じだったのが、年を追うごとに小人の人数が減り、20年モデルではカーテンの向うに小人の影が時々うっすら見えるくらいになった。
100km/h巡航時のエンジン回転数は2100rpmほど。昨今では高めなのは、6速だからだ。
2008年モデル
2020年 50周年記念車
乗り心地にも驚いた。08モデルでは、とにかく脚が固められていて、強固なボディのおかげで不快ではないものの、乗り心地はけっしていいものではなかった。当時は、「スーパースポーツとはこういうもの」と思っていた。移動の際は、ダンパーのモードを「COMF」(コンフォート)にして乗っていたが、20年モデルはNORMALでも乗り心地が悪くない。これまた「洗練」だ。
昨今流行りの先進ドライバー支援システムを07年デビューの車に求めるのはナンセンスだ。しかし、GT-Rに乗っていると運転が楽しいので、ACC(オートクルーズ)など使いたいと思わないし、ステアリングのフィールもいいので、自動ステアしてほしいとも思わない。いまや圧倒的に少数派となった油圧パワステのしっとした感覚は、乗ってみないと味わえない美点のひとつだ。
じつは一番驚いたのはインテリア
20年モデルのGT-Rに乗って(乗り込んで)一番驚いたのはインテリアの質感だ。インパネの質感もシートも20年モデルにふさわしい「いいモノ感」があった。基本の造形は新しくないが、デビューから13年も経つモデルのインテリアをここまでリファインした日産デザイン陣、内装部品メーカー、シートメーカーの手腕にちょっと感動した。
スーパースポーツ日産GT-Rの最新モデルに乗る、と行ってもサーキットで全開走行したわけではないし、箱根のワインディングに持ち込んでスポーツ走行したわけでもない。(もしGT-Rを買ったらドライブしている時間の90%以上はこうであろうと思われる)通勤や買い物、郊外へのちょっとしたドライブをしてみた。
それでもGT-Rはどんなときも適度な手応えがあって、クルマを意のままに動かす歓びがあった。ドライビングスキルがあればあっただけ引き出せるものが違うのだろうが、腕がなくても、それこそ初心者でもGT-Rは走る歓び、自分の操作に正確に反応してくれる快感が味わえる。
燃費は意外にもよかった
今回454km走って、9.2km/ℓだった(平均速度41.8km/h)。本格的なスポーツ走行なし、渋滞ありでの数字だ。意外に悪くない。
ちなみに50周年記念車の燃費は
燃費:WLTCモード 7.8km/ℓ
市街地モード:5.2km/ℓ
郊外モード:8.4km/ℓ
高速道路モード:9.4km/ℓ
だから、WLTCモード燃費より24%ほど良好な結果だった。
08年モデルの燃費が10・15モードで8.2km/ℓだったから、この13年間でGT-Rは、より速く、より快適に、より燃費がよくなったのである。これを進化と言わずしてなんだろう。
R35 GT-Rに2021年モデルがあるのかはわからないが、依然として(お金があったら)欲しいクルマのリストの上位にあるモデルである。いいなぁ、GT-R。
日産GT-R 50th Anniversary
全長×全幅×全高:4710mm×1895mm×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1770kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式
駆動方式:AWD
エンジン
形式:3.8ℓV型6気筒DOHCターボ
型式:VR38DETT型
排気量:3799cc
ボア×ストローク:95.5×88.4mm
圧縮比:9.0
最高出力:570ps(429kW)/6800pm
最大トルク:637Nm/3300-5800rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:74ℓ
燃費:WLTCモード 7.8km/ℓ
市街地モード:5.2km/ℓ
郊外モード:8.4km/ℓ
高速道路モード:9.4km/ℓ
トランスミッション:6速DCT
車両本体価格:1351万6200円
試乗車はオプション込みで1380万2088円