当代きってのホットハッチとして名を馳せるスズキ・スイフトスポーツ。サーキットでも、ワインディングでも、その高い運動性能は多くのエンスージアストを唸らせる。だがこのスイフトスポーツ、なにもそんな熱血スポーツ派のためだけにあるわけではない。とりわけ現行型は上質感にあふれ、週末のドライブでも十分にその魅力を味わえる。真夏の週末、250kmのショートトリップでスイスポの真髄に触れてみる。
REPORT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
6速MTのシフトフィールは絶品! ペダル配置も文句なし
ホイールハウスの干渉を受けやすいコンパクトなFFハッチバックながら、オフセットのない見事なペダル配置を実現している。
スイスポのボディサイズはBセグメントのなかでもコンパクトな部類に入るが、右ハンドルの3ペダルモデルながらしっかりフットレストまで備えているのは秀逸と言うべきだろう。
そのフットレストから左足を持ち上げる際に、足の甲がクラッチペダルの裏側に当たることもない。フットレストがあるというだけでなく、しっかりスペースも確保されているのだ。筆者の足のサイズは27.5cmで、日本人男性の平均より少し大きいといったところか。NFLやNBAには30cmを越える巨大な足の持ち主がザラにいるそうだが、彼らでもなければスイスポのペダル配置に不満を覚えることはないだろう。
結局、国立府中インターチェンジから八王子インターチェンジを過ぎた辺りまでの15kmほどの区間で流れが良くなったものの、圏央道と交わる八王子ジャンクションの手前からまた混み始め、相模湖インターチェンジで降りるまで渋滞は続いた。
高速道路ながら平均速度は46km/hにとどまり、とくに八王子から相模湖まではずっと上り坂が続くセクションではあったが、カタログ値(JC08モード)の16.4km/Lと同等の16.5km/Lを記録したのはなかなか立派である。
参考までに、80km/h巡航時の6速でのエンジン回転数は2100rpmだった。
相模湖インターチェンジで一般道に降り、国道20号線から逸れてローカル線に入る。このコースはアップダウンやコーナーに富み、そのうえ交通量が少なく快適に走れる一方、所々狭くなったり、いくつかの集落の中を抜けるため、速度は控えめに抑える必要がある。
それがむしろ、目を三角にしてタイヤを鳴かせてばかりでは見逃してしまいがちな微かな挙動や振動、滑らかさや突っ張り感などに気づかせてくれるため、筆者のお気に入りのルートとなっている。
超絶レスポンスを生み出した、ある仕掛けとは?
ワインディングロードで光るのは、直列4気筒1.4L直噴ターボ「K14Cブースタージェット」エンジンの、過給器付きとは思えぬレスポンスの良さだ。
これには明確な理由があって、スイスポのK14Cユニットは、ウエイストゲートをノーマルクローズ制御として低負荷時からタービンの回転を上げておき、燃費よりも過給応答性を重視しているのだ。現代の一般的なターボエンジンは低負荷時にウエイストゲートを解放して吸排気損失を減らしている。ただしこれだと、いわゆるターボラグが発生する。多くの場合、AT、DCT、CVTの制御などでこれを補っているのだが、純血スポーツカーのスイスポは正面切ってレスポンスを最優先させた。
さらに根本的なことを言えば、先代スイスポが1.6L自然吸気だったゆえに現行スイスポの1.4Lターボが「ダウンサイジングターボ」と表現されることがあるが、考えてみればこのボディサイズに1.4Lはとくに小さいわけではない。「ライトサイジング」な排気量に過給を加えた、あくまでパフォーマンス重視のエンジンなのである。
そして特筆すべきは、ヤンチャに思われがちなホットハッチながらサスペンションの味付けが実にしっとりとしていて、足回りがドタバタしたり不快な突き上げを感じさせられることが一切ないことだ。
堅牢なボディとしなやかなサスペンションで、路面を常にがっしりと鷲掴みにしているような感覚で、快適なのはもちろん安心感も高い。価格やキャラクターを考えるとなかなか思い浮かばない言葉だが、やはりこれは「上質」と言うほかないだろう。
そして先ほど「パフォーマンス重視」と述べたエンジンではあるが、この山坂ステージで16.1km/Lもの燃費をマークしたのだから環境性能も合格点だろう。やはり軽量コンパクトは正義なのだ。
ちなみにこのセクションは、筆者が独自に設定した片道60kmほどのルートを単純往復したため、上り坂があれば同じだけ下り坂もあることになる。
今回も調布インターチェンジ過ぎまで22.0km/L以上もの数値が表示され続けていたが、そこからの上り坂渋滞でもそれほど燃費が悪化しなかったのが意外だった。結局、永福インターチェンジを降りた時点での燃費は20.7km/Lと、真夏の週末の渋滞に巻き込まれたとは思えない数値を叩き出したのだ。
ただし、この数字だけを見て「20km/L以上!」と騒いでも意味はない。あと数kmほど渋滞のなかを走っていれば20km/Lを切っていただろうし、燃費なんて状況や走り方次第で二転三転する。
とはいえ頻繁に今回の試乗コースを走っている筆者個人の感覚からすると、やはり今回のスイスポの燃費はかなり優秀だ。しかもスイスポがエコカーではなく、サーキット走行も視野に入れたスポーツカーであることを考えれば、その印象はより強まる。
かように、渋滞に巻き込まれながらの週末ドライブでもこれだけ楽しめ、上質感に浸れて、おまけに燃費も優れているのがスイスポなのである。こんなスポーツカーが200万円を切る価格で買えるなんて、我々ニッポンのクルマ好きは恵まれているとしか言いようがない。
スイフトスポーツ
全長×全幅×全高:3890×1735×1500mm
ホイールベース:2450mm
トレッド(前/後):1510/1515mm
車両重量:970kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1371cc
圧縮比:9.9
最高出力:103kw〈140ps〉/5500rpm
最大トルク:230Nm/2500-3500rpm
燃料タンク容量:37L
トランスミッション:6速MT
駆動方式:フロントエンジン・フロントホイールドライブ
乗車定員:5名
サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/トーションビーム
タイヤサイズ:195/45R17
JC08モード燃費:16.4km/L
車両価格:183万6000円/192万2400円(セーフティパッケージ装着車)/198万9360円(セーフティパッケージ&全方位モニター用カメラパッケージ装着車)