低コストでシンプル。できることに限りはあるけれど、仕止めるシーンでは確実に仕事をする。日産/マツダが採用していたe・4WDを振り返ってみる。
近年、FF車の後軸に付与するだけで(機構的には)かんたんに全輪駆動化できる!——というeアクスルが国内外のサプライヤから多く提案されている。エンジントルクをデファレンシャルで分配せずともよく、プロペラシャフトも要らず、それに伴う機会損失もない。高付加価値化に大いに寄与するシステムである。
ハイブリッド車の高電圧二次電池を用いてモータを駆動、減速時には回生が可能。さらにこのところでは48Vシステムを用いるマイルドハイブリッドシステムとして同様の機械構成をとる4WDも現れ始めた。
しかし、2002年という早い時期に同等のシステムを日立オートモティブシステムズが実用化している。採用したのは日産、のちにマツダも続いた。「電動4WDシステム」と称するその装置は日産では「e・4WD」の名称で搭載された。特筆すべきは、この「e・4WD」が載せられたのがマーチ/キューブというBセグメント車だったことである。
重厚長大のクルマなら多少のコストアップが生じても購入者に負担増の心的ストレスは少ない。しかしBセグ車という廉価帯のクルマだとそうはいかない。そこで本システムはユニークなメカニズムをとることとなった。バッテリーを備えないダイレクト給電としたのである。
オルタネーターでDC14Vを発電、モーターへ最大42Vを印加し後軸を駆動する仕組み。オルタネーターは小型化と安定化を両立させるために水冷構造とし、ステータ、ダイオードなどをダイレクトに冷却している。パフォーマンスは4.5kW。モーターはDC式で、整流子まわりの耐久性と安定性について、材質の選定から放熱経路を含めたレイアウトなどに多くの工夫が盛り込まれている。出力は3.5kW。オルタネーター/モーターともに、日立AS社は実績のある製品を基に開発を進めたことも特徴である。
蓄電装置を備えないことでコストを抑えることに成功、ただしその代わり回生エネルギーを得ることはかなわなくなった。動力混成という意味ではハイブリッドなのだが、厳密にはハイブリッド車の範疇に含まれないクルマとなった。
前輪の空転を検知するとコントローラーがアクセル開度からモーターに必要なトルクを演算、後軸を駆動する。モーターだけに瞬時の駆動が可能で、氷雪路などのスリッピーな発進時に大いに寄与する。作動域は0〜30km/h。3.5kWという出力については「国内でも条件の厳しい北海道は小樽の圧雪路で、20%勾配の上り坂をフル乗車状態で発進できること」を基準に定められたという。
ユニークなのはOn-Offスイッチが備わること。個人的には常時Onのシステムとしておいて、さりげなくシステムが発進アシストしてくれる——でいいと思うが、システムの存在とありがたみを感じたいというニーズに応えた格好である。しかし動作自体は極めて自然で、大仰な作動音がするわけでもなく明らかに体感できる大トルクが得られるわけでもなく、いつもどおりにアクセルを踏むと(本来は発進に難儀するようなシチュエーションなのに)普通に発進できるというのが何よりのメリットである。
2018年7月、ノートe-POWERに4WD仕様が追加された。「モーターアシスト式」と書かれているとおり、このクルマも「e・4WD」を搭載する一台。リヤアクスルユニットはまったく同じものが使われている。
異なるのは電源関連。従来型e・4WDは先述のように水冷式オルタネーターから直接モーターへ給電する電源構成だが、e-POWERの4WD仕様は駆動用の二次電池を積んでいるので電源には事欠かない。ただし、292Vと高圧のためにコンバータを新設搭載して降圧、モーターに印加する仕組みとした。構成からすれば回生も可能だと思われるが、果たしてどうだろうか。機会を見てうかがってみたい。
フロント/リヤともにモーター駆動にしたことで、応答性はエンジン+トランスミッションから桁違いの性能を得た。日産はノートe-POWERの4WD仕様試乗会をスケートリンクで開催、こともなげに発進するその様は、通常のクルマの氷上挙動を知る人なら驚きの一言だろう。
【ノート】日産初!スケート場で #日産ノートePOWER 4WD試乗会