マツダの最新の取り組みを紹介する毎年恒例の一般向けイベント「サステイナブルZoom-Zoomフォーラム2019 in横浜」が6月22~23日の2日間、マツダR&Dセンター横浜で開催。12回目となる今回は、5月24日に国内販売が開始された新型マツダ3の開発秘話や最先端技術を学び、体感できる内容となっていた。
PHOTO&REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
最初に行われた講演「『走る歓び』によってマツダが目指すものとは」では、2017年8月に公表された技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」において、今回のフォーラムのコンセプトでもある「美しい地球と心豊かな人・社会の実現を使命と捉え、クルマの持つ価値により、人の心と体を元気にすることを追求し続ける」マツダの取り組みを紹介。
「地球」の領域ではWell-to-WheelでのCO2削減に寄与するSKYACTIV-Xや軽量化技術、「社会」の領域では人間中心の自動運転コンセプト「Mazda Co-Pilot Concept」の実証実験を2020年に開始し2025年までに標準装備化すること、「人」の領域では「人馬一体」の走りと「魂動デザイン」の進化を、その具体例として採り上げた。
続いて、先代アクセラの開発を指揮したマツダ商品開発本部長の猿渡健一郎氏による講演「マツダが考える人間中心の開発哲学とは」では、骨盤を立て脊柱をS字の状態にすることで頭の揺れを抑え、視線が地面に対し平行になるようバランスを取る、人間の歩行中の状態に近づけるべくシートやボディ、シャシーが設計された「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」の考え方を説明した。
ここでは実際に、上半身を左右に揺らした際に背筋を伸ばした状態と曲げた状態とでバランスの取りやすさがどのように変わるかを、来場者も一緒に体験。特に、数人の来場者が健康器具「ながらウォーク」に座って試した時には違いがハッキリ現れ、猫背の状態では倒れそうになる場面もしばしば見られた。
同社シニアイノベーションフェローの人見光夫氏による講演「環境に対する内燃機関の役割~SKYACTIV-Xと内燃機関の将来展望~」では、BEVによるCO2削減はバッテリー容量および保有台数、電力の発電手段などによってその効果が大きく低下するなどの理由から、内燃機関の効率を現状より25%以上高めればBEV以上のCO2削減効果が得られるとし、「SKYACTIV-X」を開発した経緯を解説。また、同エンジンにSPCCI(スパークプラグによる点火を制御因子とした圧縮着火)を用いることで、希薄燃焼が可能な領域を大幅に拡大したことを説いた。
同講演のQ&Aコーナーでは、多くのマツダファンが気にしているであろうロータリーエンジンの将来について、来場者から質問があった。これに対し人見氏は「研究開発は続けているので、もう少しマツダに財務力がついたらロータリーエンジンを搭載したスポーツカーが出せるようになるでしょう。だから(現行モデルを)買って下さい」と答え、会場の笑いを誘っていた。
また、マツダ3チーフデザイナーの土田康剛氏による講演「魂動デザインの深化とMAZDA3デザイン」では、日本古来の美意識「引き算の美学」に根ざした内外装デザインに加え、セダンとファストバックで大きく異なるエクステリアデザインの由来について解説。
ファストバックについて来場者から「居住性や視界、快適性とのせめぎ合いをどう解決したか?」と問われると、「現在はハッチバック車とSUVとで販売台数が逆転しており、従来ハッチバック車に求められていたそれらのニーズはSUVに移行しています。そのためマツダ3ファストバックではスポーティなデザインに特化させました」と、その経緯を説明していた。
そして、マツダ3開発主査の別府耕太氏によるトークショー「MAZDA3開発秘話&記念撮影」では、「初代CX-5から始まった新世代商品群が一巡し、アーキテクチャーを見直す時期に新型マツダ3が当たったため、その開発にはもの凄いプレッシャーがあった」と心情を吐露。
司会を務めた自動車ジャーナリストの真鍋裕行氏から、新型マツダ3のグレード・仕様の選び方について質問されると、「買い物や通勤、一泊二日の旅行ならガソリン車で充分満足できます。遠出の割合が多いならディーゼル車の方が疲労が少なくランニングコストも節約できます。SKYACTIV-X搭載車は『俺はマツダ上級者だ、マツダ車を愛している』という方が『人馬一体』を味わうのに最も適した、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの長所を併せ持ったものになっています」と、用途に応じた選び方を指南していた。
このほか展示・デモコーナーでは、撮影は許可されなかったものの、将来に向けた技術として、操舵中の脳の状態を検知することで「人馬一体」の走りを科学的に検証するMRIドライビングシミュレーター、視線移動のパターン解析にサリエンシーマップと呼ばれる計算論モデルを用いることで居眠りや心臓発作など正常な運転が困難になる状況を事前に察知する技術も紹介。「人馬一体」および予防安全性能のさらなる進化と全車種への展開を予感させてくれた。