MQBコンセプトで発表された新型ガソリンエンジンシリーズ・EA211が登場したのが2012年。ダウンサイジングの旗手と自他ともに認める主力機種だったエンジンが、排気量を拡大した。なぜ拡大したのか。拡大すると何が楽になるのか。フォルクスワーゲンの思惑を探ってみる。
TEXT:世良耕太(Kota SERA)
フォルクスワーゲン(VW)は2016年、1.5ℓ・直4直噴ターボのガソリンエンジン、EA211 TSI evoを発表、同年第四四半期から量産を開始した。「evo」の名称から推察できるように、このエンジンはEA211 TSIの進化バージョンである。もっと言えば、05年にEA111で導入した直噴過給エンジンの最新型で、第4世代にあたる。
過給を行なうと、自然吸気(NA)エンジンよりも小さな排気量で同等の出力/トルクを発生させることができる(エンジン本体は軽くできるし、機械抵抗は減り、ポンピングロスも減らせる)。低回転から十分な低速トルクを発生させることができるので、NAのようにエンジン回転を高める必要がなく、常用回転数を低下させるダウンスピーディングが実現(その常用回転域は燃費率の良好なゾーンで、NAより広い)。その結果、燃費向上につながり、静かに走れる。低回転から十分な力が出るので(モーターの特性に近い)、気持ち良く走れる。ただし課題は過渡応答性で、そのために初代のEA111はターボチャージャーにスーパーチャージャーを加えたツインチャージャーとしていた。スーパーチャージャーを取り払い、ターボのみのシングルチャージャーとしたのが第2世代で、08年に投入。小径ロープレッシャーターボとし、エンジン回転が低い状態でも過給圧が素早く立ち上がるようにした。10年には1.2ℓ版(1.4ℓ版と同じく4気筒。コストを重視して各気筒2バルブ)を追加している。
11年、MQBと呼ぶ新しいプラットフォームの導入に合わせ、EA211と呼ぶ第3世代に移行した。MQB以前のガソリンエンジンは前傾して搭載していたが、EA211はディーゼルに合わせる格好で後傾して搭載。吸排気の方向は逆になり、吸気前/排気後ろに変更された。1.4ℓ版のボアは76.5mmから74.5mmに変更され、ストロークは80.0mmに伸ばされた(ストローク/ボア比1.07)。合わせて1.2ℓ版も1.4ℓ版と共通設計に生まれ変わった(ボア71.0mm×ストローク75.6mm。今度は各気筒4バルブである)。また、1.0ℓ・3気筒版(ボア74.5mm×ストローク76.4mm)が追加された。