マツダは2019年4月のニューヨーク国際自動車ショーでCX-5のディーゼル仕様のアメリカ市場投入を発表した。伝統的にディーゼルの人気が低いアメリカでマツダのディーゼルは成功するだろうか?
まずは、日本仕様と北米仕様を比べてみよう
2019年のCX-5のアメリカでの販売台数は15万622台で、アメリカ最も人気が高いマツダ車である。日本や欧州では2.2ℓ直4ディーゼルターボのSKYACTIV-D2.2を搭載したCX-5の人気が高いが、アメリカではディーゼル仕様の設定がなかった。
その理由の第一は、そもそも北米市場でディーゼルの人気が伝統的に低いこと。第二の理由は、日欧とは違う厳しい環境規制に対応するコストが期待される販売台数に対して割に合わないから、というになるだろう。過去にもホンダが北米にクリーンディーゼルを導入すると発表したが、結局断念している。
それでもマツダがディーゼルをアメリカに導入するのは、SKYACTIV-Dの技術に自信があるから、そしてプレミアムセグメントに入っていくためのひとつの武器としてプレミアムなディーゼルを打ち出したいからだろう。
さて、では北米仕様のSKYACTIV-D2.2を積んだモデルを見ていこう。SKYACTIV-D2.2を選べるのは最上級グレードのCX-5 Signature AWDである。価格はMSRP(税抜きのメーカー希望小売価格)で4万1000ドルである。
1ドル=110円換算で451万円である。
日本での価格は最上級のXDエクスクーシブモードAWD 6ATで388万2600円(税込)だから、451万円(8%の税をのせると487万円となる)北米の価格はざっと100万円弱日本より高い。装備が異なるから価格を比べるのに大きな意味はないかもしれないが、価格差のうちのある部分は北米専用の燃焼制御や排出ガス浄化システムが占めているだろう。日本仕様のSKYACTIV-D2.2は尿素SCRシステムなしで規制に対応しているが、北米のステージ5に対応するために、北米仕様のCX-5のディーゼルには尿素SCRシステムを搭載した。ちなみに北米仕様のエンジンも生産は日本(広島)だ。またバイオディーゼルにも対応していてB5(5%)までならバイオディーゼル燃料の使用可能だ。
次はパワースペックをくらべてみる。
となる。北米仕様はずいぶんと出力・トルクともに落としてあるわけだ。これも規制対応のため、なのだろう。
次に同じ北米仕様でディーゼルとガソリンで比べてみる。北米CX-5のガソリン仕様は、2.5ℓの自然吸気とターボの2種類ある。ここでは2.5ターボ(SKYACTIV-G2.5T)と比べてみる。
となる。ディーゼルの魅力である大トルクの部分でG2.5Tに負けている。G2.5Tのスペックは日米でほぼ同一だ。
その北米の2.5ℓターボ(G2.5T)は、CX-5 Signature AWDという同じ仕様で3万6890ドル(405万7900円)だからD2.2Dとの価格差は4110ドル(45万2100円)になる。
日本のG2.5TとD2.2の価格差はほぼないに等しい(同じ仕様で5400円ディーゼルが高いが)。
日欧でディーゼルが人気があるのは、燃費性能が高いから、ということもある。北米CX-5ディーゼルの燃費はどうだろう?
CX-5 D2.2:EPA city 11.5km/ℓ highway 12.8km/ℓ Combined 11.9km/ℓ
CX-5 G2.5T:EPA city 9.4km/ℓ highway 11.5km/ℓ Combined 10.2km/ℓ
もちろん、ディーゼルの方が燃費がいい。
しかし、北米では燃料が安いのだ。
最もガソリン価格が高いカリフォルニアでは1ガロン3.6ドル程度。最も安い中西部では1ガロン2ドル程度である。
北米で平均すると
レギュラーガソリンが1ガロン2.85ドル
プレミアムガソリンが1ガロン3.47ドル
軽油が1ガロン3.15ドル
1ガロンは3.785412リットルだから
レギュラーガソリンが0.753ドル=82.8円
プレミアムが0.917ドル=100.9円
軽油が0.832ドル=91.5円
なのだ。つまり、レギュラーガソリンより軽油の方が高いのである。もともとガソリンが安くて燃費を気にしないお国柄ゆえ、燃費性能でディーゼルをアピールするのは難しい。大トルクで売るには、アメリカには大排気量V8、V6がゴロゴロしている。
アメリカでマツダのSKYACTIV-D ディーゼルが受け入れられるか? 約束通り北米にディーゼルを導入した心意気は買うが、価格、パワースペック、燃料費的メリットを考えたとき、合理的なアメリカ人がディーゼルを好んで選ぶというのは難しいだろう。45万円の価格差は燃料代では取り戻せないのだから。
北米でのSKYACTIV-Dの売れ行きに、今後も注目していきたい。