スウェーデンからやってきた、「白い矢」という意味のネーミングを持つネイキッドモデル、「ヴィットピレン701」に試乗する機会を得た。700ccというキャパシティを持つビッグシングルエンジンと250ccクラスにも比肩する軽量な車体がもたらす、鮮烈極まりない走りを堪能する。
TEXT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
都会派のように見えて、とんでもない武闘派
なにしろオシャレで前衛的なデザインである。現代彫刻のようなタンクからスパッと切り落とされたようなテールカウルに至るまで、まるでコンセプトモデルにそのまま保安部品を付けたような風体で、オーセンティックなネイキッドスタイルながらほかの何にも似ていない。
シート高は830mmと、けっして低くはない。身長174cm、体重75kgの筆者が両足を地面に降ろすと、かかとがわずかに浮く。ハスクバーナはスウェーデンにルーツを持つブランドで、現在はオーストリアのKTMの傘下にある。平均身長の高さでは世界でも指折りの国々であり、そんな彼らがつくるバイクのシート高に日本人が口を挟む余地はない……とはいえ、157kg(燃料を除く)という250ccクラス並みの軽量さのおかげで、実際のところそれほど不安は覚えないはずだ。
個人的にはネイキッドながら足つき性よりも乗車姿勢を優先した、スーパースポーツのような設計思想に共感を覚えた。
エンジンをかけると、ダダダダダダダダッと、威勢のいいアイドリング音が響き渡る。クラッチをつなぐと、ビッグシングルらしく即座にリヤタイヤが地面を蹴り上げるような強大なトルクが発揮され、身体が後ろに置いていかれそうになる。
これだけトルクがあるのだから早めのシフトアップで低回転域の鼓動を味わおうと、すぐさま2速に入れると、ガッガッガッガッとギクシャクしてまともに走れない。あわてて1速に落とすと、今度はまたしても極太トルクで猛然と加速する。
これだけオシャレな見た目で、ビッグシングル……。街中をトコトコと流す都会派かと思いきや、このバイク、トコトコ走れません。
それではと、上までキッチリ回してみる。ビッグシングルだし、どうせすぐに頭打ち感が来るだろうと高をくくっていたら、いやいや回る回る! そして痛快極まりない炸裂感! 車体の軽さも相まって、まさに放たれた矢のように加速していく。
乗り手に「本気」を要求してくる
今回の試乗コースには、駐車場内に設けられたパイロンスラロームのようなステージが用意されていた。広さはざっと100×20mほどで、それほどスピードは出ない。そもそも、スピードを出して限界を試すような主旨の試乗会ではない。
だが、これだけ元気のいいエンジンと軽量な車体ならば、こんな小さなパイロンスラロームも楽しいだろう。そう思いながらコースインしたのだが、なんだか安心して曲がれない。車体が不安定というわけではないのだが、乗り手が得られる接地感がいまひとつなのだ。とくに問題はないけれど、コーナリングを楽しむという感覚ではない。
これはおそらく、もっとスピードを乗せ、荷重移動を積極的に行ってこそ本領を発揮するセッティングなのだろう。たら〜っとメリハリのない運転だと、バイクのほうもあいまいなインフォメーションしか返してくれないのだ。
ただしこれには補足が必要で、ヴィットピレン701のフロントフォークは伸び側、縮み側ともに減衰力を調整可能なのだが、筆者は初期設定のまま試乗していたのだ。もう少しサスペンションを動く方向に調整すれば、低い速度域や穏やかな荷重移動でも確実なフィードバックが得られるようになるかもしれない。
つまりこのバイクは、見た目にだまされてはいけないということだ。洗練されたデザインとスリムな車体からは想像出来ないほど、ヴィットピレン701は尖っている。
足つき性よりも乗車姿勢を優先したシート高に始まり、とにかく回りたがるビッグシングルエンジン、やたらと威勢のいいエキゾーストノート、そして半端な荷重移動を受け付けないサスペンション設定など、どこを取ってもライダーに「本気」を要求してくるバイクなのだ。
ウデに覚えのあるアナタがサーキットやワインディングで気合いを見せれば、ヴィットピレン701はしっかりそれに応えてくれるだろう。
ハスクバーナ・ヴィットピレン701
シート高:830mm 車両重量 :157kg(燃料を除く) エンジン型式:水冷4ストローク単気筒OHC 総排気量:692.7cc ボア×ストローク:105×80mm 最高出力:55kW(75ps)/8000rpm 最大トルク:72Nm/6750rpm 燃料タンク容量:12L トランスミッション:常時噛合式6段リターン フロントタイヤ:120/70ZR17 リヤタイヤ:160/60ZR17 価格:135万5000円