ルノー・メガーヌR.S.ファンに朗報だ。限定とはいえ、ついに念願のMTモデルが導入された。わずか限定100台。争奪戦は必至である。
REPORT◉石川亮平(Ryohei Ishikawa)
PHOTO◉三橋仁明(Noriaki Mitsuhashi)N-RAK PHOTO AGENCY
※本記事は『GENROQ』2019年5月号の記事を再編集・再構成したものです。
セグメントを代表する高性能FFスポーツといえば、ルノー・メガーヌR.S.がその最右翼だろう。昨年8月に日本導入された3代目メガーヌR.S.は、先代モデルが頑なに固持していた3ドア+MTを潔く捨て去り、5ドア+6速DCTモデルとして生まれ変わった。ルノー・スポールとしては、新型メガーヌR.S.に6速DCTと5ドアを採用したことで、より多くの人にメガーヌR.S.のドライビングプレジャーを味わってもらいたいとの意図があったのだろう。
前後輪を操舵させる4コントロールやダンパーの中にセカンダリーダンパーを組み込んだHCCなどの画期的な技術を新たに採用して走行性能を向上させつつ、ニッチ層だけではなく多くの人に門戸を開いたプレミアムCセグメントスポーツ、それが新型メガーヌR.S.のコンセプトなのだ。
だが、旧来からのFFスポーツファナティックから見ると6速DCTのみの新型には、やや物足りなさを感じたのは事実だろう。この時代においてDCTとMTの優位性を語ることなどナンセンスなのかもしれないが、MTでサーキットを意のままに走りたいというユーザーも今なお存在するのである。
そんなコアなファンに朗報だ。さすがニッチ層を大切にするルノー・スポール、なんとノーマルR.S.よりもロールを抑えた「シャシーカップ」ベースの6速MTモデル、メガーヌR.S.カップ(限定100台)を日本に導入してきた。少し分かりづらいのでここで説明するがノーマルのメガーヌR.S.は「シャシースポール」を採用する。それに対しメガーヌR.S.カップはスプリングレートをフロント23%、リヤ35%、ダンパーレート25%、フロントアンチロールバー剛性を7%高めた特別な「シャシーカップ」を採用している。また電子制御ディファレンシャルに加えてジェイテクト社が開発したトルセンLSDを新たに搭載し、アクセルオン時でのトラクションを一層高めているのが特徴だ。
では実際の走行性能はどれだけ向上しているのだろうか? 生憎のウエットコンディションではあったが、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイでその実力の片鱗を確かめることができた。
タイヤが温まったのを確認し、徐々にペースを上げていく。6速MTのカチッとしたフィールが心地よく、無駄にシフトチェンジしたくなるほどだ。天候は雨から曇りに転じたものの、路面は水しぶきが上がるほどのウエット状態。少しでもラフなアクセルコントロールをしようものなら、簡単にリヤが滑り出しそうなものだが、R.S.カップは低速、高速コーナーともに安定感が抜群なことに驚いた。
これは4コントロールが相当に効いているのだろう。4コントロールとは電子制御のアクチュエーターでタイロッドを動かし、リヤタイヤを操舵するシステムだ。60㎞/hまでは逆位相で俊敏性を増し、60㎞/hからの高速域は同位相によりスタビリティを確保する。ESCの作動をやや遅くするスポーツモードで走行したが、高速コーナーでややリヤが滑りかけたものの、自然と収束し、未熟な腕の私でもウエット状態のサーキットを容易に楽しめた。また、袖ヶ浦フォレストレースウェイは低速のコーナーも多いのだが、通常ならばアンダーステアが出るような速度で進入しても、ノーズがグイグイとインを向き、コーナーをキレイなラインで駆け抜けてくれるのはもはや驚異的だ。
ルノー・スポールのテストドライバーであるロラン・ウルゴン氏の同乗走行も体験することができた。走行モードはESCを解除し、4コントロールを高速走行用の設定とした「レース」をチョイス。彼のドライビングはまさに超絶であった。水を得た魚のようにR.S.カップはウエットコンディションのコーナーをとんでもない速度でクリアしていく。これが本当にFFモデルなのか? と思うほど深いドリフトアングルを容易に決めつつコーナーを駆け抜けていく。リヤが滑った状態でもフロントにトラクションが常に掛かっているので、R.S.カップは前へ前へと爆発的な推進力を生み出していく。電子制御ディファレンシャルに加えて新たに搭載されたトルセンLSDを巧みに活かして走行しているのだろう。彼の操るR.S.カップの横に乗り「シビックRのニュル最速タイム危うし……」と思わずつぶやいてしまった。
わずか100台限定のメガーヌR.S.カップ。サーキットで思う存分メガーヌR.S.の性能を引き出したい人は、この争奪戦に早めに参戦することをおすすめする。
ルノー・メガーヌR.S.カップ
■ボディサイズ:全長4410×全幅1875×全高1435㎜ ホイールベース:2670㎜ トレッド:Ⓕ1620 Ⓡ1600㎜
■車両重量:1460㎏
■エンジン:直列4気筒DOHCターボ ボア×ストローク:79.7×90.1㎜ 総排気量:1798㏄ 最高出力:205kW(279㎰)/6000rpm 最大トルク:390Nm(39.8㎏m)/2400rpm
■トランスミッション:6速MT
■駆動方式:FWD
■サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡトーションビーム
■ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡディスク
■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ&Ⓡ245/35R19(8.5J)
■環境性能(JC08モード) 燃料消費率:12.6㎞/ℓ
■車両本体価格:450万円