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「ハレ」と「ケ」両方持ち合わせるロールス・ロイス・カリナンは最高に豪華なSUV


ロールス・ロイス初のSUVとして登場したカリナン。名だたるスーパーカーブランド、ラグジュアリーブランドがこぞってSUVをラインナップしているがそれは何を意味するのか? ロールスロイスが自称するハイ・ボディド・ビークルに試乗して考えた。




REPORT◉吉岡卓朗(Takuro Yoshioka) PHOTO◉ROLLS-ROYCE MOTORCARS




※本記事は『GENROQ』2019年5月号の記事を再編集・再構成したものです。

雪道でも魔法の絨毯だ

 世界最大のダイヤモンド。その規格外の宝石に由来する車名を持つカリナン。言わずもがなのロールス・ロイス初のSUVである。名だたるスーパーカーブランドですら、そのラインナップにSUVを加える時代である。どんな自動車メーカーも若い顧客層を掘り起こそうと必死なことに疑念を差し挟む余地はない。もっともロールス・ロイスは、カリナンをしてハイ・ボディド・カーと呼んでいるのだが……。




 ロールス・ロイスは近年の販売台数を4000台程度に抑えているという。だが、このカリナンはおそらく販売台数の40%に達する見込みだ。超高級ブランドを守るためには販売台数の急増は好ましくないが、BREXITの混迷の真っ只中、保険にするには十分な存在だ。

 カリナンは、その特性から泥濘地、雪上はもちろん砂漠まであらゆる路面でテストしたという。だから今回の試乗も用意されたコースの中に雪道が含まれていた。雪道でロールス・ロイス! 数年前には想像もしなかった現実がそこにある。といってもロールス・ロイスの試乗記はいつも悩ましい。前席と後席、どちらの印象が読者にとって興味があるのか様々な声が聞こえてくるからだ。




 ともあれ、まずは運転席に座る。3眼メーターにはタコメーターのような無粋なものは存在しない。中央が車速、右に燃料と水温、左にパワーメーターが配置される。車速計の右下には車線逸脱のランプが灯っており、ACCとともにLKA(振動による警告のみ)が備わることを教えてくれる。走り出しはファントム同様に滑らか。アクセルペダルの操作に呼応して、的確に速度を調整できる。ステアリングホイールそのものは大きく、ギヤ比はスローすぎずちょうどいい。切り始めはセンターに芯があり、煩わしさがない。すべての操作が適度に重く、運転していると自然と旦那様に仕える一流のショーファーのような運転ができる。エアサスのおかげで、魔法の絨毯のような乗り心地も健在だ。



メーターは中央が車速、右には燃料と水温、左にパワーメーターのレイアウト。ドアの開閉ボタンはメーターナセル左に配置される。

ドアの開閉はCピラーの室内にあるスイッチで行える。電動で開閉は想像以上に速い。
これまた電動で開くテーブルとモニターは助手席を動かすと自動的に向きが調整される。


 朝の首都高は渋滞していたのでACCを試してみた。精度高く機敏に追従する様は、勤勉なショーファーがもうひとりいるようで頼もしい。運転が退屈なシーンでは大いに助かったが、数年前にロールス・ロイスの関係者に自動運転に対する考えを聞いた時、「本当のラグジュアリーとは運転手がいることですよ」とたしなめられたことを思い出した。




 交通量が減ってきたところで、パワーメーター100%を体感してみる。最高出力571㎰、最大トルク850Nmを発生する6.75ℓV12ターボエンジンは、2.7tに達する質量を一瞬で制限速度まで加速させる。だが、その加速感に乱暴さはない。ステアリングを握っていても、エンジンの存在はどこか遠くに感じる。しかし『ガルシアへの書簡』のローワンのように与えられた命令に忠実に応えてくれる頼もしさがある。総じて快適な運転席ではあったが、わずかに座面がぷるぷる震えることが気になった。



リヤのトランクと後席の間にはガラスのパーテーションが備えられており、荷室のリヤゲートを開けても雨、雪、埃が室内に吹き込むのを防ぎ、室内は快適性が保たれる。

ロールス・ロイス車でもっとも高い位置に取り付けられたスピリット・オブ・エクスタシー。その下にあるグリルはヘッドランプよりもかなり前にオフセットしており特徴的だ。

 道中、後席に移って今度は旦那様気分を味わうことにした。後席は2座のインディビジュアルシートか3座のラウンジシートが選択可能だが、試乗車はインディビジュアルシートだった。先ほど気になった座面の振動はなく快適そのもの。調整幅の大きいシートを完璧な位置にして、運転している同業者に気取られぬよう、こっそりと後席背もたれ中央のふたを開ける。やはりあった。シャンパンである。だが、なぜか同様に装備されているはずのグラスが無かったので、そっとボトルを元に戻した。ただし、冷やしたシャンパンを後席で楽しむのは既存の顧客層の使い方だ。カリナンで取り込むべき新しい顧客層には3座のラウンジシートがいい。実際4名乗車を選んだオーナーは30%。残りは5名乗車のラウンジシートを選択しているという。新たな顧客層は着実に増加している。




 雪の林道の入り口で再び運転席に移った。全幅2.1mは狭い道を抜けるのにはさすがに気を使う。路面はところどころ雪が溶けかかった難しい状態だが、いったん山道に入ってしまえば、まさにロールス・ロイス的ハンドリングでありながら溢れんばかりのトルクで曲がりくねった山道をぐいぐいと登っていく。コンチネンタル製ウインタータイヤのグリップも申し分ない。かつてアマチュアラリードライバーとして、冬の軽井沢で雪道合宿を重ねていた日々と、ロールスはいつでもドライバーを喜ばせてくれる走れるクルマであるということを思い出した。



 ふとオフロードモードの存在を思い出し、スローダウンしてオフロードボタンを押してみた。アクセルのつきがするどくなり、わずかに車高が上がった。ABSは、あえてややロックさせてタイヤの抵抗を高める傾向がみられた。60㎞/h以上ではふたたび標準車高に戻るが、SUV的性能が試されるような路面状況では強い味方になるだろう。あとで調べてみると、このオフロードモードにはDSCオン、トラクション、DSCオフ、エキスパートの4種類があった。今回は雪道での試乗距離が2㎞と短く、DSCオンとトラクションしか試せなかった。これはあらためて後日試したい。




 乾燥舗装路から雪道、ぬかるみまで、SUVらしく颯爽と駆け抜ける才能を持っているのは明らかだ。間違いなく、これまででもっとも年間走行距離の長いロールス・ロイスとなるだろう。もちろんフラッグシップはファントムであることは変わりない。だが、カリナンがロールス・ロイスの新たなる境地を切り拓き、近日点にある火星のような存在となることは間違いない。

SPECIFICATIONS ロールス・ロイス・カリナン


■ボディサイズ:全長5341×全幅2164×全高1835㎜ ホイールベース:3295㎜


■車両重量:2660㎏


■エンジン:V型12気筒DOHCターボ 総排気量:6749㏄ 最高出力:420kW(571㎰)/5000rpm 最大トルク:850Nm(86.7㎏m)/1600rpm


■トランスミッション:8速AT


■駆動方式:AWD


■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク


■タイヤサイズ:Ⓕ&Ⓡ255/50R21※


■パフォーマンス 最高速度:250㎞/h (リミッター作動)


■環境性能(EU複合モード) 燃料消費率:15.0ℓ/100㎞ CO2排出量:341g/㎞


■車両本体価格:3894万5000円


※ウインタータイヤ装着
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