ロードボンバーはナンバーが取得できないので、公道走行は叶わなかった。当時谷田部にあったJARI(日本自動車研究所)の高速周回路と筑波サーキットへはトランスポーターで搬送し、シェイクダウンテストが開始された。ロードボンバーは秘めたるポテンシャルを遺憾無く発揮。想像以上のテスト結果は周囲を驚かせたのである。ついに走ったテストシーンを2回にわたってレポート。
テキスト⚫️山田 純(YAMADA Jun) 編集⚫️近田 茂(CHIKATA Shigeru)
谷田部(JARI)の周回路で動力性能試験を実施!
新創刊誌のモト・ライダーでは、厳格なテストの実施とアカデミックな記事掲載にも情熱を注いでいた。ロードテストでは毎月厳選する1台を谷田部自動車試験場で徹底テスト。最高速、ゼロヨン加速、追い越し加速、燃費、定常円旋回安定性、騒音、惰行や前面面積、前後荷重の計測などなど、メーカーがやるのと変わらない本格的な内容だった。さらには日本大学理工学部の研究室にもお願いして、操縦安定性についてデータ計測処理していただいていた。
谷田部高速試験場(現在は城里)は、国が認定したテストコースで、運輸省に車両認定のための書類を作成するのに必要な設備と要件を備えていた。そんな厳格なテストの聖地であった谷田部に黄色いバイクが持ち込まれた。ロードボンバーである。コースは全長5.5kmで、2本の直線と400Rのバンク付コーナーで繋げた周回路だ。
エンジンはノーマルのXT500だけに、いくら軽くてスリムとはいえ、その動力性能は予想通り大したことはなかった。
しかし、直進安定性はもちろん、トップスピードのまま飛び込むバンクでも、なんの不安もなくピタリと安定していた。500ccの4スト・ビッグシングルから心配された振動も、あることはあるのだが、気になる程ブルブル大きいものではなかった。
島さんが、この振動に関して心配していた話は前回既報の通りである。
ロードボンバーは4スト500cc単気筒エンジンを搭載している。もともとデュアルパーパス・モデルで、一般公道を走ることが主目的。谷田部試験場のような場所で走らせるのは、基本的に目的外だが、きちんとした走行データを取ることが目的だ。
走らせる前、島さんから「純ちゃん、0~400m加速はともかく、最高速度計測の時は、計測区間のメインストレート以外はフルスロットルにしないように注意してよ」と釘を刺された。
テストの結果、0~400m14,2秒、最高速度174.8km/hだった。これはDOHC4バルブツインエンジンを搭載するヤマハGX500のデータに匹敵。最高速ではそれを凌いだのである。
このデータ自体は当時でもそれほど驚くほどの結果ではないかもしれない。まあそんなものでしょうね、というレベル。
それでも、軽くスリムなロードボンバーは、空気抵抗を軽減するカウリングなど持たないものの、既報の通り極めてスリムに設計され、前面投影面積が少ないなどが奏功し、かなり優れた結果だったといえる。
さらに、トップスピードとなる直線での安定性は確かで何の問題も出なかったし、両側のバンクの付いた大きなコーナーでは、この速度くらいだと下から2段目(舗装のつなぎ目で数える)を通るのだが、車体はしっかりしていて、振られたり振動が大きくなったりすることも皆無。ハンドルバーセンター部にセットされたフレームのクラック・チェッカーゲージも、変化はなかった。
テスト走行した私はホッとしたが、長さんは、ニコリともしなかった。自信はあったのだろう。それに、テストはまだ筑波サーキットが残っていたからだ。
◼️続編、開発ストーリー。当時の記事から抜粋(1977年6月号)
⚫️XT-S 500 ロードボンバー製作記 その2
⚫️エンジン配置とフレーム設計
構想段階から製図段階へとはいったロード・ボンバー。初期レイアウトのむずかしさとしては、クランクセンターをどこに置くか—が大きな問題点だった。つまり、エンジンが車体のどの辺に位置するかによって、XT、いやロード・ボンバーの性格が決まってしまうのである。可愛い愛娘がどういう性格になるか、生みの親としても楽しく苦しい作業なのだ。
文:島英彦
⚫️クランクセンターを決める
ホイールベースはXT500で1420mm、これを10mm縮めた1410mmとし、それと3.00-18、3.50-18というタイヤ・サイズは決まった。
このほかに重要なのは、クランクセンターを点とするエンジン位置である。このエンジン位置で、モトのバランスは決まってしまうのだ。
製図板上のトレーシング・ペーパーに、縮尺1/5で1410mmのホイールベースによるホイールの外径を書いたあと、生みの苦しみが始まった。
フロント・ウォークはCJ360Tのものを使うとして、わりあい気楽にキャスター63°30’、トレール85mmに決め、ステアリングヘッドまでわずか30分の作業で進む。
30分といっても、ステアリングヘッドはフロント・フォークのインナーチューブがアッパー・ブラケットから30mmていど突き出る配置にしておいた。
こうしておけば、インナーチューブをアッパー・ブラケットと面一にすることによって、キャスターを62°付近へ寝かせることも可能になる。この配慮なしに、正規のセットが面一になると、キャスターを立てることはできても、寝かせることができなくなってしまうからだ。一品製作のモトを、短時間でセッティングするには、ぜひ必要なレイアウトなのである。
だが、これからが大変なのである。エンジンの前後位置と高さは、どこへ決めたらよいのか。前後輪の重量配分は前が47%、後が53%付近と、わたし好みの数値が事前に決めてあるのだ。もちろん、その位置も高からず低からず。
重量は、本来なら、全部品の重量チェックをして、計算すれば概略わかることなのだが、わたしは勘に頼った。というより、それしか方法がなかったのである。なにせ使用部品は、エンジンを除いて手許にはないからだ。
ともかく、エンジンの外形寸法を実寸でエンジンに合わせて切り抜き、クランクセンター、スプロケット・センターを拾い出した上で、エンジン・マウントもできるだけ正確に拾い出してみた。
この実寸法を書きかけの1/5縮尺に置きかえ、切り絵のようにして、製図板上の前後ホイールの間に置いてみた。
XTのばあい、クランクセンターはフロント・アクスルから690mm、リヤ・アクスルから720mm付近にあるが、ロード・ボンバーのばあい、ここから何mm前進させるかが大問題となる。ホイールベースはXTに近い1410mmであるから、位置の変化は、一目瞭然となる。
50mm前進させればフロント・アクスルから640mm、リヤ・アクスルから770mm、49:51に対して45:55となる。この付近がよいところであろう。もし、さらに前進させたとしても10mmが限界と判断した。
XTのオンロード・モデルが市販されているとすれば、それを下敷きによりよい位置を決められるのだが、下敷きのまったくないモトを新たに起こすのは、大変な作業なのだ。しかも、一品ものであれば、完成後、フレームを作りなおすなどといった芸当は、経費のつごうもあって不可能となる。
また、クランクの高さはどうするのか。フレームはダブルクレードル・タイプとして、クランクケース下をフレームがとおる。このフレーム下面の高さは地上高200mmは欲しい。となると、クランクセンターは350mm以下へは落ちない。これでもストレーナー・カバーと直下のフレームとの間隔は5mm。
このエンジン位置の決定には1週間ほどかかっている。1週間のあいだなにをやっていたかといえば、アアジャないコウジャないとこねまわしていただけの話で、寸法的には最初考えていたところに落ちついただけなのだが。
⚫️フレーム・レイアウト
つぎに、エンジン位置の決まったところから、フレームのレイアウトにかかる。
シート高は750mm以下という予定があり、下げられるものなら730mmでもよい。高いよりは低い方が望ましい。リヤ・ショックのストロークからホイール・トラベルを割り出す。加えて3.50−18というリヤ・タイヤのサイズながら、タイヤ・セッティングを考慮して最大4.00-18が収まる余裕を見ておいた。それでも730mmは可能と踏んだ。
シート高730mmということは、シートベースとスポンジ厚を50mmとすれば、シートレールの上面は680mmとなる。
これを書き込んだ上で、ダブルクレードル・フレームのエンジンループ部分を、エンジン外形ギリギリで決定する。XTのエンジン高は、シリンダーヘッド上のマウントから、ストレーナー・カバーまで500mmあるので、エンジンループの内のりの高さは510mmとなる。つまり上下とも5mmの空間を持つ。
ここまできたところで、フレームのパイプ・サイズを決めなければならなかい。材質はJIS規格によるところのSTKM13とする。これなら電気溶接でも可能であり、パイプ内に砂つめして手曲げをしても、調質することなしに使えるはずだ。反面、高張力鋼管といわれる類いのものより強度は低い。
が、ロード・ボンバーは、レーシング・マシンでもなく、高価な材料を使って性能追求をすることが目的ではない。手近の誰でも入手できる材料で、最大の効率を生むことが目的である。
この材質で、外径1インチ(25.4mm)肉厚1.8mmもあれば強度的には十分なはずである。ところが、1.8mmという厚さは規格にあるものの、市場には流れていないので、1.6mm厚と2.0mm厚を使い分けることにした。
パイプの曲げは、冷間の機械による曲げとし、曲げ半径150mmR。これで側面図を作り上げる。シートレールとタンクレールの高低差は87.5mmと大きなものとなった。
側面図を描くのはわりと簡単な作業だが、正面、後面、上面になるとなかなか大変な作業だ。とくに、キャブレターとフレームの間隔、チェーンとフレームの間隔あたりは神経を使う。
チェーンとフレームの間隔などは、リヤ・ホイールの移動量、スイングアーム・ピポットと、ドライブ・スプロケットの距離との位置関係等、経験的に決めるしかない。とくにロード・ボンバーのばあいは、フレームが、スイングアームの内側にあるタイプであり、絶対チェーンの横ぶれで接触しない間隔をとろうものなら、フレームの幅が狭くなり、剛性上おもしろくないので苦労したところだ。
フレームをスイングアームの内側に入れるレイアウトは、ライダーの足もとをいかに狭めるかという要求に対処したものであり、設計上はライダーのカカトがスイングアームに通常接触するようにした。この結果、両カカトの内幅は、200mmていどにおさまった。
このきわ立った特徴が、ライダー込みの前面面積を極度に小さくしているわけだ。じつはロード・ボンバーのレイアウト上の大冒険は、ここが唯一のものである。ほかは、わりとオーソドックスに、手固くまとめ上げてある。
フレームの幅を決定するにあたっては、リヤハブがCJ360Tであるところから、チェーンラインをこれに合わせなければならない。XT500のチェーンラインより、CJ360Tのチェーンラインは4mm内側にあった。この4mm分、エンジンをXTより右へ振ったレイアウトになるわけだ。
4mmのずれは小さなものだが、左右の重量バランスが狂うことが考えられた。4mmのオフセットは無視してもよいのだが、考えてみれば、CJのフロント・ブレーキは、シングル・ディスクが左側にあるところから、むしろ、これでバランスがとれるという判断もできた。この判断に誤りはなかった。
⚫️スイングアームは1.6t角パイプ
フレームのレイアウトが概略決まったところで、スイングアームにかかる。ロード・ボンバーはエンジンがXTより50mm前進しているところから、必然的にスイングアームが長くなる。エンジン側スプロケットとピボットの距離を長くすれば、スイングアームは短くなる。が、スイングアーム・ピボットとスプロケットは近ければ近いほど、スイングアームの作動によるチェーンの張り変化は小さくなるので、なるべく近づけたいところ。
この方向で設計すると、ピボットとリヤ・アクスルの距離は、482mmにもなった。かなり長めだ。これを外寸20×40の1.6mm厚の角パイプで作る。角パイプというのは、建築材料規格のものしかない。たとえば、階段の手すり、門扉等に使われるものだが、構造しだいでなんとかなるという判断をした。
ピボットには、ピロボールを使ってみよう。この部分はモトを一品製作するにあたっていつも苦労する部分である。というのは、ストレートのメタルプッシュを使うとしても、レースホルダーの溶接ひずみや、加工上の寸法管理でなかなかスムーズに作動しないものなのだ。最近はやりのテーパーローラーという手もあるが、ピボット部がコンパクトにならない短所もある。
ピロボールを使えば、問題は、左右の距離管理だけであり、コンパクトさとスムーズさは満足できると判断した。チェーン引きは、リヤ・アクスル側に、アルミの“中子”を入れる例のヤツを使うことにした。
ここまで図面化するのにもう2週間がたっていた。
ともかく次号ではフレーム単体を写真かイラストでお見せする。
(つづく)
※編集担当注釈:当時モト・ライダー誌ではバイク(オートバイ)の事を「モト」と表記。
⚫️著者プロフィール(モト・ライダー誌への参画)
アメリカから帰国後、少しかじったレースは止めて普通の仕事をしようとしていたところにやって来たのが、ビッグバイク誌で一緒に仕事をしていた小野里 眞くんだった。「これから僕のいる会社でバイク雑誌を作るんで、一緒にやらない?どうせ暇してんだろうから」と連れて行かれたのが、三栄書房だった。編集長は、鈴木脩巳社長が兼任していた。
それがモト・ライダー誌と関わるキッカケになった。
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