夢のように美しい雪道を一瞬で白い地獄に変えるのが自然の猛威だ。これまで30年、レースの世界ではあらゆる状況を経験してきた田中哲也。だが、リアルな世界では何が求められているのか冬の稚内まで3200kmのツーリングで痛感したようだ。
REPORT◉田中哲也(TANAKA Tetsuya) PHOTO◉小林邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2018年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
北海道縦断の企画が舞い込んだ時、嬉しいのと同時に修業時代を思い出してワクワクした。運転免許を取得した若い頃から雪を走ること、つまり運転の練習が大好きだった。雪が降ると夜な夜な走りに行ったものである。それはプロになっても同じで、御殿場に住んでいた若い頃も富士山が真っ白になると、その中腹に向かってひた走った。そこは僕にとっての最高の練習場だった。雪道での練習はマシンコントロールの向上につながると信じてひたすら走り回っていた自分を懐かしく思い出す。コントロールの難しさは当然として、マシンを操る楽しさが圧倒的だ。もちろんタイムを競ってギリギリの走りをすると楽しさは減少するが、少しマージンを持ったところで走ると本当に楽しい。
今回のクルマはフェラーリGTC4ルッソとレンジローバー。硬軟混じり合うなかなか良い選択だ。羽田空港をスタートして仙台までひた走り、そこからフェリーに乗って苫小牧まで行き、そして宗谷岬まで行って同じパターンで東京に帰るというのが今回の旅の概要だ。だが天気予報は数年に一度の寒波を伝えている。宗谷岬まで本当に行けるのか? “ワクワク”は一転して不安に変わった。その不安は的中し、北海道の自然の厳しさに直面した。それは路面が滑りやすいというより、晴れていても地吹雪で視界が奪われ、自分がどこを走っているのかまったくわからなくなるのだ。路肩を知らせてくれる標識やLEDライトの存在があっても、それすら見えない瞬間もあって、本当に恐怖を感じた。それはまるで真っ暗闇を走っているようなイメージだ。その状況は夜でも昼でも同じで、とにかく視界の確保こそ一番の生命線であった。
だが、そんな極限の状況で走ったからこそ、普段は感じないクルマの大切な部分を多く見つけられた。まず一番重要なのがバッグフォグだ。地吹雪の中、後続車はかすかに見えるフォグランプを頼りに走る。その灯りは視界の悪い雪道を走行する際の“命綱”なのだ。雪が付着してヘッドライトを覆うことによる視界悪化にも直面した。ヘッドライトウォッシャーの重要性も理解できたし、ワイパーのふき取り性能だけでなくゴム部分に雪が付着しにくいことも非常に重要だと痛感した。タイヤのグリップが重要なのは当然だが、前が見えないことには走行できない。