近年の伸張著しいディーゼルエンジンは、日本とドイツ、そしてイタリアの三国による技術革新によって発展を遂げてきた。本稿では、ディーゼルエンジンの筒内直接噴射というタイミングから、進化の道程と三国の覇権の歴史を追ってみる。
ディーゼルエンジンは、CO2低排出として欧州を中心に大勢を占めている。かつては、汚い/うるさい/重いとして嫌われていたが、急速な技術革新によって、一気に主流に躍り出ているのはご存じのとおりである。
立役者は、コモンレールをはじめとした燃料噴射システムの高度化。そしてターボチャージャーによる過給。圧縮によって高温高圧となった空気に、いかに燃料を噴くか、どのように燃やすかという追究によって生まれた、現代のディーゼルには決して欠かせないデバイスである。
ディーゼルは高出力を追求すると高温燃焼によるNOxが、燃え残りが生じればPMが発生する宿命がある。かつてはNOxとPMの発生がトレードオフとされて、自動車メーカーはいずれかの処理に軸を置き、燃焼室を設計していた。しかし近年のトレードオフ関係は、NOxとCO2。後処理装置の進化に支えられ、ディーゼルの作り方も変化を迎えている。現代のディーゼルは、規制を受けて今後、どのような方向に進んでいくのだろうか。
1986:世界初の直噴ターボディーゼル
少々意外、といってはイタリアに失礼だが直噴式のディーゼルエンジンを市販乗用車に最初に搭載したのはフィアットだった。当初からターボ過給を備えた意欲作である。当時のDセグメント車・クロマに設けられたTD i.d.(Turbo Diesel iniezione diretta:直接噴射の意)が該当グレードで、ボッシュのシステムを用いていた。直列4気筒のSOHC直打式8バルブで排気量は1929cc、吸排気バルブ間にインジェクターを配置する構造。最高出力は70kW(95ps)/4200rpmを発揮していた。