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【Z900RS CAFÉ1週間レポート】素直に曲がる車体、のけ反る加速、ワイルドなエンジン音。Z900RS CAFÉは乗り手を心を満たす存在である。


大ヒット驀進中のZ900RSをベースにフロントカウルを装着し、専用のライポジとカラーリングで往年のカフェレーサースタイルに仕上げたのが「Z900RS CAFÉ」である。Zの系譜を継ぐ現代の名車に1週間じっくりと乗ってみた。


REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

カワサキ・Z900RS CAFÉ……1,350,000円

カワサキ・Z900RS CAFE ……1350,000円

 Z900RSは最近のバイクの中では最も美しいと思える一台だ。もちろん、美しいの基準はいろいろで人それぞれに感じ方は異なるだろう。艶やかで派手なイタリアンスポーツや機能美の塊のようなドイツ車も美しい。でもこれだけメディアでも注目され社会現象のようになっている大型バイクは他にあまり見当たらない。それだけ万人に受けている証拠と言ってもいいだろう。その一番の理由がデザインの美しさだと思う。Z900RSは日本人の琴線に触れる美的センスを持っているのだ。そして、よくできたその素材を生かしつつ、最近流行りのカフェレーサースタイルでまとめ上げたのがZ900RS CAFÉである。

昭和的レトロポップ感が新鮮だ

 水冷直列4気筒エンジンやスチール製トレリスフレーム、倒立フォークと水平置きタイプのリンク式リヤショックなどの車体構成はRSと共通だが、ビキニカウルが付いてカラーリングが変わるだけで大きく印象も変わるものだ。特に今回試乗したCAFÉはヴィンテージライムグリーンに彩られていて、昭和にタイムスリップしたようなレトロポップなデザインと色調に萌える! 往年のレジェンド、エディ・ローソンが駆りAMAスーパーバイク選手権で王座に輝いたZ系プロダクションレーサーのレプリカモデルであるZ1000R(いわゆるローソンレプリカ)をモチーフにしているのは誰の目にも明らかだが、オリジナルの角張ったデザインではなく、あくまでレトロなZ1テイストで表現しているのがチャームポイント。低めに構えたハンドルとカスタムメイド風のシートが、よりスポーティで若々しい印象を与えてくれる。

RSより“走り”を意識したライポジ

 ライポジはRSに比べてハンドルがコブシ一個分以上低くワイドでやや遠めにセットされている。シートも馬の鞍のようにセンターが盛り上がっていてRSに比べると高め。座り心地もややハードだ。同じネイキッドでも上体の前傾度がやや強めになるため、いやがうえにも“走り”を意識する。ライポジのせいか、跨ってみるとRSより少し大柄な感じだ。


 勢いよく回るセルモーター音に続いてズドンと目覚めるエンジンはヤル気に満ち溢れている。金属的なメカノイズを含む重厚なアイドリング音はけっこう大きめで、軽くスロットルをブリップしながら「ズウォン、ズウォン」と響くワイルドな重低音に聞き惚れる。これだけでもう幸せだ。

のけ反る加速、でも基本は素直

 リッタークラスとは思えない軽いタッチのアシスト&スリッパ―クラッチをゆっくりとつないでいくと、アイドリングでもスルスルと前に出ていく。さすが現代のバイク、そして大排気量ならではの極低速トルクが頼もしい。エンジンはとにかく元気があって、ピックアップが良すぎるぐらいなので迂闊にスロットルを開けるとのけ反るほどだが、慣れてきて丁寧に扱えるようになると実に従順。シートの納まりのいいところに座って両腕の力を抜き、下半身のホールドを意識しつつ、柔らかくスロットルを当ててやるのがコツ。


 そうすればスムーズに加速するし、狭い交差点でも目線を向ければ素直に曲がってくれる。シフトタッチも節度があって気持ちいい。ブレーキも秀逸で、ラジアルモノブロック&ラジアルポンプの組み合わせは極めて強力だが、カッチリとした剛性感のあるタッチでコントロール性も抜群。思わずかけ過ぎたときでも即座にABSが作動してくれるので安心だ。

Zの神通力は健在だった

 東京・丸の内から銀座、六本木、渋谷など流してみた。現代のZがトレンドに敏感な街の感性にどう響くか見極めたかったからだ。ここで面白い発見があった。ビジネス街ではスーツ姿の企業戦士がけっこうな割合でチラ見してくるのは予想していたが、意外なことにファッションタウンでも今風の若者たちが熱い視線を送ってきたことだ。特に若いカップルがすれ違いざまに指差しでマシンを見てくれたことは嬉しかった。「あれカッコいい!」と唇が動いた気がした。Z1やエディ・ローソンを知らない世代にも直感的に響く何か、神通力のようなものをZ900RS CAFÉにも感じたのだった。




 サウンドチューニングされた音も魅力だ。街中を流しているだけでも図太い排気音とともに甲高い吸気音が常にタンク周辺から聞こえてくる。サウンドはけっこう大きめで街中でも目立つが、スポーツマインドを求めるライダーにはそのハーモニーが耳に心地良いはず。ギヤチェンジしながら回転数によって変わる音色を楽しめるのでBGMいらずだ。

小ぶりなカウルだが効果は絶大

 高速道路ではカウルの恩恵をあらためて実感した。この時期、バイクには厳しい季節だが、ことさら剥き出しのネイキッドにとって高速道路が苦行となるのはご存じのとおり。その点、CAFÉには小ぶりな通称ビキニカウルが標準装備されているが、これが実に有効だった。滑らかな曲線を描くスクリーンが50km/h程度からでも風を和らげてくれているのが分かり、速度を上げるほどにその効果を実感できる。ライポジ的にもRSに比べて上体が前傾していることもあると思うが、カウルが飾りではなく実用品であることも分かった。

走りは極めて現代的

 暖かい日を選んでワインディングにも繰り出してみたが、意外だったのが乗り心地の良さ。寒い季節のせいか街乗りでは前後サスペンションにやや硬さを感じたが、一方ワインディングではしっとりとストローク感があるが好印象で、路面の細かいギャップやうねりをきれいに吸収してくれるため気持ち良く走ることができた。


 欧州向けストリートファイター「Z900」をベースに、よりストリート向けに最適化された直4エンジンは低中速トルクに厚く日本のワインディング向きと言える。ミッションもワイドレンジな設定で、2速、3速でほぼすべてのコーナーをカバーできてしまうほど余裕があり、うっかり下りコーナー手前でギヤを落としすぎてしまってもアシスト&スリッパ―クラッチ機構が働くので後輪ロックなどのリスクを低減してくれる。コーナー立ち上がりなどで開け過ぎてしまったときに後輪の滑りを抑えるトラクションコントロールも含め、パフォーマンスとともに安全性もバランスよく高められていることもポイント。見た目はレトロポップだが走りは極めて現代的だ。

スーパースポーツと張り合える

 幸運なことにサーキットでも走る機会を得た。111psを発揮する現代の水冷直4エンジンはエネルギーに満ち溢れ、解き放たれた直4サウンドの咆哮とともに水を得た魚のように走る。ヘアピンの立ち上がりで大きくスロットルを開ければフロントが浮いてくるほどパワフルだし、ストレートではカワサキの直4らしいオーバーレブ特性で伸びやかな加速を味わえる。その力量感はカタログスペック以上だ。


 前後サスペンションはしなやかでコシがあり高速コーナーでもよく踏ん張ってくれるし、標準装着のOEタイヤは十分なグリップ性能と接地感で安心してサーキット走行を楽しめなど、吊るしでもスーパースポーツと張り合えるほど次元の高い走りができるのが素晴らしい。

 ただ、ペースを上げていくとリヤショックが入り気味になってくるので減衰力とプリロードも少し強めたほうがシャキっとするだろう。でもその前にコーナーではステップを擦り始めてしまうので、本気でサーキットを攻めたいのであればレーシングステップに交換するのがおすすめだ。また、タイヤもグレードアップすればさらにポテンシャルを引き出せるはずだ。




 街中にも溶け込むレトロモダンなスタイルと、ステージを問わず楽しめる走りの良さ。そして何と言っても「Z」の本流を受け継ぐ存在感そのものが光り輝いている。まさに正統派カワサキ。万人を魅了する理由を説明する言葉はいらないと思う。

足つきチェック(ライダー身長179cm)

Z900RSに比べるとハンドルが拳1個分ほど低くやや前方にあってシート高も20mm高いため、相対的にやや前傾したライポジになる。シートの角が落ちているためスペックほどには高さを感じない。



細部解説

シリンダーに刻まれたフィンやヘッドカバー、クランクケースカバーの形状が空系Zを思わせるが、その実、中身は最新の水冷直4DOHC4バルブユニットだ。ダウンドラフトタイプのスロットルボディを採用しパフォーマンスを向上させている。

レトロなスタイリングを演出するメガホンサイレンサー。「4-1-プリチャンバー-1」システムによりコンパクト化とマスの集中化を実現。

優れた快適性とスポーティな走行性能を両立する大径ø41mm倒立フォークを採用。フロントブレーキにはø300mmダブルディスクと対向4Pラジアルマウントモノブロックキャリパーを装備するなど充実。

フロントフォークはプリロード調整に加え、圧側と伸側ダンパーも調整が可能だ。

リヤショックにはマス集中に貢献するカワサキ十八番のホリゾンタルバックリンク式のリヤサスペンションを採用。リヤショックはプリロードと伸側ダンパー調整が可能。

セミシングルタイプのZ900RS CAFE専用シートを装備。工具無しで取り外し可能なシート下にはETC2.0車載器キットを標準装備する。

昔懐かしいコンチネンタルハンドル(通称コンチハン)とZ1タイプのミラー、そしてビキニカウルという組み合わせが感涙もの。これぞカフェレーサースタイルの神髄だ。

液晶メーター画面の切り換えやKTRC(カワサキトラクションコントロール)の2段階レベル調整のためのセレクトスイッチの他、ハザードスイッチを装備。

砲弾型のアナログ式2連メーター中央には様々な情報を表示する液晶パネルを配置するなど、コックピットもレトロモダンな雰囲気に仕上げられている。


取材/文 ケニー佐川(佐川健太郎)

早稲田大学教育学部卒業後、情報メディア、マーケティング・コンサルタント会社などを経て独立。趣味で始めたロードレースを通じてモータージャーナルの世界へ。雑誌編集者を経てジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。


株式会社モト・マニアックス代表。動画メディア「MOTOCOM」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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