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加速しはじめた電動バイク界隈、最新事情から見えてきた課題とは?


2018年はハーレーダビッドソンが電動バイクを発表し、ホンダからはPCXエレクトリックが発売されるなど、バイクにもいよいよ本格的なEV時代の到来を予感させるトピックが目立った年だった。人々の環境意識の高まりから電動バイクに対する世間の関心も着実に高まってきているようだ。そこで最近の2輪業界を取り巻くEV事情について知り得ることを分かりやすくまとめてみた。




REPORT●ケニー佐川(SAGAWA Kentaro) 

PCXが開いた新たな電動2輪の可能性

2018年にリース販売が開始されたホンダPCXエレクトリック

 2018年も暮れようとする11月末にホンダからリース発売されたPCXエレクトリックは業界を超えて大きな注目を集めた出来事だった。動力源にモバイルタイプの48Vリチウムイオンバッテリーを2個直列させることで、原二スクータークラス同等の力強い加速と一充電50km以上の航続距離を実現。ストリートモデルとして必要十分な性能を示したことに加え、2019年春から首都圏でのシェアリングや観光地でのレンタルサービスを展開することを発表し話題を呼んだ。2020年の東京五輪とその後の都市交通インフラを見据えた新たな電動2輪の可能性を模索するものと言えそうだ。

電動2輪の離陸には時間がかかった

 ホンダの電動2輪への取り組みは早く、94年にはホンダ初の市販電動2輪車として「CUV ES」を発売している。限定的なリース販売ではあったが、その成果は2011年登場の「EV-neo」へと受け継がれた。2000年代になるとヤマハの「EC-02/03」やスズキの「e-Let's」などの他、プロスタッフやテラモータースなどのベンチャー系EVメーカーからも一斉にスクータータイプの電動2輪が発売され、2010年代前半はEV2輪元年と言われるほどに盛り上がりを見せた時期もあった。ただ、それと同時期に国内に大量に出回った海外ブランドの粗悪な品質やアフターサービスの不備などにより、電動2輪のイメージは悪化の一途をたどり国内マーケットは事実上消滅。2015年にヤマハから登場した「E-Vino」がひとり気を吐く状況だったと言える。

ヤマハEC-02
ホンダEV-neo


潮目が変わった2018年

2018年のEICMAで発表されたハーレーダビッドソン初の電動バイク、LiveWire(ライブワイヤー)

 その流れが変わってきたのが一昨年辺り。すでに欧州では投入されていたBMWの電動版マキシスクーター「C evolution」が2017年から国内投入となり、かねてからプロトタイプのみの限定公開だったハーレーダビッドソン初の電動モーターサイクル「LiveWire(ライブワイヤー)」が市販化予定モデルをEICMA2018で初公開。同じタイミングに電動スクーターで先行する台湾ブランド、KYMCOからは6速ミッションと先進的な電子制御を搭載したEVスーパースポーツ「SUPER NEX」がアンベールされた。

ビッグスクーターの車格を持つ、アディバVX-1

 これ以外にも、イタリアンブランドのADIVAからは高速道路も走れる電動ビッグスクーター「VX-1」と、屋根付き3輪コミューターの電動版「AD1-E」が相次いでデビューするなど、電動2輪は従来の“電スク”の枠を超えたより大型ハイパワーなスポーツモデルへと進化の歩みを早めている。折しも2019シーズンからMotoGPのサポートレースとして電動バイクによるワンメイクレース「MotoE」の開催が控えるなど、いよいよモータースポーツの世界にも本格的なEV時代の足音が聞こえてきた。

メガスクーターでもAT普通二輪で乗れる

 このようにムーブメントとしては盛り上がりを見せる電動バイクではあるが、いざユーザー目線に立ったときの現実的な使い勝手がどうなのか、とても気になる部分だ。


 まず制度的なことだが、電動バイクの場合、道交法では定格出力0.6kWまでを原付(50cc以下)、0.6kW超1kW以下のものは小型自動二輪車(50cc超125cc以下)、1Kw超は普通自動二輪車(125cc超400cc以下)扱いとなり、それらに対応した運転免許が必要となる。また、道路運送車両法では0.6kW以下を原付一種(50cc以下)、1kW以下を原付二種(50cc超125cc以下)、1kWを超える車両については軽二輪(125cc超250cc以下)として扱われている。

BMW・C evolutionは普通二輪免許、AT限定普通二輪で運転できる

 つまりこういうことだ。定格出力0.6kW以下なら原付免許で乗れるのでクルマの免許を持っていればオーケー。0.6kW超1kW以下のものは小型二輪免許が必要で、実質的にはスクーターがほとんどなのでAT限定小型二輪免許で乗れる。そして1kW超のタイプについては普通二輪免許か同様にAT限定普通二輪免許が必要ということになる。


 ちなみに人気テレビ番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか」で一躍有名になった「E-Vino」や従来の電スクと呼ばれるタイプのほとんどは原付一種扱いで、「PCXエレクトリック」は原付二種扱いとなる。前述のBMWの「C evolution」などは大型スクーター並みの動力性能を持っているが日本では軽二輪扱いとなるので車検が必要なく、AT限定普通二輪免許で乗れる。

静かでクリーンで加速が良く経済的

 クルマだけでなくバイクの世界でも今後電動化が進んでいくことは間違いないだろう。ガソリン車も残るだろうが、奇跡の新技術が発明されない限りは徐々に電動化率が高まっていくのは必然と思われる。そして、コミューター領域からそれは始まるはずだ。


 EVのメリットとは何だろう。よく言われるように、まずガソリン車と比べて静かでクリーンなことが挙げられる。電動モーターなので当然、排気音や排ガスが出ない。多くの人々がひしめく都市部では受け入れられやすいわけだ。それでいて、最近の電動2輪は走りもいい。例えば前述のPCXエレクトリックはガソリン車のPCXとスペックで見比べると最高出力こそ半分だが、一方で最大トルクは1.5倍もある。瞬間的に高トルクが出せる電動モーターの特性を生かした発進加速の良さが電動2輪の強みである。これもストップ&ゴーが多い都市部ではメリットになる。さらに大きなアドバンテージとなるのが経済性。同じ距離を走るために必要な電気代をガソリン車と比べると、大雑把に3分の1程度と言われている。原付スクーターは元々燃費がいいのでそれほど大きな負担にはならないが、毎日の通勤に何年も使い続けるとなるとその差も広がってくる。オイル交換なども含めたランニングコストとなるとなおさらだ。

EVの未来はバッテリー性能にかかっている

 反対にデメリットはどうだろう。まず価格が高い。現状では同クラスのガソリン車に比べてかなり割高で、例えばPCXエレクトリックはPCXの倍以上の価格設定といわれている。そのコストのほとんどがリチウムイオンバッテリー代。つまりイニシャルコストがかかるわけだ。


 また、一充電当たりの航続距離が短いのも難点。PCXエレクトリックもWMTCモードでは50km以上と販売国の8割以上のユーザーの1日当たりの実用距離をカバーしているデータもあるが、ガソリン車のPCXなら同条件で400kmと大きな差がある。しかも充電するには家庭用100V電源で6時間程度かかるなど時間と手間がかかる。長距離通勤の場合、毎日充電する必要が出てくるわけで、忙しい現代人にとっては面倒かも。というように、電動2輪は都市型コミューターとして有望ではあるが、まだまだ解決すべき課題も多い。ただ、これらの問題はすべてバッテリーの性能にかかっているので、次世代型バッテリーの開発が進めば一気に解決される可能性も高い。

可及的速やかなインフラ整備が求められている

 そしてもうひとつの大きな課題がインフラの整備だ。昨年、実際に電動2輪でツーリングした経験からすると、一番困ったのが充電。まずもって電動2輪用の充電設備がないのだ。4輪用の充電ステーションは最近急速に普及していて、ディーラーやコンビニ、ショッピングモールの駐車場など至るところに設置されているが、こと2輪用に関しては皆無に近い。さらに充電用ソケットを装備した輸入モデルの大型電動スクーターなどでも「前例がない」という理由で4輪用の充電施設を使わせてもらえなかったり、充電ソケットは接続できてもチャージャー側の機械に認識されず結局充電できない場合もあった。また、4輪では一般化している国際基準の急速充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)にも一部のブランドを除いて対応していないことも踏まえ、出先での“電欠”には事実上対応できないなど、現状における電動2輪はユーザーにとって便利で使いやすい乗り物には未だなっていない。


 とするならば、電動2輪のさらなる普及のためにはバッテリーを含めた車両の開発とともに、充電ステーションなどのインフラ整備をスピード感を持って進めていくことが求められるだろう。

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