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マクラーレン570GTか、ポルシェ911ターボSか……最高のGT対決!


GTとスーパースポーツの違いをあえて定義づけるとしたらやはり実用性の有無ということになるだろう。マクラーレンで唯一GTを名乗る570GTとスーパースポーツカーの中でも随一の実用性を誇る911のフラッグシップ、ターボSを乗り比べて、それぞれのGT観に迫ってみることにしよう。


REPORT◎永田元輔(NAGATA Gensuke)


PHOTO◎篠原晃一(SHINOHARA Koichi)

McLaren 570GT

 「グランツーリスモはイタリア語。英語ではグランドツーリング。元来は快適な居住性を備え、高速での長距離走行に適した高性能乗用車を言う。実用車の範疇に入るクルマにもグランドツーリングのイニシャルをとってGTと名付けた高性能モデルがある」


 


 これは自動車用語の辞書「大車林」(三栄書房)に掲載されているグランドツーリングの意味である。


 


 グランドツーリング、つまりGT。昔からある言葉だが、本来の意味は高性能な乗用車に与えられる名称なのである。乗用車だから居住性にも積載性にも優れる。それでいてスポーツカーのように高性能。1970〜80年代にGTという名を一気に広めたスカイラインなどは、まさにこの定義にピッタリと当てはまるクルマだったと言えるだろう。

 だからこそ、マクラーレン570GTが登場した時には、少し驚いた。いくら技術が進歩して、スーパースポーツカーにも快適性や実用性が備わるようになったとはいえ、ミッドシップのスーパースポーツにGTという名は少々不釣り合いなのではないか、と。マクラーレンのスポーツシリーズである570は、570S、570スパイダー、そして570GTというバリエーションを持つ。このクラスで3種類のボディを展開するのはかなり珍しい。そして570GTがGTの名を与えられた所以は、リヤに備えられたラゲッジスペースの存在である。


 


 2つのシートの背後、エンジンの上はレザーで美しく覆われたツーリングデッキと呼ばれるラゲッジスペースとなっており、手荷物を気軽に置くことが可能。さらにリヤガラスは横ヒンジで開閉可能で、外からも荷物を出し入れできるという工夫もなされている。2名で乗るとバッグの置き場にさえ困ってしまうのがミッドシップスポーツ。それを考えれば570GTのこの発想は画期的だ。フロントノーズにもそれなりの広さを持つラゲッジスペースが用意されているので、2〜3泊の旅行もこなすことができるだろう。

570GTの最大の特徴は、シート背後が収納スペースとなっていることだ。ちょうどエンジンの上部にあたるこのスペースには室内からだけでなく、リヤのハッチを開けて外からアクセスすることもできる。

 ただ、その実用性以外はGTというよりも明らかにスーパースポーツカー。ゆったりと長距離をツーリング、ではなく山道のコーナーを気持ち良く走りたい、できればサーキットへ、という気にさせるクルマである。構造体はモノセルIIと呼ばれるカーボンモノコック。この強固なシャシーが生み出す巌のようなボディ剛性が絶妙なドライバーとクルマとの一体感を生み出してくれる。


 


 ボディがしっかりしているから、サスペンションもしなやかでよく動く。コーナー手前で減速しながらステアリングを切り込んでいくと、適度なロールとともに素早くヨーが発生する。その一連の動きに過敏さはなく、実に素直で雑味がない。ボディサイズはそれなりにあるのに、まるでひと回り小さなクルマを運転しているかのような感覚に陥るのは、約1500kgという軽量なボディ、そして重心の低さによるところが大きいだろう。

前方だけでなく後方の視界にも優れる570GT。パノラミックルーフにより室内は明るい雰囲気に満たされる。

 そしてこの570GT、視界が非常に良いことも特筆すべき点である。前方はもちろんだが、ミッドシップカーのウイークポイントである後方視界も優れているので街中での運転も苦にならない。これもGTとしては大事な要素だ。


 


 マクラーレン570GTは570ps、600で価格は2810万円。実はこれとほぼ同スペック、同価格のGTがある。そう、ポルシェ911ターボSである。570GTより2気筒少ないが580ps、750、排気量も同じ3.8ℓで価格は2630万円だ。

911ターボSの持つ郷愁とは……

 元来、リヤシートと大きなラゲッジスペースを備えた911は実用性に非常に優れているが、そのラインナップの中でもGTと呼ぶに最もふさわしいのはターボS以外にないだろう。低回転から発する図太いトルクとどこまでも伸びていくパワーは、すべてのシチュエーションで無類の扱いやすさと速さを誇る。570GTのような軽快さではなくどっしりとした重厚さを感じさせるステアリングフィールで、高速道路を長距離移動するのにこれほどふさわしいクルマはないとさえ思える。


 


 比類なき直進安定性の高さはAWDのおかげでもある。昔の911は高速になればなるほどフロントの接地感が希薄になり、安心してアクセルを踏み込めなかったが、それはもう完全に過去の話。リヤエンジンという基本スタイルを維持したままで、ここまでスタビリティを高めたヴァイザッハの技術陣には本当に敬服する。たとえ天気が大雨でも安心して超高速クルージングができるのだから、GTとしての資質は世界最高峰だとさえいえるだろう。

4人乗りという実用性の高さが911の美点。リヤシート後ろにも手荷物を置くスペースがある。

 もちろんサーキットやワインディングも余裕でこなすが、それを重視する人にはGT3やGTSなどが用意されている。この振れ幅の大きさ、バリエーションの豊富さも911が半世紀以上に渡って支持されてきた理由のひとつだ。


 


 乗用車とは言えないが、スーパースポーツカーとしては比較的アップライトな着座姿勢や優れた視界は、日常の使用でもまったく不満はない。それこそ後席が狭いことを気にしないのなら、ファミリーカーとしてだって使えるはずである。

カーボンセラミックのローターを標準装備。速さを上回るブレーキ性能はいつの時代も変わらないポルシェの美点だ。

 マクラーレン570GTとポルシェ911ターボS。GTという観点で選んだ2台だが、それぞれの個性には明確な違いがある。純粋なGTの意味から言えば、よりふさわしいのは911ターボSだろう。しかし570GTもミッドシップのスーパースポーツカーとして、これほどの実用性を持つクルマは唯一無二だ。


 


 テクノロジーの進化が生んだクルマたちに、いささか古臭いGTの定義を当てはめるのはナンセンスかもしれない。しかし高性能と実用性というGT本来の条件を、この2台は方向性こそ異なれど、確実に満たしている。そしてGTという響きに我々が感じる郷愁のようなロマンも、この2台には確かにあるのだ。




※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。

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