CクラスのAMG最速モデルC63 Sが大幅な進化を遂げた。トランスミッションが9速となったほか、AMGGTRにも採用されるAMGトラクションコントロールの搭載など、走りの性能が大幅にブラッシュアップされている。新規導入となったCLS53とともにFSWでアタックした。
REPORT◎島下泰久(SHIMASHITA Yasuhisa)
PHOTO◎市健治(ICHI Kenji)
秋晴れの空の下、富士スピードウェイを舞台にメルセデスAMGの最新モデルを試すチャンスを得た。ステアリングを握ったのは2台。フェイスリフトを受けたばかりのメルセデスAMG C63 Sセダン、そしてメルセデスAMG CLS53 4 マティック++である。
Cクラスのフェイスリフトにほんの少しだけ遅れて新しくなったC63 Sが搭載するのはワンマン・ワンエンジンの哲学の下に手組みされた4.0ℓV型8気筒ツインターボユニット。最高出力510ps、最大トルク700Nmというスペックは従来と変わらないが、トランスミッションは従来の7速に代わって新たに9速のギヤを備えたAMGスピードシフトMCT 9Gが組み合わされる。
内外装の変更点は基本的に標準のCクラスに準じる。C63 Sならではのものとしては、新意匠のステアリングホイールの右側にドライブモードの切り替えダイヤルを、左側にESPやダンパーの調整スイッチを備えることが挙げられる。
注目はスタビリティコントロールである。新採用の「AMGダイナミクス」は、自由に切り替えられるモードに応じてESPの介入度合いなどを調整できるようにしたもの。そして「AMGトラクションコントロール」は、先にAMG GTRに搭載されたもので、ESPをオフにした際にトラクションコントロールの効き方を9段階で任意に設定できる機能である。
試乗車は新旧が用意されていたが、新型で走行できるのは4周が目一杯。そこで今回は最初からESPはオフにして、AMGトラクションコントロールの効きを確認しながら走ることにした。
ピットロードを出てからの加速は正直なところ7速でも9速でも、とにかく速いとしか言いようがない。実際のタイムには差があるのかもしれないが、一気に吹け上がりシフトアップして、また一気に……という繰り返しなのは両車、一緒である。
新旧で明らかに異なるのはコーナリングだ。スパッと鋭くノーズがインに向く一方、リヤが落ち着かず、アクセルワークに細心の注意を必要とした旧型に較べると、ターンインはわずかに穏やか。もしかしたら舵角も増えているかもしれないが、代わりにアクセルを入れた時の挙動の一貫性、安心感は格段に増していて、臆することなく踏んでいくことができるようになった。正直、これまでは特に雨が降ろうものならまったく楽しめなかったハンドリングが、劇的な進化を遂げたのだ。
それを確認した後、AMGトラクションコントロールのダイヤルに触れてみる。もっとも強く効く“9”だと右足で姿勢を変化させるのは難しいが、“6”辺りからはリヤが動きはじめ、“3”にすれば相当アクセルコントロールの余地が出てくる。しかも滑っても、横に逃げるばかりでなく前にクルマが進んでいくから積極的な走りを楽しめた。
正直、じゃじゃ馬で手に余った従来のC63 Sはまったく好みではなかったのだが、新型でその評価は一変した。思わず、自らの習熟具合やサーキットの特性に合わせてAMGトラクションコントロールの設定を変えつつ色々なコースを回るなんて日々を想像してしまった。
味わい深いCLS53 4マティック+の走り
その後だと、さすがに物足りないかも……。3.0ℓ直列6気筒ターボエンジン+ISG+電動コンプレッサーというパワーユニットを積むCLS53 4 マティック+に乗る前にはそうも思ったのだが、実際に走らせてみると直列6気筒ならではのスムーズな吹け上がり、どんな回転域からでも右足の動きに即応するツキの良さが、想像以上に楽しめてしまった。このエンジンの味わいの濃さには病みつきにさせるものがある。
ワインディングではニュートラル感たっぷりの走りを楽しませてくれる電子制御式4WDシステムの4マティック+だが、サーキットでの走りは安定方向に終始する。腕利きには物足りないかもしれないが、安心感が高いのも確か。53シリーズの位置付けなら、これで正解だろう。ブレーキについては効き、耐久性ともにもう一段のレベルアップを望みたいところだが、全体に非常にバランスの取れたスポーツセダンに仕上がっていることは間違いない。
今回確認できたのは、43シリーズに続く53シリーズの登場により、いわゆるエントリーレベルが充実した一方で、これぞAMGと言うべき63シリーズはスポーツカーとしての深みを格段に増したということである。メルセデスAMGの世界が全方位に拡張されたと言い換えてもいい。とりわけ今回、個人的にはC63 Sの熟成ぶりに大いに舌を巻いた。そしてちょっとだけ「分かっていたなら最初からやってくれよ」と言いたくなってしまった次第である。
※本記事は『GENROQ』2019年1月号の記事を再編集・再構成したものです。