日本の代表するセダン、それがトヨタ・クラウンだ。2018年にフルモデルチェンジを受けて、TNGAのGA-Lプラットフォームを得た新型クラウン。ニュルブルクリンクで走り込んだという新型クラウンをジャーナリスト世良耕太が試乗。果たして、そのキャッチコピー通りだろうか?
TEXT&PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
F1といいたいところだが、ドメスティックなので、全日本F3000
説明するまでもないことを説明しておくと、トヨタ・クラウンはトヨタブランドの最上級モデルだ。昭和の時代はカローラ、コロナ、マークIIとステップアップして、最終的に到達すべき頂点に位置した。レースカテゴリーのヒエラルキーにあてはめれば、ゴーカートから始まってジュニアフォーミュラを通過し、ミドルフォーミュラで腕を磨いてトップフォーミュラにたどり着いたようなものである。F1といいたいところだが、ドメスティックな世界での争いなので、全日本F3000としておく。
いずれにしても、頂点だ。しかし、カローラ、コロナ、マークIIを引き合いに出したように、スポーツカーの頂点ではないはずである(それぞれ、スポーツグレードの設定はあったにせよ)。セダンの頂点、サルーンの頂点であったはずだ。クラウンは高級車の代名詞的存在である。少なくとも筆者の認識としては。
ニュルブルクリンクで走り込んだ最新のクラウン(試乗車は2.5ℓ HYBRID G)はどうかというと、ニュルで鍛えただけあって、というのはつまり、大きな入力があった際にもグラグラしないよう体幹や足腰が鍛えられているということだ。そんな具合だから「クッションがいい」という表現はあてはまらないが、じゃあ乗り心地が悪いかというとそんなことはなく、フラットライドである。マスのあるタイヤ&ホイールが路面の凹凸に合わせてドタッ、バタッと勢いよく上下している様子は激しい音で車内に伝えてくる。でも、ショックは感じない。
静かなのは相変わらずだが、静かなだけに、EV走行をしていてエンジンが始動したときの静から動への落差が大きく、「うーん、エンジンかかるとうるさいなぁ。なんとかならないかなぁ」と思いながらの走行になってしまう。ただし、高速道路ではロードノイズや風切り音にエンジンの音が飲み込まれてしまうので気にならない。
現行クラウンのキャッチコピーは「未来とつながるか。」である。この表現はコネクテッドサービスを指したものだろう。走行中にトークスイッチを押すとオペレーターにつながって運転手のリクエストに応えてくれるとか、クルマから離れていてもドアやトランクの開閉状態をスマホで確認できるとか、LINEアプリを通じてナビの目的地登録ができるといったような。
残念ながら、今回の試乗ではそうした「未来」を確かめることなく過ごしたが、じゃあクラウンの室内はそうした未来とマッチするムードで満たされているかというと、筆者はそう感じなかった。筆者の感覚としてはメルセデス・ベンツAクラスのギンギラギンな演出のほうに未来を感じる。たとえコネクテッドしていなくても。
ステアリングホイールの奥にあるメーターは、「目盛りや数字を刻んだ透明なアクリルパネルを指針の手前に置き、両サイドにあるLEDを発光させることで浮いて見えるように演出」(公式ホームページより)してあるが、もっと攻めていんじゃないだろうかとの思いを禁じ得ない。ひょっとして、視認性に関するトヨタの厳格な社内基準が過度なアソビを押しとどめてしまう方向に作用するのだろうか。それともセンスの問題か。
確かに視認性は高いし、着座姿勢はきちんととれるし、視界は良好。取り回しも楽で、運転にまつわるストレスは一切なく、極めて快適なクルマである。クラウンのトヨタ・ブランドによる位置づけなどという小難しいことさえ考えなければ、とてもよくできたプロダクトであり高級車だ。でも、国産ブランドの最高級だと思って遠視点ディスプレイ(主にナビを表示)とトヨタオペレーションタッチ(主にエアコン画面を表示)のダブルディスプレイを見るにつけ、未来ではなく銀行ATMのタッチ画面を見るような現実に直面してしまうのである。
多分に日本的と言われればそれまでだが。
トヨタ・クラウンハイブリッド G
■ボディ寸法
全長×全幅×全高:4910×1800×1455mm
ホイールベース:2920mm
車両重量:1750kg
サスペンション:F/Rマルチリンク
駆動方式:FR
■エンジン
形式:直列4気筒DOHC
型式:A25A-FXS型
排気量:2498cc
ボア×ストローク:87.5×103.4mm
圧縮比:14.0
最高出力:184ps(135kW)/6000rpm
最大トルク:221Nm/3800-5400rpm
使用燃料:レギュラー
■トランスミッション
CVT(THSⅡ)
■燃費
JC08モード燃費:24.0km/ℓ
価格○562万1400円