東レは、このたび、強度と弾性率を両立させた新しい炭素繊維を開発し、トレカMXシリーズとして今後さらなるラインナップ拡充を目指す。また、トレカMXシリーズを使用した高性能中間基材(プリプレグ)の展開により、炭素繊維の用途拡大にも貢献していく。
炭素繊維の繊維強度と弾性率は本来トレードオフの関係にあり、これらの両立を実現させることは、炭素繊維の使用量を減らしても同等の性能が維持でき成形部品の軽量化につながるため、市場から強い要望がある。また一般的に、弾性率350GPa以上の炭素繊維を高弾性率炭素繊維と呼び、高弾性率を保ったまま繊維強度を上げることは技術難易度が高く、大きな課題の一つとされてきた。
東レはこれまで、高弾性率炭素繊維であるトレカMJシリーズを上市し、主に航空や産業、スポーツ用途など、高弾性率が要求される用途に採用されてきた。さらに、2014年には世界最高強度をもつ炭素繊維「T1100G」(強度:7GPa、弾性率:320GPa)を上市し、ハイエンドのスポーツ用品や航空・宇宙分野の構造材まで、炭素繊維の活躍の可能性を拡大し続けてきた。
今回、新たに展開するトレカMXシリーズは、トレードオフの関係にある繊維強度と弾性率の両方を極限追求し、従来よりも細かいナノレベルで繊維内部の黒鉛結晶構造を緻密に制御し配向性を高める技術を適用している。トレカMXシリーズの最初の品種である「M40X」は、従来の炭素繊維と同等の弾性率を保持したまま、強度を約30%向上させることに成功した。
併せて、炭素繊維と同時にトレカMXシリーズのプリプレグも展開していく。東レ独自のナノテクノロジーであるナノアロイ※技術をマトリックスに適用したトレカMXシリーズのプリプレグは、従来品に比べ、引張強度や圧縮強度、耐衝撃性が大幅に向上している。強度を保持したまま理想的な剛性設計が可能となるため、成形部品の軽量化に貢献できる可能性がある。今後、市場のニーズにあわせてラインナップを拡充させ、高強度、高圧縮強度を必要とされる用途に展開していく予定。
東レは中期経営課題 “プロジェクト AP-G 2019” において、炭素繊維複合材料事業を戦略的拡大事業と位置づけており、積極的な経営資源の投入による事業拡大を進めていく計画だ。東レは今後も、炭素繊維トレカおよびトレカプリプレグの一層の高性能化やプロセス加工性改善を通じて新製品の開発に取り組み、素材の力で社会を変革していく。
※『NANOALLOY(ナノアロイ)』:複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる東レ独自の革新的微細構造制御技術。