SKYACTIV-Xエンジンにばかりに注目が集まる新型MAZDA3(日本名アクセラ)だが、もうひとつの重要な柱が、SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE。SKYACTIVコンセプトの哲学である“原理原則”と“人間中心”を立脚点として構築された車両構造を指す。
TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)
人間が本来持っている移動手段は“歩行”。その際の体の動きを分析したところ、脚の動きに合わせて骨盤と上半身を逆位相に動かし、頭部の動きを抑えていることがわかった。クルマを運転している際にも、この機能を発揮させることができれば、頭部の安定した運転が維持できるようになり、クルマとの一体感が高まって、運転しやすく疲れにくいクルマに感じられるはず。それを実現するための車体構造が、SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREである。
それに必要なのは、ドライバーを歩行時同様の姿勢で座らせ、歩行と同じような入力を感じさせること。そこでまず、ドライバーが着座した際に、骨盤から上が歩行時と同じ姿勢になるよう、シートクッションの形状を作り込んだ。具体的には、骨盤を立て、脊椎が自然なS字を描くような姿勢である。
さらにシート骨格は、①荷重伝達の遅れを最小限にすること、②荷重伝達特性に変曲点を作らないこと、を目標に、フレーム剛性の向上や、可動部のガタの排除を実施。これによって、バネ上の動きに対する骨盤の変位を抑制し、脚からの入力と同じように、クルマの動きを骨盤に伝える構造を作り上げた。
シートのつぎは、ボディ骨格。これも、サスからの入力の伝達を遅れなく伝えることを目指した。有り体に言えば「ボディ剛性の向上」だが、得に注力したのが、対角方向の変位。いわゆる「捩り剛性」だ。
具体的には、ボディ側面の環状構造もしっかりとつなぐこと。従来は、ボディを輪切りにする方向の骨格は“環状”が成立していたが、後席ドア開口部はホイールハウス部に骨格が通っておらず、環状構造が途切れていた。新構造ではここをつないだのに加え、他の骨格の結合部分も稜線を滑らかにつなぎ、伝達特性の変曲点を排除。リヤサス入力をバックドア開口骨格に伝達するなどの改良を行い、フロントダンパートップに入力されてから対角のリヤダンパートップに伝達されるまでの時間を約30%短縮している。
バネ上のつぎは、バネ下の対策。従来は、タイヤやサスペンションアーム、バネ&ダンパーは別部品として設計され、チューニング領域で乗り心地を仕上げていたが、これをひとつの“系”として捉え直した。チューニング領域でも、従来は入力のピークを抑えることに注力してきたが、入力の変位を滑らかにすることを重視する方向に変更を図った。力は「質量×加速度」だから、「加速度の変位を滑らかにする」と言い換えても良い。
例えばこれまでは、タイヤは転がり抵抗の低減を優先し、サイドウォールの剛性を高めに設計していた。しかし、タイヤが変形しにくい分だけ、加速度は唐突に立ち上がる。これがサスペンションアームに伝わると、アームが変形して加速度が小さくなるが、バネ&ダンパーが作用し始めると、加速度は再び立ち上がる。加速度が不規則に変化するということは、歩行で言えば不整地や滑りやすい道を歩いているのと同じで、人体のバランス保持機能では追従しきれない場合も出てくる。
そこで、加速度の変位を可能な限り抑制できるよう、タイヤの縦バネやサスペンションアームの剛性、ジオメトリー剛性などを連続した“系”として設計。加速度の変位に伴うギクシャクした動きを抑制することで、人体への入力を歩行時のそれに近づけた。
以上が公表されている資料から読み取ったSKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTUREの理屈だが、実はアテンザやCX-8には、すでにこうした考えかたの一部が反映され始めており、試乗すればはっきりと体感できるほどの効果を得ている。
それが“全部載せ”になったら、どんな性能になるのか。新型アクセラに試乗できる日を、楽しみに待ちたい。