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ロールス・ロイス・ファントムを運転してみたら、ドライバーズカーにもなり得る実力に思わず唸った


ショーファードリブンの王様といえば、やはりファントムだろう。新開発のアルミスペースフレームボディにファントム史上初の6.75ℓ V12ターボエンジンを搭載した8代目の世界観を再考する。


TEXT◎渡辺敏史(WATANABE Toshihumi)


PHOTO◎神村 聖(KAMIMURA Satoshi)

 ロールス・ロイスを陸の帝王たらしめている最大の要因といえば、ブランドの象徴でもあるファントムの存在だろう。


 


 その歴史は社会状況の変化などもあって途切れ途切れではあるものの、90年以上前の1925年、元号でいえば昭和元年から連綿と続くものだ。ゆえに現体制でBMWが、まずこのファントムを強固な中核としてトップダウン的にモデルラインナップを再構築するブランディングを考えたのは当然といえる。


 


 イアン・キャメロンの手になる7代目ファントムは2003年の登場以降、見事に21世紀のロールス・ロイスの何たるかを世に知らしめた。伝統と革新という大義的な題目をこれほど端的に示したデザインは他類がない、近年稀にみる佳作だと思う。その力強いモードは後にクーペ&ドロップヘッドやゴースト、レイス、ドーンといった様々なモデル群に展開されていくも、現にその気高さには微塵の揺らぎもない。

 8代目となるニューファントムは躊躇なくその世界観を継承している。エクステンデッドボディは中国でさえやや長いという市場からの声を受けて7代目に対して100㎜程度短い6m切りを果たしたが、2m超えの全幅にSUV並みの全高という寸法構成は相変わらずサルーンとしては規格外だ。取材当日は新型センチュリーと並ぶこともあったが、車格的には2セグメントは違うくらいの「圧」を放っている。


 


 もはやそのくらい図抜けた存在とあらば、寸法変更に伴って室内も狭くなったのかと気に留める意味もないだろう。ファントムEWBの後席空間は相変わらず前後左右に広大だ。前後席間に明確な高さの違いがあった7代目に比べれば8代目はわずか低くなったような気もするが、それは外訪者の錯覚かもしれない。逆にいえば乗り慣れたオーナーにおいてはまったく違和感なくいつもの場所で寛ぐことができるよう、あらゆるものの操作やタッチに至るところが7代目のそれを踏襲している。大きく変わったものといえばピクニックテーブルとモニターの位置関係や電動チルト化されたフットレストくらいだろうか。


 


 それだけ広大な空間を有していながら、調整式のリヤシートは最大限に動かしたところで、寝そべるようなポジションに至るわけではない。車中でそこまで弛緩させるつもりはないという、極めて英国的な節度がそこにある。一方で、シートクッションのストローク感は絶妙で、体は滑り潜ることなくふわっと浮遊しているかのような沈み込みを実現している。徹底的に鞣なめされた表皮のタッチと併せて、姿勢を崩さずとも十分に寛げる着座感はロールス・ロイスならではのものだろう。

 たとえば東京の都心部のような、せいぜい60㎞/h以下の低中速域では、時折小さな凹凸やマンホール段差などで特に後軸側からのわずかなコツコツ感が見て取れるが、首都高〜高速道路の速度域になればそれすらも霧散する。




 そしてこの域になると車両全体の上下動量も7代目より若干抑えられているようだ。ともあれ速度を問わずロードノイズや風切り音は徹底的に封じ込められていて、エンジンは始動時から隣の家の出来事のように存在感が遠い。マジックカーペットライドは古くからロールス・ロイスを指すものとして用いられているが、そりゃあ乗り心地はそうとしか例えようがないだろう。

さあ、いよいよ運転席へ……

強化ガラスで覆われた12.3インチのTFTディスプレイを採用する。ロールス・ロイスが「ザ・ギャラリー」と呼ぶインテリアはダッシュボードをガラス張りに設えている。

 運転席に居場所を移すと、目立たないようにではあるがデジタル化が着実に進められていることがわかる。象徴的なのは液晶化されたナセル内の三眼メーターだが、見た目は無機質な印象で、ここは従来通り細いニードルの物理針の方が趣があったと思う。一方でダッシュボードは全体がガラスで覆われ、その中にはオーナーの意向を形にしたオーナメントがギャラリーのように収まる。この面白い試みも含めて、新型ファントムではパーソナライズを加えるスペースが一段と増やされた。


 


 7代目よりも気持ち小さく太めに仕上げられているだろうステアリングを握り、スロットルに足を置くと、操作系の適切な重みのおかげで、何も気構えずともごく自然な操作で必要なぶんだけの操舵ゲインと駆動トルクがじわじわと湧き上がってくる。2.7tを超える大きなマスが掌に収まったかのように、Gのコントロールは自在だ。そして外から見れば小山のような体躯は、フェンダーが摘み上げられた伝統的なボディワークもあって前方車両感覚は実に把握しやすい。


 


 とはいえ2m超の全幅とあらば首都高でもちょっとトレースには気を遣うが、操舵応答のラグが減ったこともあってこの巨体は意外なほど思い通りに走り曲がる。が、停まるに関してはもちろん身軽なサルーンのようにはいかないことは察しておくべきだろう。

前席背面には電動格納式のモニターが標準装備される。

 7代目では8時20分位置でステアリングを握り、送りハンドル気味に走らせるのが一番収まりが良かったファントムは、この新型になってドライバーズカーとしての適性を大きく高めてきた。歴然と進化し今日的になったADASも、ショーファーのためというよりもオーナードライバーのために用意されたものかもしれない。


 


 その影響が件の低速域での粗さに現れているとすれば残念だが、これは今後のキャリブレーションで如何様にでも調律できるほど些細なものだ。サルーンの頂点として静的にも動的にも圧倒的な存在であり続けるという絶対使命を、新型ファントムはルーティンのごとく事もなげに果たしているようにみえる。その余裕にはため息しか出ない。




※本記事は『GENROQ』2018年10月号の記事を再編集・転載したものです。





SPECIFICATIONS


ロ ー ル ス・ロ イ ス・エ ク ス テ ン デ ッド・ホ イー ル ベ ース


■ ボ デ ィサ イ ズ:全 長5990×全幅2020×全高1645㎜ ホ イ ー ル ベ ー ス:3770㎜ ■車両重量:2750㎏ ■ エ ン ジ ン:V型12気筒DOHCツインターボ 総 排 気 量:6749㏄ 最 高 出 力:420kW(571㎰ )/5000rpm 最 大 ト ル ク:900Nm(91.8㎏m)/1700〜4000rpm ■ト ラ ン ス ミッ シ ョ ン:8速AT ■駆動方 式:RWD ■ サ ス ペ ン シ ョン 形 式:Ⓕ ダ ブ ル ウイッシュボーンⓇ マ ル チ リ ン ク ■ ブ レ ー キ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク ■タイヤサイズ:Ⓕ255/45R22 Ⓡ285/40R22 ■パフォーマンス 最 高 速 度:250㎞/h( リ ミ ッ タ ー 作 動 ) 0→100㎞/h加 速:5.4秒 ■ 車 両 本 体 価 格:6540万円
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