2015年に発覚したVWグループの排ガス不正操作、いわゆる「ディーゼル・ゲート」は欧州でのディーゼル車の販売に直接的なダメージを与えた。同時にWLTP~RDEという排ガス規制そのものの厳格化によって、乗用車用ディーゼルエンジン(DE)の命運は尽きたに見えた。実際、日本のDE車は次々に欧州での販売を中止したし、あるエンジニアリング企業は「ディーゼルゲートがニュースになった直後に、進行していたDEの開発プロジェクトはすべてストップがかかった」という。1990年代から欧州を席巻していたDEブームは終焉、新型エンジンは三元触媒で排ガスの抑制が容易なガソリンターボエンジンとハイブリッドにシフトを始める。そこに英仏政府の内燃機関使用自動車の禁止政策発表である。最早DEに将来性はない……と思われていた矢先、2018年の「インターナショナル・ウィーン・モーター・シンポジウム」に於いて、VW、ダイムラー、BMWのドイツ御三家が揃って新型DEの概要を発表した。
TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)
そこではVWが自社のパワートレーンの将来予測を公表している。VW全体でBEVとPHEVを合わせた電動車両のシェアは、現在3%に過ぎないという。2025年にはそれを25%まで増やす目標を立てているが、それでも内燃機関の占める比率はマイルドHEV等を合わせて75%にも達する。その後の15年間で内燃機関を撤廃するのは不可能、という見立てを暗示しているわけだ。
内燃機関によるCO2発生の問題は、燃料を石油由来のものに依存するのではなく、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電で水を電気分解し、発生した水素を一酸化炭素を反応させて炭化水素類を取り出す「フィッシャー・トロプシュ法」を使った合成燃料の使用で抑制できるとしている。フィッシャー・トロプシュ法自体は第二次大戦以前からある確立された技術ではあるが、一酸化炭素の供給に主に生石炭を使うことから、CO2の抑制に貢献しないという声がある一方、合成された炭化水素(ガソリン・軽油・ガス)には硫黄分が含まれないというメリットもある。また、石炭(一酸化炭素)を使う従来型の手法ではなく、二酸化炭素を利用して炭化水素製造時に吸収→消費時に発生というサイクルを持たせることで、カーボンニュートラルとする方法も動き始めている。
要は電動化が目的ではなく、CO2削減による温暖化防止が求められているわけだから、CO2を増加させなければ内燃機関の利用でもOK、という理屈なのである。そうなるとガソリンエンジン(GE)より本質的に熱効率の高いDEには、まだまだ分がある、という見立てになる。
VWが供給する110kWクラスの内燃機関をGEとDEで比較すると、発生トルクは340Nm/250NmとDEの方が35%高く、ドイツ人の平均的なドライバーが運転した時の平均燃費は15.4㎞/ℓ/12.8㎞/ℓと2割がたDEが優位というデータを示して、逆風の中新DEを開発する価値があるとしている。
CO2抑制に勝機はあるといっても、もう一方の課題であるDEの排ガス対策は容易ではない。そもそもディーゼルゲートが起きたのも、出力を維持したままNOxを抑えることがきわめて難しかったからなのだ。
御存知のように、DEはGEのように三元触媒(酸化+還元触媒)を使って排ガス浄化をすることができない。三元触媒は空燃比を正確にストイキオメトリーに制御しないと機能しないのだが、スロットルを使って空気量を決定してから燃料を混合して燃焼させるGEに対し、DEは空気量は成り行きで燃料の噴射量で出力制御を行う。おまけに現在のDEは100%ターボ過給であり、空気は有り余るほど筒内に送り込まれるので空燃比は確実に酸素過剰になる。酸素が増えれば還元触媒は効かず、燃焼温度が高くなることで酸素は窒素と結びつき、否応なくNOxは生成されてしまう。かといって、燃焼温度を下げると今度はPM(煤と同義)が出るトレードオフがある。