以前にターボラグについての考察を書きました。そこで、「ドライバーがスロットルを踏んでから実際に加速するまでには様々な負荷に抗わなくてはならない」と書きました。昨今のエンジンを語る際に「負荷」というのは重要なキーワードです。というのは、負荷によって同じエンジンでも出力発生の推移ばかりか、燃費まで変わってくるからです。よく「燃費の目玉」という高効率な回転域がエンジンにはありますが、これまた負荷によって変わってきます。ーーーというわけで、今回のお題目は「負荷とは何ぞや」です。
TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)
負荷のハナシに入る前に、燃費のウンチクをしましょう。
燃費の単位は㎞/ℓですね。1ℓの燃料で何㎞走れるか、ということです。アメリカでは㎞がマイルに、ℓがガロンになるし、欧州では分母と分子が逆になって俄には分からない……ということはさておき、日本のJC08規定で30㎞/ℓ走れると表記されたクルマを実際に運転すると、そんな数字はとても無理……ということは常識です。道路の状況やドライバーの運転の仕方によって燃費は変わる、ということは誰でも知っています。でも、それだと欧米のように燃費によってメーカーに罰則を課する規定がある場合、ちょっと困ります。
「あなたの会社のこのクルマは8㎞/ℓしか走らないので、罰金を払ってもらいます」
「おいおい、ウチのテストドライバーが走らせたら15㎞/ℓ走るぜ。そんないいかげんなこっちゃ罰金払えないよ」
ーーーこうなるに決まっています。
そういう自動車メーカーだって、測る度に値が変わってしまう尺度を開発に使うわけにはいきません。ですので、エンジン設計の世界では単なる「燃料消費率」ではなく「正味」燃料消費率(BSFC)という単位を用います。単位はg/kwh。1kWの出力を発生させるのに何グラムの燃料を使ったか(容量でなく重量であることに注目)というもので、出力と同様エンジン単体で計測します。
一般的な燃費単位と何が違うかといえば、BSFCは負荷の変動を計算要素に入れていない、ということです。㎞/ℓ表示がバラつくのは負荷が実走行によるものだからです。そこには坂道もあれば下り坂もあり、渋滞もあれば高速走行もある。何より面倒なのは、ドライバーによってスロットルの踏み方が違うこと。公的な燃費計測ではそうした負荷変動をなるべく排除するために、台上でのスロットル操作を一定のモード走行で行うようになっており、それが「モード燃費」という名の由来です。それでも厳密にはバラついてしまう。技術の世界では不確定要素は取っ払って数値化できる方法を採るのです。