ミラ トコットはその名から想起できるように、ミラ イースの技術を用いて仕立てられている。「運転する人、誰にでもやさしい、“エフォートレス”な新型車」というテーマに沿った開発は、果たしてどれだけ実現しているのか。実際に使われるような走り方で試してみた。
チーフエンジニアの中島雅之氏のプレゼンテーションによれば、トコットは3つの安心を提供。「座って安心」「走って安心」「もしもの時も安心」である。
「座って安心」についてはすでにレポートしたとおりで、ダイハツの誠実さにオッサンの汚れた心は完敗。虚飾を廃しひたすら乗員の安全を担保する設計には感服の一言である。
「もしもの時も安心」についてもぜひ試してみたいが何せクルマはダイハツより預かった大事な試乗車、「壁に向かって走りスマートアシストIIIの威力を確かめる」というコンテンツを作るわけにもいかないので今回は断念した。
というわけで「走って安心」である。プレゼンテーションでは比較的さらりと流されてしまったトコットの機械的特質として、パワーステアリングとサスペンションの項目が挙げられる。前者は「低速域でのハンドルの操舵が軽く、軽快なハンドル操作で、狭い路地の走行や車庫入れがスムーズ」とされる。後者はフロントサスにおけるストラット(ショックアブソーバ)内にリバウンドスプリングを備えることでロールを低減、リヤサスはトレーリングアームピボット部のブッシュ特性の最適化を図ったとある。ならば乗って確かめてみよう。
まずはトコットの把握である。ミラ イースのプラットフォームを用いて仕立てた軽自動車で、全長×全幅は同一値(3395×1475mm)、全高はイースの1500mmに対してトコットは1530mmと少々大きい数字(ともにFWD)。イースは最軽量仕様で650kgという、CVTを用いながらとんでもない軽さを備えていたことが印象的だったが、トコットは720kg。イースの通常仕様670kgと比べれば、50kgの加算である。それにともないエンジン性能はイースの36kW/57Nmに対して38kW/60Nmと、少々増強されている。
ということから、高さが増して重くなったクルマならロール制御もイースに比べて面倒なはず。そこで、いかにも軽自動車が普段走りそうなシチュエーションを模して、ひたすらクルマをいじめてみた。
脇道に曲がるときに歩道の段差と傾斜を越えなければならないシーン。車両前後がねじれるような入力があるとともに、4つの車輪はちぐはぐなストロークを余儀なくされる。段差は小さくなく、前後左右は順にそこを乗り越えていくために4回のショックが伝わる。そんなイメージのシチュエーションである。
試乗前にクルマの下に潜り込んで前後サスペンションを観察したところ、「フロントAアームの前後ブッシュの容量が大きいなあ」「タイロッドは相変わらずまっすぐできれいだなあ」「リヤダンパは後傾させて場所を取ったのか、長いなあ」──といったポジティブな印象に加えて、「サブフレームのボディ側締結はずいぶん腕が長いなあ」「トレーリングアームのピボットはボディからステーを延ばして作っているのか」といった、もしかすると大入力にとっては弱点になるかもしれない部分も見つけていただけに、段差乗り越えの際には剛性感の低さやボディ/サブフレームの変形歪みの伝達、振動と騒音などの現象があるのではないかと踏んでいた。
ところがである。先述の「曲がるときに歩道の段差と傾斜を越えなければならないシーン」で、ココットはドルンヌルリとこなしてしまうではないか。なんだ、スピードが遅すぎたのか。ならばと少し速度上げて進入してみるも、ドン!という乗り越え時の一回の入力で収まってしまう。ボディもサブフレームも大きく歪まず、ダンパーもきちんと減衰しているのだ。あの長いサブフレームアームや板金構造ピボットステーにもかかわらず、である。
ならば今度はロール制御である。ハイト/スーパーハイト系とまではいかないものの、背が高くなったならその分ロールを抑えるのも難しくなっているはず。タウンスピード(30km〜40km/hくらい)で少々速い操舵を試したり旋回のときに速い速度で進入してみたり、果てはダブルレーンチェンジまがいのことを試してみたり──しかしトコットは音を上げない。なんということだろう。
ならば連続高周波の入力はどうだとばかりに石畳を走ってみた。しかしおかしなつっぱり感もなく、素直にドロドロドロドロとトコットは進む。リバウンドスプリングという、いわばダンパーにとっての異物を収めているだけにピストンやバルブの動きも阻害されていると思ったのに──スコスコとじつに素直に動くのである。クルマの軽さが寄与しているのだろう。
惜しむらくはひとりで試乗会に参加したので後席の乗り心地を試せなかったこと。イースの後席は驚くような乗り心地だったのでトコットもきっと期待できるに違いない。