ジムニーと言えば「世界一の悪路走破性能」を持つクルマだ。その走行性能を支えているのは、堅牢なフレームとリジッド式サスペンション、そして「直結式4WD」である。果たして、ジムニーの四駆は、一般的なオンデマンド四駆と比べて、どうなのだろうか?
TEXT◎三浦祥兒(MIURA Shoji) PHOTO◎市 建治(ICHI Kenji)
まずは舗装路で。直結の悪癖、ブレーキング現象は?
現行三代目スズキ・ジムニーを新車で買うなら今がラストチャンス! 新型四代目は7月上旬デビュースズキ・ジムニーのフルモデルチェンジで、ほぼ四半世紀スズキの軽を支えてきた名機K6Aが姿を消す 現在市販されているAWDは、ほとんどがフルタイム、それもオンデマンド式と呼ばれる、通常は二輪駆動のものである。それらは本当に必要な時にしか四駆にならないし、四駆になった時でも駆動力の切替による変化をまったくと言ってよいほど意識させない制御をする。だから、普段の乗車ではAWDの恩恵を体感できることはほとんどない。
良し悪しはともかく、AWDの真価を知るためには、電子制御の手助けがなく、ダイレクトに機械的に前後が繋がり、しかも二駆と四駆をマニュアルで切り替えられるパートタイム直結四駆に乗るのが最良の方法だ。
直結四駆と言っても、実際の選択肢はほとんどない。いわゆるクロカン四駆しかないからだ。その代表がオフロード最強の異名を欲しいままにするスズキ・ジムニー。こいつを舗装路と雪道で、二駆と四駆を切り替えつつ走れば、イヤでも四駆の功罪がハッキリするだろう。比較対象には車格と比出力に大きな違いのないマツダ・デミオ1300AWDとする。FRベースとFFベース、全輪固定車軸と独立懸架、フレームとモノコックという根本的な車体構成の違いは仕方ない。試乗したのは、Motor FanTECH編集長のMである。試乗時には雑念を払い、トラクションと旋回特性だけを感じて乗ってもらう。
初日は神奈川県屈指の屈曲路、丹沢のヤビツ峠からスタートした。低中速の舗装路でアンダーパワーのオンデマンドAWDに乗っても判然としないだろうから、道中はほとんどの区間をM編集長がジムニーを運転する。
秦野市街から峠の頂上まで、適宜二駆と四駆を切り替えながら駆け上ってきたM編集長は「 いやぁ、相当集中して運転したつもりですけれど、違いが全然わからないです」
直結四駆とは言っても、前後荷重によってトルク配分は変わる。今回のような急峻な登りでは荷重も駆動力も後輪に集中するので前の駆動輪があまり悪さをしなかったのかもしれない。
頂上からの下りは勾配もさることながら一挙に道幅が狭くなり、常に大舵角を伴ったコーナリングが連続する。前荷重になるだけでなく、操舵による影響が出てくるはずだ。
「 うわぁ! 全然変わりました。二駆だと常に前輪がフラフラして操舵感が希薄なんですが、四駆にするといきなりハンドルが重くなって、同時に接地感も強くなり、コーナーでの安定感が段違いです」
駆動系が直結になったことで、操舵に連携したサスペンションの動きに前後関連性が強く出始めたのだろう。トラクション云々というよりもアシの動きに締まりが出たことで、安心して運転ができるという。
次に宮ヶ瀬湖畔の駐車場で、ハンドルをフルロックまで切って軽く定常円旋回をしてもらう。四駆に切り替えた途端、後輪が断続的にロックしているのが外から見てわかる。
「猛烈にハンドルが重いです。無理矢理切るとATなのにクリープしない! そのままアクセルを踏むと曲がってはいるけれど、前輪の向きを無視してクルマが真っ直ぐ進もうとしている感じがありありとします」
ここに至って直結の悪癖、ブレーキング現象が現れた。路面に細かい砂や砂利が浮いていたので無理矢理スリップして曲がったが、キレイな舗装ではどうにもならないだろう。試しにデミオでも同じ事を試してもらう。
「 別に何もないですね。四駆になったかどうかはわかりません」
後で筆者がデミオに乗って坂道発進をした時にわかったのだが、滑る滑らないにかかわらず荷重が極端に移動したりした時には、一瞬の間を置いて後輪が加担するのは明らかだった。大舵角での急発進でも同じ。ただし操縦性や舵感への影響はほとんど感じられない。それに比べればジムニーの場合四駆と二駆の落差は激しすぎると言ってよい。確かに四駆にした時の接地感・安定感は顕著だが、それが実際の運転操作に貢献しているかといえば、今ひとつ判然としない。フツウの路面をフツウに運転している限り、直結四駆のメリットは感覚的なものに限定されるというのが、当日の結論だった。