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【ホンダN-BOXvsスズキ・スペーシア試乗インプレ】価格差は税別10万円。だがそれ以上の価値がN-BOXにはある


2011年12月の発売以来、12・13・15・16年の4年にわたり軽乗用車販売台数No.1を記録し、16年12月に累計販売台数100万台を突破したホンダの背高軽ワゴン「N-BOX」は、17年8月末にフルモデルチェンジ。その3ヵ月半後、直接のライバルであるスズキ「スペーシア」も2代目にスイッチした。

スズキとしてはN-BOXのデビュー以来、スペーシアの前身である「パレット」の頃より販売台数でダブルスコアの大差を付けられ続けている雪辱を果たすべく、満を持して投入した新型スペーシアであるが、18年3月の時点でまだその想いは遂げていない。そして、純粋にクルマ同士を比較しても、ともに2代目となった両車はむしろ初代の頃よりも多くの点でN-BOXの方が上回っている。

ホンダN-BOX G・EXホンダセンシング
スズキ・スペーシアハイブリッドX


両車の特徴とスペーシア単独の走りについてはすでに別の記事で紹介しているので、ここでは両車の違いとN-BOXの試乗インプレッションを中心にお届けしたい。今回試乗したのはいずれもFF車で、N-BOXが「G・EXホンダセンシング」(NA・標準仕様)と「カスタムG・Lターボホンダセンシング」、スペーシアが「ハイブリッドX」(NA・標準仕様)と「カスタムハイブリッドXSターボ」だ。

ホンダN-BOXが新型2代目へ正常進化スズキ・スペーシアが“念願の”超個性的なデザインを持つ2代目へ大幅進化!【新型スズキ・スペーシア試乗 標準NAvsカスタムターボ】乗り心地を含めて走りで選ぶならカスタムターボ一択。デザインは標準仕様の圧勝だが…。

N-BOXの走りは背高軽ワゴンの次元を遥かに超えている!

両車がフルモデルチェンジに伴い大きく進化し、ライバルを上回ったポイントは実は明確で、初代で弱点と指摘され続けていた部分と見事に合致している。それは、N-BOXでは走りと安全装備、スペーシアではデザインになる。




初代N-BOXはホンダが初めて手掛ける背高軽ワゴンであると同時に、パワートレインやプラットフォームを含めてすべてを新規開発したものだったということもあり、その走りはやや洗練を欠いていたため、5年半のモデルライフにおいてほぼ毎年のように改良が加えられた。

ホンダN-BOXのS07B型エンジン

そこで新型では、エンジンのボア×ストロークを従来の64.0×68.2mmから60.0×77.6mmに変更する大手術を行い、さらにNAエンジンに可変バルブタイミング・リフト機構「VTEC」、ターボエンジンには電動ウェイストゲートを、軽自動車で初めて採用している。

ホンダの閃き!新型N-BOXに積まれる新エンジン「S07B」
ホンダN-BOXの高張力鋼板使用部位
ホンダN-BOXのシーム溶接および高粘度接着剤使用部位


そのうえボディに超高張力鋼板を多用し、パネル間の溶接・接合にシーム溶接や構造用接着剤を多用することで、剛性を高めながら車両全体で約80kg軽量化。シャシーも基本的な容量・剛性を高めながら高応答タイプのものを積極的に採用した。

【新型ホンダN-BOX詳細・シャシー&ボディ】超高張力鋼板の多用などで約80kg軽量化

これらの効果は、特にNA車で大きな効果を発揮している。最低車重が950kgだった初代は乗り心地とハンドリングと安定性の妥協点をどこに置くかで苦慮し続け、加速性能においても高速道路では流れに乗るのが精一杯だったのに対し、新型はNAでも余裕とまではいかないまでも、頑張れば高速道路でも流れをリードすることができる。

ホンダN-BOXの主な防音材・遮音材使用部位

ホンダN-BOX・FF車のシャシー

そして、ハンドリングこそ新型でも軽快とはいかないが、NA、ターボともロールスピードは遅く直進安定性は抜群で、静粛性も絶品というより他にない。そして、あらゆる路面の凹凸を速度域を問わずキレイにいなし、乗員に不快な入力をほとんど伝えず、フラットな姿勢を保ち続けるその乗り味は、コンパクトカーどころか最新の国産フラッグシップサルーンすら遥かに凌ぐ水準だ。

スズキ・スペーシアの高張力鋼板使用部位
スズキ・スペーシアFF車のシャシー


スペーシアもN-BOXより約30kg軽いうえマイルドハイブリッドを搭載するため、加速性能とハンドリングは遜色ないが乗り心地は硬く、特にNA車はリヤが跳ねやすい傾向にある。また静粛性も、N-BOXがエンジン音、ロードノイズ、風切り音とも上手く不快な音域を抑えているのに比べると、スペーシアは耳障りな音域がそのまま伝わってくる印象を抱いた。

N-BOXは高速道路、スペーシアは街乗り向けの予防安全装備が充実)

近年はスポーツカーを除き必須アイテムとなっている予防安全装備は、ダイハツが12年12月、先代ムーヴのマイナーチェンジに伴い「スマートアシスト」を初設定したことをきっかけとして軽自動車にも爆発的に普及し始めるが、ホンダは初代N-BOXに対し13年12月に「シティブレーキアクティブシステム」を追加するのみ。




スズキが初代スペーシアに対し13年8月に「レーダーブレーキサポート」、15年5月に「デュアルカメラブレーキサポート」を設定し、性能の進化と機能の充実を図ってきたのと比較すると、当時のホンダがニーズの急変に鈍感かつ対応に消極的だったことがうかがえる。

ホンダN-BOXに装着される「ホンダセンシング」のセンサー構成

だが、両車が二代目に移行すると、その状況が大きく変わる。N-BOXは単眼カメラとミリ波レーダー、ソナーセンサーを組み合わせ、下記の機能を実装した「ホンダセンシング」を全車標準装備(NA車にレスオプション設定あり)する。

・衝突軽減ブレーキ


・誤発進抑制機能


・ACC


・LKAS


・先行車発進お知らせ機能


・歩行者事故低減ステアリング


・路外逸脱抑制機能


・標識認識機能


・後方誤発進抑制機能


・オートハイビーム

またディーラーオプションで、リヤクロストラフィックアラート(RCTA)に相当する後退出庫サポート、ブラインドスポットモニター(BSM)に相当する後方死角サポート、車線逸脱警報に相当する車線キープサポートをセットにした「リアカメラ de あんしんプラス」を設定している。

スズキ・スペーシアの単眼カメラと赤外線レーザーレーダー
スズキ・スペーシアの超音波センサー


対するスペーシアは、単眼カメラと赤外線レーザーレーダー、超音波センサーを組み合わせ、下記の機能を全車に標準装備(全車にレスオプション設定あり)。

・衝突被害軽減ブレーキ「デュアルセンサーブレーキサポート(DSBS)」


・誤発進抑制機能


・車線逸脱警報機能


・ふらつき警報機能


・先行車発進お知らせ機能


・ハイビームアシスト


・後退時ブレーキサポート


・後方誤発進抑制機能


・リヤパーキングセンサー
スズキ・スペーシアのヘッドアップディスプレイ

そのほかメーカーオプションで、フロントガラス投影式ヘッドアップディスプレイ(HUD)、標識認識機能[進入禁止]、全方位モニター、左右確認サポート機能を設定している。




両車で決定的に異なるのは、N-BOXにはACCのほかLKASなど操舵アシスト機能、BSMやRCTAがあり、スペーシアにはHUDと全方位モニター、左右確認サポート機能が用意されている点。N-BOXは高速道路向け、スペーシアは街乗り、それも入出庫や交差点への進入など極低速域向けの機能が充実しているのだ。

ホンダN-BOXのACC作動イメージ

「軽自動車、それも背高ワゴンで高速道路なんて……」と考える人は多いだろうが、だからこそN-BOXで高速道路を走る人にとってはACCやLAKS、BSMの備えは大きな助けになる。特にNA車でACCを使用し高速道路を巡航すると、アクセル操作に強い意志と力を込める必要がなくなるため、極めて大きい疲労軽減効果を得ることができた。

ホンダN-BOXのLKAS作動イメージ

また、N-BOXのLKASは、車線を逸脱しそうになった時にのみ車線内に留まるよう操舵を補助するのではなく、常に車線中央を維持するよう自動的に操舵を行う、日産「プロパイロット」やスバル「アイサイト・ツーリングアシスト」と同じ、同一車線自動操舵機能となっている。




これがやや過剰にアシストする傾向にあるため、横風が弱い時はかえって直進を維持しにくくなる。アシストの介入がもう少し弱く穏やかになれば、高速道路の走行をより安全かつ快適にするものとして、大いに役立つようになるだろう。

スズキ・スペーシアの全方位モニター3Dビュー

対するスペーシアの全方位モニターと左右確認サポート機能は、車庫入れが苦手な人や、道が狭い住宅街を走る頻度が高い人には必須のアイテムと断言していい。運転が得意な人でも、あれば格段にリスクが減るのをすぐに体感できるはずだ。しかし惜しむらくは、これが全車7万円強のメーカーオプションで、さらにディーラーオプションの対応ナビ(15~17万円弱)を装着しなければならないことだろう。

ホンダN-BOX標準仕様のフルLEDヘッドライト

また、N-BOXはフルLEDヘッドライトが全車標準装備なのに対し、スペーシアはカスタムのみ標準装備で、標準仕様はロービームのみLEDのものが上級グレード「ハイブリッドX」にのみオプション設定となっている。

ホンダN-BOXのエアバッグシステム作動イメージ

衝突安全装備においてもカーテンエアバッグが、N-BOXは標準仕様の安価なNAグレード(Gホンダセンシング、G・Lホンダセンシング)にオプション設定、それ以外のグレードに標準装備されるのに対し、スペーシアは最上級の「カスタムハイブリッドXSターボ」にのみ標準装備し、それ以外のグレードにはオプション設定すらないのは大いに疑問。




側面衝突時にボディの潰れしろが皆無に等しく、かつ横転しやすい背高軽ワゴンにおいて、頭部への衝撃を緩和するカーテンエアバッグの有無は事故後の生死を分けかねないため、最低でも全車にオプション設定することをスズキには強く望む。

スペーシアのスーツケース風デザインは個性的かつ遊び心があり◎

スズキ・スペーシアハイブリッドXのリヤまわり
スズキ・スペーシアハイブリッドXSターボのリヤまわり


デザインは、「先代は没個性的なうえ大きさのアピールが弱かった」とスズキの経営陣・開発陣が自ら認めているだけに、2代目スペーシアにおける最大の進化ポイントとなっている。

スズキ・スペーシアハイブリッドXのサイドビュー

スーツケースをモチーフにしたというそのエクステリアは、特に標準仕様では嫌みがなく、しかも極めて個性的。さらにドアサッシまわりを敢えてボディ同色とした2トーンのボディカラーを選べば、スーツケースのハンドルを立てたようなサイドビューとなるため、その個性がより一層際立つ。

スズキ・スペーシアハイブリッドXの運転席まわり
スズキ・スペーシアハイブリッドXSターボの運転席まわり


このスーツケースのモチーフはインパネアッパーボックスにも用いられており、ディーラーオプションで全6色から好みの色に変えられるというのも、遊び心があって好感が持てるものだ。

ホンダN-BOX G・EXホンダセンシングのリヤまわり
ホンダN-BOXカスタムG・Lターボホンダセンシングのリヤまわり


対するN-BOXのエクステリアは洗練度と存在感こそ上がっているものの、基本的にはキープコンセプト。クルマが乗り手以上に存在感を主張しないという方針は2代目でも変わらない。

【新型ホンダN-BOX詳細・エクステリア】お客様の多様なライフスタイルに馴染んで似合うシンプルなデザインを
ホンダN-BOX G・EXホンダセンシングの運転席まわり
ホンダN-BOXカスタムG・Lターボホンダセンシングの運転席まわり


それはメーターが最上部に移され、収納スペースが拡大したインパネでより明確に打ち出されており、造形はシンプルそのもの。なお、このメーターがフロントガラス下端よりも高い位置にあり、前方視界を少なからず遮っているのは、要改善点として指摘したい。

ホンダN-BOXの新旧パッケージ比較図

スズキ・スペーシアの新旧パッケージ比較図

そして、プラットフォームを一新したおかげもあり、両車ともパッケージングが初代より進化したため、室内空間はいずれも「まだ上があったのかよ」と呆れ半分に感嘆してしまうほど広い。

スズキ・スペーシアハイブリッドXのリヤシート
スズキ・スペーシアハイブリッドXのフロントシート


だが両車を比較すると、スペーシアはホイールベースを35mm延長し2460mmとしてもなお、先代より2520mmという超ロングホイールベースを持ち、さらにセンタータンクレイアウトを採用するN-BOXには室内の広さで及ばない。

ホンダN-BOX G・EXホンダセンシングの「スーパースライドシート」

またN-BOXは、助手席に570mmのロングスライド機構を備えた「スーパースライドシート」を最上級の「G・EX」系グレードに標準装備する。前後席間のアクセスを容易にするだけではなく、この仕様では前席がセパレートシートになるため、ホールド性に優れるのも見逃せないポイントだ。

ホンダN-BOXのラゲッジルーム
スズキ・スペーシアのラゲッジルーム


そのうえラゲッジルームは、荷物の積み下ろしやすさに直結する開口部下端の高さでN-BOXがスペーシアを逆転。スペーシアは初代より25mm下げ510mmとしたのに対し、N-BOXは75mmも下がり480mmとなった。その代償としてN-BOXは、後席格納時に荷室フロアの傾斜が強く段差も大きいため、面積の広いパネルや家電を運ぶ際は注意が必要となる。




このようにN-BOXは、わずか3ヵ月半とはいえ後発ながら、多くの点でスペーシアを上回っているのだが、軽自動車にとって非常に大事な点に留意する必要がある。それは、N-BOXの価格が全体的に高いということだ。




実際に、装備内容が最も近いN-BOX「カスタムG・Lターボホンダセンシング」と、スペーシア「ハイブリッドXSターボ」とで比較してみると、ちょうど税別10万円の開きがある。しかしながらN-BOXには、安全装備とパッケージング、そして何より走りにおいて、10万円の価格差を埋めて余りあるほどの価値が確実に備わっている。




だが軽自動車は、最もユーザーの価格受容性が低いと目されるカテゴリー。販売店のマージンも薄く、値引きで価格差を埋めることが難しいため、その点でスペーシアがN-BOXに販売台数争いで勝てる可能性があると予想していたが……実際の結果は下記の通り。さらにN-BOXは、2017年度の登録車を含めた新車販売台数でNo.1の座についた。

【ホンダN-BOX販売台数】


2017年12月 18458台


2018年1月 19309台


2018年2月 22005台


2018年3月 26851台




【スズキ・スペーシア販売台数】


2017年12月 8757台


2018年1月 10399台


2018年2月 13620台


2018年3月 18711台

これは偽らざる本音だが、新型スペーシアも充分に完成度の高いクルマである。ただ、新型N-BOXが凄すぎるだけ。余りにも進化の幅が大きく、そして軽自動車の枠を超越した、遙かなる高みへ辿り着いてしまった。N-BOXと同じく9月に発売された新型シビックともども、昨年からのホンダの覚醒ぶりは大いに目を見張るものがある。




スズキの鈴木俊宏社長は、新型スペーシア発表会の席で、このように語っている。




「N-BOXは本当に強い。我々はチャレンジャー、一歩でも足元に及ぶようになりたい」と。




スペーシアよりも三ヵ月半前に新型となったN-BOXを初めて見た時の胸中は、果たしてどのようなものだったのだろうか。




だが、スペーシアも急激に販売台数を伸ばし始めており、今後の進化と販売戦略次第ではスズキが念願を果たす可能性は充分にある。




あの奇跡そのものの新型スイフトスポーツを生み出したスズキの、これからの巻き返しに心から期待したい。

【Specifications】


<ホンダN-BOX G・EXホンダセンシング(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1790mm ホイールベース:2520mm 車両重量:930kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0×77.6mm 圧縮比:12.0 最高出力:43kW(58ps)/7300rpm 最大トルク:65Nm(6.6kgm)/4800rpm JC08モード燃費:27.0km/L 車両価格:1,596,240円




<スズキ・スペーシアハイブリッドX(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1785mm ホイールベース:2460mm 車両重量:870kg エンジン形式:直列3気筒DOHC 排気量:658cc ボア×ストローク:64.0×68.2mm 圧縮比:11.5 エンジン最高出力:38kW(52ps)/6500rpm エンジン最大トルク:60Nm(6.1kgm)/4000rpm モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1000rpm モーター最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm JC08モード燃費:28.2km/L 車両価格:1,468,800円




<ホンダN-BOXカスタムG・Lターボホンダセンシング(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1790mm ホイールベース:2520mm 車両重量:930kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:60.0×77.6mm 圧縮比:9.8 最高出力:47kW(64ps)/6000rpm 最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2600rpm JC08モード燃費:25.0km/L 車両価格:1,895,400円




<スズキ・スペーシアカスタムハイブリッドXSターボ(FF・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1785mm ホイールベース:2460mm 車両重量:900kg エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:658cc ボア×ストローク:64.0×68.2mm 圧縮比:9.1 エンジン最高出力:47kW(64ps)/6000rpm エンジン最大トルク:98Nm(10.0kgm)/3000rpm モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1000rpm モーター最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm JC08モード燃費:25.6km/L 車両価格:1,787,400円
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