東レは、独自の繊維構造制御技術により、モノフィラメントとして世界最小レベルの繊維径20μmという細繊度でありながら、高い耐摩耗性を実現した高性能液晶ポリエステル(以下「LCP」)モノフィラメントを開発し、その製糸技術を確立した。
LCP繊維は、高い強度や弾性率といった優れた機械特性を有するスーパー繊維で、今回の開発品でもこれらの特長を維持する。今後、東レは本開発品をハイメッシュ織物用素材として、スクリーン印刷用メッシュ織物向けを中心に展開していく。
スクリーン印刷は電子部品やタッチパネル用途での適用が広がっており、配線の精細化が進む中で版材として使用するメッシュ織物には細繊度の素材によるハイメッシュ化が求められてきた。従来はスクリーン印刷のメッシュ織物には、ステンレスやポリエステル繊維が使用されてきたが、細繊度化するとステンレスでは寸法安定性が低下すること、ポリエステル繊維では強度・弾性率などが不足するという課題があった。これに対して機械特性に優れたスーパー繊維であり、かつコスト優位性のある溶融紡糸が可能なLCPモノフィラメントがハイメッシュ織物用素材として注目されていたが、メッシュ織物の製織工程においてフィブリル化が生じやすく、耐摩耗性が低いという問題があった。
このLCPモノフィラメントに耐摩耗性を与える施策として、柔軟なポリマーを鞘部に使用する複合紡糸技術が知られているが、複合繊維とした場合はハイメッシュ織物に求められる細繊度化が困難であり、細繊度化と耐摩耗性を両立する素材mの開発が課題だった。東レは、細繊度化に有利なLCP単一成分のモノフィラメントで耐摩耗性の向上に取り組み、LCP繊維のフィブリル構造解析からポリマーの結晶化がフィブリル化の原因のひとつであることを突き止めた。
LCPはポリマーが結晶化することで高い強度を発現するが、結晶化の進行とともにフィブリル化しやすくなる。東レはフィブリル化を引き起こす結晶化を制御する独自の製造プロセスを開発し、LCPの優れた機械特性を維持したままフィブリル化を抑制することで単一成分でも十分な耐摩耗性を実現。また、単一成分であることから製糸性に優れ、モノフィラメントとして世界最小レベルの繊維径20μmを達成している。
東レは、長年にわたりLCP樹脂事業を展開しており、LCPに関する豊富な技術蓄積を有しているが、今回の高性能LCPモノフィラメントはこのポリマー設計と繊維事業で培った繊維構造制御技術との融合・深化によって生まれたもの。さらに東レは、LCPマルチフィラメントの開発にも取り組んでおり、今後は今回開発したLCPモノフィラメントを加え、スーパー繊維であるLCP繊維のラインナップを拡充していく計画だ。