トヨタが2月20日、モータ用の新型磁石を開発したと発表した。本技術で注目すべきは、ネオジム使用量を大幅に削減したということである。とはいえ、化学に明るくない門外漢には何が優れているのかがわかりにくい。意味と意義をあらためて考察してみた。
そもそもネオジム磁石とは何か。
現在、自動車の駆動用モーターとして用いられるのはほぼ交流電動機で、種類で分ければ誘導モーターと同期モーターの二種に分けられる。誘導モーターは採用例が極めて少なく、テスラの各車に用いられているほか目立った例はない。大半を占める同期モーターにもさまざまな方式があるなかで自動車の駆動用モーターに限ってみると、やはり大半を占めるのが永久磁石同期モーター(PMモーター)である。
PMモーターは永久磁石の磁力が強いほど高効率であり、そのために用いられるのが希土類磁石。サマリウムコバルト磁石、ならびに本稿のネオジム磁石が双璧だ。サマリウムコバルト磁石はネオジム磁石に比べて磁力が弱いものの、熱に強い性質がある。キュリー温度という「その温度に達すると磁性を失う」という指標に照らし合わせると、サマリウムコバルト磁石が700~800℃なのに対してネオジム磁石のそれは315℃。当然、キュリー温度に達するまでにだんだん磁力は弱まっていくわけで、フロントフード下に収まり駆動に用いることを考えると、その熱減磁という問題は駆動用モーターとして看過できない要因なのだ。
ならばサマリウムコバルト磁石を使えばいいではないかと思われるかもしれないが、機械的強度に乏しいという欠点がある。あちらを立てればこちらが立たず、現状の最適解はネオジム磁石を用いるPMモーターというわけなのだ。
熱減磁への対策
というわけで、ネオジム磁石を自動車の駆動用モーターとしてPMモーターに用いることに対しては、ふたつの課題が挙げられる。先述の熱対策と、それにともなうレアアース節約である。
ネオジム磁石の熱減磁対策には、さまざまな方策がとられてきた。主流なのが、ディスプロシウムやテルビウムの添加である。これらの元素を加えると、磁石主相の異方性磁界を高められることがわかっている。ところがこのふたつの元素はネオジムの1/10にも満たない量に過ぎず、しかも産出地が一定の地域に限られていることもあって安定供給に難がある。当然価格変動も大きく、今後電動モーターの存在感がますます高まっていくなかで上がることはありすれ、著しく下がることは期待できない。そこで、さまざまなディスプロシウム/テルビウムフリーの技術が考案され、これが従来のネオジム磁石における技術提案の数々だった。