四輪に駆動力を確保したまま、素直なハンドリングもほしい。そんな欲張りなシステムがセンターデフ式AWDだ。その代表例が、スバルWRX STIである。
最もシンプルで走破性が高いAWDシステムは、スズキ・ジムニーなどでお馴染みの直結式だ。走破性を高めるためには意義のある直結式だが、旋回時に大きな違和感がでるステアリング特性は一般的とは言いがたい。
なぜ直結式が曲がりにくいかといえば、前輪と後輪の回転差が旋回によって生じているのに(前後内輪差)駆動力配分機構が回転差を許容できる作りになっていないため、高速側が低速側に無理矢理合わせる格好になり、あたかもブレーキをかけるような状態になってしまうからだ。
ならば、回転差を許容するデバイスを前後軸配分機構に加えればいいと考えるのが自然の流れで、そこに「センター・デファレンシャル・ギヤ」一般に「センターデフ」と呼ばれるデバイスが登場する。
センターデフは、いわゆる遊星歯車機構を用いた構造によって、前後軸回転差を許容しながらトルクを配分する。
当然だが、FFでもFRでもデフ機構は備わる。左右のドライブシャフトの回転差を許容するための仕組みをAWDでは前後軸間にも装備するわけで、つまりは3つのデフを備えているわけだ。
センターデフ式AWDの代表例が、スバルWRX STIである。
スバルのドライバーズ・コントロール・センター・デフとは、トランスミッション後端、プロペラシャフト前端に備わる電子制御式センターデフのことだ。デファレンシャルギヤとしては遊星歯車機構を用いて前41:後59の不等配分を基本とし、差動制限装置の多板式クラッチをソレノイドで制御することで、連続的な駆動力可変配分を実現している。もちろん、任意で差動制限力を設定することもできる。
センターデフ式の美点は、アクセルを開けたときに四輪でぐっと押して、ひっぱっていく感じだ。加速の時に背中が押しつけられるトラクション感があるのだ。
WRX STIの差動制限装置は、前述したように電子制御の多板クラッチ式。連続的に差動制限量を制御でき、AUTO/AUTO-/AUTO+/MANUALの4つのモードを持つ。AUTOは、回頭性とトラクションを両立させるオールラウンドタイプの制御。AUTOでは、確かに操舵が一発で決まる。
では、MANUALモードにしてセンターデフをロック状態にしてみる。つまり直結モードにするのと同じだ。するとハンドルが重くなり、アクセルをガバッと開けるとパワーオンオーバーに持ち込めるが、パーシャルでは、どアンダーになる。
AUTOでもMANUALでもESCやTRCの介入が少ないのがスバルの特徴である。連続可変制御のおかげで、センターデフの効果を強く感じられるWRX STI。四輪の力強い常時駆動と素直な操舵反力による旋回性能の両立は、雪上でもベストな選択になるのではないか。
スバル WRX STI
車両重量:1500kg
前後重量配分:60:40(前軸900kg/後軸600kg)
前後トルク配分:41:59(プリセット)〜50:50(直結モード)
試乗車タイヤ:ブリヂストン BLIZZAK WRX(前後245/40R18
タイヤ指定空気圧:前230/後220kPa