ポルシェ・ミュージアムを見れば明らかなように、ポルシェクラシックが管理している車両は年々その数を増やしている。その拠点となっているのが、“バックヤード”。その一部をご紹介しよう。
PHOTO&REPORT◎藤原よしお(Yoshio Fujiwara)
ポルシェクラシックの活動は実に多岐にわたる。一般カスタマーの車両のレストアや、パーツの製作、供給はもちろん、ツッフェンハウゼンのポルシェ・ミュージアムの所蔵車の管理、メディアなどPRを目的とした車両の貸し出し、各種イベントへの参加など、クラシックに関する物事はすべて彼らの仕事だ。
ちなみに現在ポルシェクラシックが所蔵管理している車両は約600台。ほんの5年ほど前に聞いたときは500台だったので、毎年数十台のペースで増え続けている計算になる!
では、それらの車両はどこにどうやって管理されているのか? その拠点のひとつとなっているのが“バックヤード”と呼ばれるポルシェクラシック専用の保管庫だ。
もともと1960年代に建てられた倉庫を改装したという、この施設がオープンしたのは2012年のこと。残念ながら保安上の問題もあり、施設の場所は非公表で一般に公開されることもないが、9905㎡の広さをもつ建物内には300台以上のクルマたちが保管されている。
その光景はまさに圧巻だ。重い鉄の扉を開けてまず目に入ってくる956、962C、911GT1、RSスパイダーといったレーシングモデルの大群だけでも言葉を失ってしまうほどだが、しばらくして目が慣れていると、白い布製のカバーに覆われた無数のクルマたちのシルエットが、どれも“ただもの”ではないことに気づく。
「そう、これは1960年代に作られた4シーター911のモックアップですよ」
と、コレクション担当のベンジャミン・マージャナックがカバーを剥いで見せてくれたのは、1969年に911(Bシリーズ)をベースにあのピニンファリーナが試作した4シーター911のうちの1台。しかも公にはほとんど露出していないノッチバック・スタイルの方だ!
それだけで驚くのはまだ早い。その傍には、1970年に試作され実際にテストされたTyp915と呼ばれる4シーター911の実車や、1989年に試作された989、1991年に試作された932など、現在のパナメーラに繋がる4シーター911のプロトタイプ(どれも当時は非公表だった!)が全て揃っているのだ。
これらの貴重なプロトタイプは、ミュージアムのほか各地の工場や、倉庫に分散して保存されていたものだというが、このほかにもシャシー単体や、エンジン単体、さらにポルシェ本社で使用されていたVWタイプ2の消防車に至るまで、あらゆる物がコレクションされている。
おそらく試作車やモックアップに至るまで、これほど多くの台数をコレクションしているメーカーは他にないかもしれない。それだけでも十分に彼らの見識の高さが伺えるのだが、個人的に感銘を受けたのは、なんでも動態保存したりレストアするのではなく、それぞれの保存状態を見極めて可能な限りオリジナルの状態で後世に残していこうという姿勢だ。その証拠に、最近になってバックヤード入りした1966年のル・マンに出場したワークスカーである906“ラングヘック”は、波打ったFRPパネルや、チリのあっていないカウルなど、敢えて当時の姿のままで残されている。
こうして書き連ねてきたものの、このバックヤードの凄さを文字で表現することは到底不可能だ。ということで、ここに収められている貴重なモデルの写真(ほんの氷山の一角)から、その凄さの一端を感じていただければ幸いである。
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