日産自動車は10月19日、新車製造の最終工程となっている完成検査において、同社規定によって任命された検査員ではない補助検査員が完成検査を行っていた問題に関する調査において、不適切な取り扱いが9月29日の公表後も行われていたことを発表した。
この問題は、9月18日に行われた、国土交通省による日産車体湘南工場への立ち入り検査で指摘され、明らかになったもの。同省の指摘を受け、日産は9月29日より、同社製造の在庫車登録を一時停止した。
10月2日には、この問題への対応策を発表。OEM車を含む約34,000台が対象となった未登録の在庫車については、全国の日産販売会社のサービス工場にて、完成検査相当の再点検を実施し、10月3日以降の再点検完了後、順次登録を再開した。
2014年10月から2017年9月に製造された約121万台が対象となった、すでに登録された車両については、再点検のためリコールを国交省に届け出て、全国の日産販売会社のサービス工場で、速やかに点検を実施することとしていた。
第三者を含むチームの調査によれば、9月20日までに再発防止策を講じたが、その後も日産車体湘南工場のみならず、追浜工場、栃木工場、日産自動車九州で、一部の完成検査を商品性検査やオフライン検査など完成検査工程以外の工程で実施していたこと、完成検査員に任命されていない作業員が完成検査に従事していたことが、10月18日までに判明した。
記者会見に臨んだ日産自動車の西川廣人社長は、「今回の事案は大変残念な事態。これは組織的なものかという指摘もあるが、まさに組織的なもの。まさに不徹底ということを申し上げるしかない」と述べている。
また、国内向けの全車両について、完成検査業務・車両出荷・車両登録を停止したことを発表した。今後の対応策の概要は下記の通り。
【完成検査工程の是正】
・完成検査ラインの編成を届け出状態に戻し、完成検査を実施する。
・完成検査ラインを集約し、完成検査以外は立ち入れない対策を検討実施する。
【在庫車(未登録車)および既登録車の対応】
・在庫車:全国の日産販売会社の指定工場での再点検を検討
・既登録車:リコール届け出を検討中
・対象台数:2017年9月20日から10月18日までに製造された約34,000台
今後の出荷再開については、「緊急対応としてがんじがらめの状態でスタートしたい」と話し、「2週間程度をかけて原因究明および再発防止策を策定し、完成検査業務・車両出荷・車両登録を再開したい」としている。
なお、今回の問題は、10月27日より11月5日まで東京ビッグサイトで開催される第45回東京モーターショー2017にも影響を及ぼしている。
10月10日には、西川社長が会長を務める日本自動車工業会より、モーターショーの運営体制について、「今後さらなる盛り上げを図っていくことを最優先とするため、日本自動車工業会の副会長の皆様とご相談させていただき、筆頭副会長である豊田章男氏(トヨタ自動車株式会社代表取締役社長)に会長代行をお願いすることと致しました」と、会長ステートメントを発表。会長職を一時的に退くこととした。
また、同ショーに出展を予定していた日産車体の出品車両「日産パラメディックコンセプト」、「e-NV200 電池冷凍車コンセプト」、「NV350キャラバン」は、すべて日産自動車として出品することを、今回の会見に先駆け10月19日に発表している。
記者会見時における質疑応答の概要は下記の通り。
Q:追浜工場における事案の詳細は。
A:新型リーフの完成検査が、完成検査離れた場所にある商品性検査を行う場所で行われていた。
Q:内部統制と経営陣の責任について。
A:現場に責任を押しつけることは全く考えていない。いいクルマを作る仕組みはできており、モチベーションは高いが、法令遵守に対する意識が薄いので再教育を徹底する仕組みを作る。ポイントは課長と係長をつなぐこと。現経営陣の責任は、再発防止、生産を正常な状態に戻す、お客様の信頼を取り戻し、会社を従来の成長路線に戻すこと。弱いと思うところには思い切った手を打っていきたい。それをリードするのは私。クルマについては、こうしようというときに末端まで伝わるかということに課題。現場が主体的に動くこと、自立性はものづくりにおいて大事だが、現場のコントロールが課題。
Q:問題公表後に不正を行っていたのは日産車体もか。
A:その通り。
Q:コミュニケーションギャップの問題は。
A:そういうことはあっただろうと推測する。必要なスキルと認定にかかる時間の認識にギャップがあったと聞いている。
Q:「安心してお乗りいただける」という発言について、今回の34,000台もそうか。「完成検査員の任命されていない作業員」とは。
A:安心してお乗りいただける。補助検査員という言葉は現場で使われていたが、実際にはそういう任命はしていない。完成検査員の資格を持っている者と、完成検査員になるべく育成されていた者と、商品性検査に特化した検査員と混在していた。国に関わる完成検査はテスターラインに集中しているが、それを勝手に移してしまった。
34,000台の内訳は在庫車が約3万台、登録済は約4,000台。まだ精査中。変更可能性あり。
Q:「20年間続いた習慣を直すのは大変だ」とは、なぜわかったか。コミュニケーションギャップの問題はマネジメントの問題では?
A:完成検査員の養成プログラムは現実に応じてアップデートしていくべきところ、20年間変えていなかった。コミュニケーションギャップの問題は、経営陣が会社を揺るがす問題だということを係長までに伝えなければならなかった、そこまでフォローできなかったことが経営陣の問題。
Q:今回の問題は人が足りていないことが問題では? 少ない人数で回すプレッシャーがあったのでは?
A:その可能性もある。まだ調査中なので断定的なことは言えない。
Q:いいクルマを作ることと法令遵守は別物と認識しているように聞こえる。いいクルマの条件とは。
A:法令遵守はすべてにわたる義務。今回起こしてしまった事案は、日本の国交省から委託を受けていたことに対し、そのルール上でやっていなかったということ。いいクルマを作ることへのモチベーションがいくらあっても許されることではない。
Q:国内出荷再開は早くて2週間程度か。
A:対策後準備ができるのは余裕を持って2週間程度。確実にやることを重視。
Q:なぜ現場がまた不正したのか。
A:自分も部外者なら同じ質問をする。過去からずっとやってきたことを、今日からダメと言われた時、それに対し手が打てなかったことが散見される。その部分の徹底が必要だが充分ではなかった。ガチガチに対策して習慣から離れるようにする。習慣化したことを甘くみてはいけないと実感。
Q:ゴーン会長とのやりとり、指示とその受け止めは。
A:CEOとしては、「私の仕事を信頼するので頑張ってくれ」とのこと。過去のケースについては、ゴーン時代にあったか、確証を持ったものを把握できていないが、長年あったということはあると思う。
Q:2週間出荷停止について、販売店でも販売停止するのか。
A:販売店は通常通り営業するが、登録停止ということはナンバーを取らない、クルマをお渡しできないことになる。リコール相当の点検・確認を行う予定。方法がすぐ決まれば影響は小さいが、長引けば影響が出る。
Q:自分自身への処分、責任は。
A:自分の責任は信頼回復、成長軌道に戻すこと。これから先については我々の責任。
Q:やはり人手不足があったということか。
A:簡単に人手不足といえないが、完成検査員の資格を持った人間を増やしていくことが安全性を高めるうえで重要。ラインを予定通り動かすことが目的ではなく、確実に動かすことが大事。ラインスピードを厳守することが目的ではなく、必要であれば止めてもいいと伝えている。
Q:再発防止のためどのようなメッセージを出したのか。出荷・登録再開のめどは。
A:できるだけ早く再開したいが、急ぐのではなく確実にやりたい。登録の再開は国交省と相談して進めたい。生産の再開は、我々が準備したうえで監査していただいたうえで進めたい。全工場の準備が終わるまで。まずは一番大きい追浜工場から、順次進める。最低でも2週間かかる。
とにかく完成検査工程では完成検査員以外は作業してはいけないと伝えた。伝わってはいたが実行されていなかった。