発表以来、注目を集め続けているマツダ・スカイアクティブX。
10月初旬、ついに国内でスカイアクティブXエンジンに対面することができた。マツダ開発陣のプレゼンテーションと、質疑応答で浮かび上がってきたスカイアクティブXエンジンの実像に迫る。
さらに深い解説は、10月13日発売のMotor Fan illustrated Vol.133で紹介する。
「MAZDA Japan Tech Forum 2017」とタイトルがつけられた技術説明&試乗会は、マツダの美祢テストコースで行われた。
用意されたモデルは、次世代エンジン、「スカイアクティブX」と次世代シャシー&ボディ技術、「スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー」を搭載したプロトタイプカー(AT車、MT車)とスカイアクティブG 2.0を搭載した現行のアクセラ(AT車、MT車)。乗り比べてもらうという趣旨だ。
試乗については、別項でお届けする。
ここでは、会場に置かれたスカイアクティブXの実機をじっくり観察するところから始めよう。
まずは、公表されたスペックから。
SKYACTIV-X エンジン
直列4気筒DOHC
排気量:1997cc
最高出力:140kW(190ps)目標値
最大トルク:230Nm(目標値)
燃料:ガソリン95RON
スカイアクティブXが、8月に発表されたときは、「スパークプラグ点火(SI=Spark Ignition)で圧縮着火を制御するリーンバーン(希薄燃焼)エンジン」という説明だけで詳細はわからなかった。
今回の「MAZDA Japan Tech Forum 2017」で追加の技術情報が明らかになったので、再度「SKYACTIV-X」エンジンを紹介する。
スカイアクティブXエンジン開発の目的は、WtoW(ウェル・トゥ・ホイール=油井から車輪まで)のCO2排出量を下げることだ。
「火力発電がなくなるまでEVなど不要だというレベルまで内燃機関の熱効率を高めたい。それが内燃機関研究者としての内なる目標です」
と語ったのは、“ミスター・エンジン”こと、マツダで長年にわたってエンジン開発を担当してきた人見光男常務執行役員だ。
現在のCセグカーのEVの実用走行時(モード値ではない)のCO2の排出量(平均的発電方法の電力で走った場合)と同じくSKYACITIV-Gのそれを比較すると、10%しか変わらない。
とすれば、スカイアクティブエンジン搭載車の実用燃費を10%ほど改善すればEVにCO2排出量で追いつくということだ。
現在のEVの平均電費が21.2kWh/100km(100km走るのに、21.2kWhの電気を使う)だとすると、発電方法によっては、すでにスカイアクティブエンジン搭載車の方がCO2が少ないケースもある(石炭発電、石油発電)。
マツダ開発陣は、原子力や再生可能エネルギーによる発電以外で最もCO2排出量が少ないLNG(液化天然ガス)による火力発電で供給された電力で動くEV(100g/km)と同等になるためには、30%の改善が必要だと考えている。
そのための手段がスカイアクティブXなのだ。
マツダは、
「内燃機関の実用走行時に目を向けて大きく改善する」
「内燃機関の目標として火力発電所による発電がなくなるまで電気自動車は不要と言えるレベルを目指す」
「再生可能液体燃料の共同開発」
と宣言している。
オットーサイクルの理論熱効率は計算式で求められる。効率を左右するのは、「圧縮比」と「比熱比」だ。
マツダは第一弾のスカイアクティブGで圧縮比をガソリンエンジンとしては異例とも言える14.0に高めた。
第二のステップは、スカイアクティブXは、比熱比を高めることだ。
比熱比を高める手段が、リーンバーン(希薄燃焼)だ。
比熱比の低い燃料と高い空気を混ぜて混合気を作るとき、燃料を少なくすれば比熱比は上がる。つまり空燃比(空気と燃料の比率)の薄い混合気を作ればいい。
ご存じのとおりガソリンエンジンの理論空燃比は、重量比でガソリン1に対して空気14.7である。これをλ(ラムダ)=1という。
今回のスカイアクティブXエンジンは、これをλ=3に近いところまで薄くしている。どれくらい薄い混合気を使うのか? 今回、人見氏は「空燃比30より少し上から40付近までを主に使います」と語った。つまりλ=2強から3弱までである。空燃比32~40を使う
燃料が薄ければ燃焼温度も低くなる。するとシリンダーの内壁に奪われる熱(冷却損失)も下がる。
しかし、あまり薄くしすぎると、スパークプラグで点火しても火が点かない。
ところが、燃焼室内を高温高圧にすると空燃費36.4でも燃えてくれるという。高温高圧にするには高い圧縮比が必要だ。どのくらい高い圧縮比かと言えば、15.0ー30.0の範囲で制御する必要があるという。現在、これを実現できる機構は存在しない。また、温度と圧力を高めると言っても、圧縮着火が成立する範囲はわずか3℃の間だけだという。
マツダ開発陣は、「この精度で温度制御するのは現状では不可能です。だから、純粋なHCCIはあきらめました」
という。
そこで生まれたのが
というSPCCI =SPark Controlled Compression Ignition=スパークプラグによる点火を制御因子とした圧縮着火
である。
「通常よりも高いエネルギーでスパークプラグ点火させれば、薄い混合気でも着火します。着火で生まれた火炎は球状で、これが膨張するときにプラグ周辺の混合気を押します。つまり、プラグ点火は燃焼室内に第2のピストンがあるような『さらに圧縮する』効果を生むわけです。火炎球による圧縮で燃焼室内は高温高圧になり、自己着火できるようになります」
とマツダのエンジニアが説明するSPCCI =SPark Controlled Compression Ignition=スパークプラグによる点火を制御因子とした圧縮着火技術だ。
この新エンジンは圧縮比16.0の2.0ℓだ。最高出力140kW(190ps)、最大トルク230Nmを目標としている。欧州仕様はRON95ガソリン対応だが、日本仕様はRON91。つまり、レギュラー仕様だ。ただし、通常のガソリンエンジンと違いRON91のほうが圧縮着火の条件が広くなり、SPCCIの恩恵領域が広がる。
試乗インプレッションについては、別にお伝えしよう。
とはいえ、
「圧縮比16.0のエンジンが、こうして何事もなく回っている。そのこと自体がエンジンについて少しでも知っている人に、ものすごいことだとわかっていただけるはず」という人見氏の言葉に嘘偽りはない。
これは本当にものすごいことなのだ。