ハンガリー子会社のマジャールスズキ社で生産されたものが日本へ輸入、販売されている現行4代目スズキ・エスクード。2015年10月の国内発売以来「1.6」のみ設定されていたが、今年7月に待望の高性能モデル「1.4ターボ」が追加された。果たしてその走りとは。
このエスクード1.4ターボには、走りのみならず内外装にも、ホットハッチのテイストが盛り込まれている。
エクステリアには、5スロットタイプのメッキフロントグリル、ブラック塗装の17インチアルミホイール、レッドプロジェクターカバー付きLEDヘッドランプ、高輝度シルバー塗装のLEDサイドターンランプ付きカラードドアミラーおよびルーフレールを装着。
室内には、レッドステッチ入りのステアリングホイール・シフトブーツ・シート、アルマイトレッド加飾入りのメーターリング・エアコンルーバーリング・センタークロックガーニッシュ、ステンレス製ペダルプレートが装着された。
この戦闘ムード満点の内外装はドライバーをその気にさせ、道行く人から「格好良いね、これ。何ていうクルマ?」と声を掛けられることも一度ではないほど目を引くものとなっている。
だが、室内に目を移すと、1.6ではさほど気にならなかった点が、この1.4ターボでは目に付くようになっていた。それは、1.6L NAで2,343,600円、1.4ターボで2,586,600円という価格に対し、運転席まわりの質感が低いことだ。
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充分なサイズが確保された本革×スエード調シートこそ質感が高く、生地も滑りにくいためホールド性も良好だが、アッパー・ロアともハードパッドのインパネは太陽光に対して平板なツヤを返し、シルバーのガーニッシュがそれに拍車を掛ける。そしてアルマイトレッドのリング類はいかにも走り屋のクルマのようで、クルマに興味がない他人を乗せるのがためらわれてしまう。
しかしながら、走りの楽しさと上質感においては、昨年12月に発売されたトヨタC-HRが、このコンパクトSUVクラスですでに不動の地位を確立している。そこでエスクード1.4ターボと比較試乗してみると、明らかになったのは走りの違いよりもむしろ、SUVとしての性格の違いだった。
パワートレイン・駆動方式はシステム出力122psの1.8L直4+ハイブリッドのFF車と、116ps/5,200-5,600rpm・18.9kgm/,500-4,000rpmを発する1.2L直4直噴ターボ+CVTの4WD車を設定するが、いずれも動力性能や官能性より燃費でエスクード1.4ターボに勝るユニットだ。
C-HRを走らせると、TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)による低重心パッケージにヒップポイントの低さも加わり、エスクードよりも重心が低いことが即座に体感できる。だが、ザックス製ダンパーやウレタン製アッパーサポート緩衝材、ダブルウィッシュボーン式リヤサスペンションを用いて実現したその乗り心地とハンドリングは、あらゆる路面の凹凸をしなやかにいなし、コーナリング時はゆっくりとロールして、乗員誰もが不安感を覚えることなく長距離長時間乗り続けられるという、エスクードと甲乙付けがたいものだった。
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一方でC-HRは、クーペのように低重心な走りとプロポーションを実現するため、犠牲にされた面も少なくない。ベルトラインは高く、ルーフライン後端は低く、ガラスエリアは小さく設計された影響で、室内は閉塞感が強く、視界も狭い。特にリヤドアガラスが小さく、リヤクォーターガラスに至っては存在すらしないため斜め後方の死角が大きく、レーンチェンジや車庫入れ、また後席から降りる際に少なからず気を遣う。
ただしインパネやシートの質感は極めて高く、前衛的なデザインながら操作性やホールド性にも優れるため、内外装のデザインと質感を重視するならばC-HRに軍配が上がるだろう。
端的に言えばC-HRは「SUV風の5ドアクーペ」であり、後席はあくまで荷物置き場か必要に迫られたら人を乗せるためのものでしかない。その本質は、夫婦や恋人同士がドライブを楽しむためのデートカー、もしくはオーナー一人が走りとスタイルを楽しむためのドライバーズカーである。
対するエスクードは視界も室内・荷室空間も広く、3人以上のグループが移動中の景色や会話を楽しみながら、旅行やアウトドアへ向かうという、SUVに本来求められる機能を十全に備えている。内外装は無骨に過ぎるきらいがあるものの、クロスオーバーSUVばかりとなった今となっては、エスクードは走りの楽しさと快適性を兼ね備えた貴重な本格コンパクトSUVという、他車にない強烈な個性の持ち主として高く評価したい。