ついに、最後のホールにやってきた。VWグループのホールである。ここ数年、アウディは独自の建物(!)を建ててアウディ館としていたが、今年はVWグループのホール3の中にブースを構えていた。(聞き手:MF編集長スズキ)
アウディ・アイコン レベル5自動運転車
ー今年のアウディは、独自に「館」を建ててないですね。とにかく、最後まで来ましたよ。ずいぶん歩きました。お腹も減りました。が、がんばっていきましょう。難波さん、量産車のデザイン批評をお願いすると、やんわり断るじゃないですか。でも、コンセプトカーはなにを言ってもいいんですよね。というわけで、アウディのブースにやってきましたよ。
ーこれはアイコン(AICON)というコンセプトカーです。レベル5というから、完全自動運転のクルマのコンセプトですね。これ、デザイン的にはどうですか?
難波:………………あまり、喋ることないんですけどね…………。
ー喋ることない……やめておきますか?
難波:そうですねえ。アウディもつまらなかった、っていうだけですかね。やっぱりいま、何をテーマにして、ショーモデルを作るか、ですよね。だから、ボクみたいにデザイン屋さんになると、その外側の造形だけで、いろいろモノを語っちゃうから、ちょっとそれも見方がね、一面的なのかもしれないですよね。まあ、秀作ではありますよ。下手なデザイナーではここまでできませんけど、でも、別に取り立てて次のアウディのデザインの方向性を示しているとも思えないし、「ああ、そうですか」と。流行の仕掛けを入れて、いるという感じですしょうかね。内装も、これまたあれでしょ、みんなが楽しく過ごせる内装なんでしょ(と自動時代のインテリア提案を揶揄する難波さん)。
ー見てみましょう。
難波:ですよね。
ー運転するシートじゃないですよね。
難波:そうですよね。これも絶対に、運転席と助手席は回転して後ろ向きになるはずですよ。間違いなく! だからね、全然もう、ネタが新しくないんで。どこもたくさんのお金をかけて、同じものを毎度作るかなって思うんですけどね。そんな感じ。
(編集部注:ちなみに帰国後、調べました。座席、回転しません)
ーでも、ドアを閉じて、横から見たカタチは綺麗なカタチなんじゃないですか?
難波:そうだと思いますよ。
ーでも運転するクルマじゃないですよね。
難波:ね、ステアリングもないですしね。あ、でも画にはあるね。あれは、同じクルマじゃないんだ。あっちか、SUV(エレーン)の方だ。
アウディ・エレーン(ELAINE)
ーこっちは、エレーンって書いてある。こっちはどうですか? アウディインテリジェンス。自動運転のクルマって意味でしょ。こちらはレベル4の自動運転機能を搭載したハイパフォーマンスEVです。
難波:自動運転SUV、やぁ、しっかりと作ってあるし、ソツはないし、バランスもいい、破綻はほとんどないですね。
ーちゃんとアウディに見えるしね。
難波:うん。破綻はない。だけど、そうですね、なんて言えばいいんでしょうかね、ワクワクしない。ですねぇ。
ーこれはでも、なんか運転しそうな感じしますよ。ハンドルついてる。「ハンドルついてる」って会話自体がすごいですよね。
難波:うん。ね。
ーでも、横から見ると綺麗ですよね。さすがって感じますけど。
難波:うん。綺麗。インテリジェンス、感じますか? アウディインテリジェンス。
ーインテリジェンス、なのかなぁ。
難波:今まではフワフワっとしたなんか、やわーい感じのアウディになりかけてたのが、最近のコンセプトカーって意外と強い線を使ってるのは、ありますよね。
ーシャープな感じしますよね。
難波:しますね。それは感じますけど。
ーでも、インテリジェンスで、自動運転になったときに、SUVみたいなカタチのクルマが走る道を走るのかって感じはしますよね。行かないだろ、そういうところって。
難波:だからそういうところに行ったら、自分で運転する。
ーそうか。道なき道を行くって感じはしないですけどね。でも、カッコいいは、カッコいい。
難波:アイコンもエレーンも、たしかに高速道路でジワーって静かに走ってたら、それはそれで避けなきゃいけないなって思うかもしれないですね。あれが、迫ってきたらね。そういう感じはある。
ーなるほど。じゃあ、アウディはこんな感じですね。
難波:はい。すみません。
ここまで見て回るのに、4時間。コンセプトカーに絞って駆け足で巡っても8kmくらい歩くことになるのがフランクフルト・モーターショー。
ー難波さん、お疲れ様でした。じゃあ、ビール飲みに行きますか。
難波:行きましょう行きましょう!
急に元気になる難波さんでした……。
難波さんが、書き下ろした『スバルの前デザインGMが語る、スバル躍進の秘密』。いわゆる「デザイン本」ではなく、デザインの面から見た・考えたブランド論です。ぜひ!