世界中の学生たちがフォーミュラカーで速さを競うのみならず、ビジネスモデルの企画から車両の設計、コスト計算、そして製作まで行い、そのクオリティを争う「学生フォーミュラ」の日本大会「全日本学生フォーミュラ大会」(主催:自動車技術会)が9月5~9日、小笠山総合運動公園(通称エコパ。静岡県掛川市・袋井市)で開催された。
2003年の第1回大会から15回目を数える今回はレギュレーションが変更され、日本大会上位とワールドランキング上位を優先する形で出場チーム数が98に制限。マシンについてはエンジン排気量の上限が610ccから710ccに拡大された。
審査は静的審査325点と動的審査675点の計1000点満点で行われるが、このうち動的審査の点数配分が今回より変更。0-75km/h加速タイムを競う「アクセラレーション」が75点から100点に、8の字コースで左旋回と右旋回の周回タイムの平均を競う「スキッドパッド」が50点から75点にアップしている。
その一方、1周約800mの複合コースでハンドリング性能を競う「オートクロス」が150点から125点、1周約1kmの複合コースを2人のドライバーで10周ずつ複数台同時に走行し耐久性を競う「エンデュランス」が300点から275点に減少している。エンデュランス走行時の燃料・電力消費量を競う「効率」は100点のままだ。
静的審査は従来通り、年産1000台を仮定し製作したコストレポートの実車との妥当性・正確性を競う「コスト」が100点、市場要求に合った車両の製造・販売を含むビジネスプランを会社役員に納得させるというシチュエーションで学生のプレゼンテーション能力を問う「プレゼンテーション」が75点、マシン設計の適切さ・革新性・加工性・整備性・組立性などを審査する「デザイン(設計)」が150点となっている。
もちろん、各チームが製作したマシンに対する「車検」も大会中に順次実施。レギュレーションに定められた安全・設計要件の適合性を確認する「技術検査」、45°傾斜で燃料漏れせずドライバーが乗車した状態で60°傾けても転覆しないかを確認する「チルト」、4輪ブレーキロックするかを確認・検査する「ブレーキ」が行われる。
さらに、エンジン車は排気音レベルが110dB以下かを検査する「騒音」、EVは降雨時の絶縁がされているかを確認する「レイン」も点検項目となっており、これら全てを満たすことでようやく車検を通過することができるのだ。
このように学生フォーミュラは、車両の企画・設計・製造・実走行に至るまで、市販車と全く同様の“ものづくり”を経験できる競技内容となっている。
それもそのはず、学生フォーミュラの大会趣旨は「主役である学生が自ら構想・設計・製作した車両により、ものづくりの総合力を競い、産学官民で支援して、自動車技術ならびに産業の発展・振興に資する人材を育成する」。
開発プロセスにおけるトライ&エラー、レース中に発生する突発的トラブルなどを乗り越えて心身を鍛え上げた、自動車関連企業の製品開発現場で即戦力となる人材を、実戦形式で育て上げることに他ならない。
そのため各チームは学生・教員だけで戦うのではなく、OBのエンジニアやその所属企業、大会への協賛企業などから物的・金銭的そして人的支援も受けながら、マシンを開発・製作し参戦。プロのモータースポーツに勝るとも劣らない次元でチームの総合力が問われる極めて本格的な競技となっている。
今大会ではレギュレーションが変更されたにも関わらず、京都工芸繊維大学、横浜国立大学、名古屋工業大学、日本自動車大学校、芝浦工業大学など、前回大会で上位入賞したカーナンバーの若いマシンが競技序盤から上位争いを占め、これに初めてチーム単独でEVを製作し参戦した2014年大会の優勝校・名古屋大学も加わる展開。
7日から行われた動的審査では、1回目のオートクロスで名古屋工業大学が57秒588のベストタイムを叩き出せば京都工芸繊維大学が57秒132で更新し、名古屋工業大学はその直後の2本目で56秒237でトップを奪取。その後で出走を予定していた京都工芸繊維大学は、他校マシンのオイル漏れで長時間待機を余儀なくされるも、タイヤ温度の低下をものともせず、55秒744のファステストタイムを記録するという、息もつかせぬデッドヒートを繰り広げた。
5日間の激戦の末、オートクロス以外の競技でも着実に上位に着けた京都工芸繊維大学が、総計849.23点もの高得点をマークして、2年連続3回目の総合優勝を達成。2位に芝浦工業大学(780.36点)、3位に名古屋工業大学(775.70点)が続き、名古屋大学がEVクラストップの766.50点で総合4位に着けた。