スバルが2020年を目処にディーゼルエンジンの製造・販売を中止する方針を固めた、という報道があった。2016年は約1万5000台のディーゼル車を販売したが、各国の規制強化やディーゼルへの逆風のなかで、開発資源を電動車に集中する考えだ。スバルしか作れなかったボクサー・ディーゼルとはどんなエンジンだったのか?
TEXT:牧野茂雄
スバルは、欧州市場で必須のディーゼルエンジンも水平対向で作ってきた。
スバルのEE20型は、世界で唯一の水平対向のディーゼルエンジンである。
EE20がデビューしたのは、2008年だった。当初はユーロ4対応で展開され、翌年09年にユーロ5対応となり、2015年にはユーロ6のステージ2、ユーロ 6bと呼ばれる規制への対応した。当初は、日本国内への導入も取り沙汰されたが、結局、欧州専用のエンジンだったということになる。
エンジンの基本骨格はデビューから変わっていない。86.0×86.0mmのボア ×ストロークも従来と同じでありブロックも共通だ。しかし、細部の設計はかなり変わった。
まずピストンは冠面の形状が変わった。これは燃料噴霧形状の変更に合わせたのだろう。燃料インジェクターはデンソーの第4世代タイプを使い、最大燃圧は180MPaから200MPaにアップした。圧縮比は従来の16.0から15.2に下げられている。この0.8の低減は燃焼温度引き下げに貢献しているはずだ。
圧縮比を下げると低温時の始動性に影響が出るが、これは低圧/高圧併用のEGRを細かく制御することと、グロープラグを急速昇温対応仕様に変更して補っている。従来のEGRはポート部から直に排ガスを吸気側に導く高圧(ハイプ レッシャー)式だったが、新たに低圧(ロープ レッシャー)通路を設け、過渡域でのEGR率を高めている。EGRは「燃えカス」である不活性ガスをエンジンに与える、いわば「お腹で膨らむ栄養素ゼロのダイエット食品」であり、単純にシリンダー内を満腹にするためのものだ。その狙いは排ガス低減だが、燃焼には寄与しな
いから使いすぎるとレスポンスが悪化する。こ の部分は走行実験を重ねてチューニングしているはずだ。トロいスバル車は許されない。
ターボも変更された。エンジン右前下端とい う搭載位置と可変ノズル式である点は変わらないが、可変ノズル形状と制御プログラムを見直して低負荷運転時や高EGR率での過給圧を最適化している。同時に、従来はターボ配管とタイミングチェーンとで取り回しが苦しかった燃料ポンプ駆動系をギヤ式に改めた。これによって補機駆動ベルトのレイアウトも変わった。
DE特有のカラカラ音を低減する工夫も進歩した。水平対向はブロックが左右にふたつあるため放射雑音を出しやすい。今回、エンジンブロ ック周囲の補機レイアウトを改めたことに合わせて、インテークマニフォールド下やチェーンカバーにポリウレタン製吸音材を貼り付けた。
ユーロ6bへの排ガス対策とはいえ、レスポンスや音・振動もきちんと見直した、スバルらしい発想のマイナーチェンジである。(2015年8月 Motor Fan illustrated Vol.107)
二重苦三重苦への挑戦が 多くの知見をもたらした。
ディーゼルエンジンは総じてロングストロークである。吸気/排気バルブは直立している。高圧噴射のための燃料インジェクターは長い棒状をしている。直列エンジンではエ ンジン全高を増やしてしまう要素だ。しかし、少し傾けてエンジンルームに積めばいい。排ガス後処理装置は排気ポートのすぐ直下に、エンジンに寄り添うように取り付ければいい。その位置であれば温度の高い排ガスを活用できる。ターボの配管とEGR配管は、とくにガソリンエンジンと変わらない。では水平対向ディーゼルはどうかと言うと、車両全幅に規制されてこのすべてがNGになる。ロングストローク化は難しく長いインジェクターも入らない。排ガス後処理装置のスペースなどない。ここがスバルの挑戦だった。
SPECIFICATIONS
型式 EE20
エンジン形式 水平対向4気筒DOHC
排気量 1998cc
内径×行程 86.0×86.0mm
圧縮比 15.2
燃料供給システム 2000bar(ソレノイド)コモンレール
過給システム ターボ×1
可変動弁 ×
EGR HP / LP
最高出力 110kW / 3600rpm
最大トルク 350Nm / 1600-2800rpm
排気後処理装置 DOC / DPF
エミッション EURO 6
トランスミッション 6速MT / CVT