ガソリンエンジンで動く自動車のルーツは、メルセデス・ベンツのパテント・モートルヴァーゲンであるとされています。1885年に試運転に成功したこの自動車は、950ccの水冷式単気筒エンジンを搭載していて、時速10キロほどで走ったと言われています。
そんな歴史的な自動車のレプリカを、車輪のリムからエンジンに至るまで完全にハンドメイドで造ってしまった学校がありました。兵庫県尼崎市の産業技術短期大学です。
ある晴れた2月の昼下がり、自動車の元祖に会うべく訪ねてみました。
メルセデス・ベンツ1号機プロジェクトを発案!
メルセデス・ベンツ1号機プロジェクトを発案し、中心になって推進したのは同短期大学ものづくり工作センターの久保田憲司講師です。トヨタ博物館に展示されていたレプリカの採寸から始まって、約一年で完成させました。
「外から見える部分しかわかりませんから、中身は試行錯誤です。残された文献を頼りに。たとえば吸気バルブなんですけど、これがスライド式なんです。エンジンを掛けてみると、ここから盛大に圧縮が漏れて煙が出ました。それでバルブの当たる面に、ロータリーのアペックスのようなシールを入れてみました。バネでテンションが掛かるやつです。これでほぼ解決しました。」
「排気バルブは現代のエンジンと同じ仕組みです。ただしここは外から見えませんので、完全に推測で製作しました。後日、あるベンツのディーラーから、展示していたレプリカ1号機の調子が悪いから直してくれ、という依頼があって、その修理の時に排気バルブを見てみたら、うちで作ったのとほぼ同じでした。正解やったんや、と嬉しくなりました」
エンジンの始動を行うと…
エンジンは車体後部に積まれていて、回転軸はなんと垂直です。クランクに直結した赤い大きなフライホイールが、コマのように水平に回転します。「設計の段階で、フライホイールを縦にするとジャイロ効果で曲がりにくくなるかもしれない、ということで水平にしたらしいです。実際にはこの程度の回転でそんな心配は無いんですけどね」と久保田講師。エンジンの始動は、この大きなフライホイールを手で回して行います。