私は浪人して大学に入りましたし、実家住まいでした。そんなわけで、実は自分でクルマを買ったのも、二つ目の会社、クルマ買取り大手の企業に勤務していたときのことでした。
免許を取ってから、しばらくは家にあったマツダMPV(初代)に乗っていました。荷物も積めるし、そこそこスポーティだし。旅行に行ったり、仲間の送迎や荷物運びなど、いろいろと大活躍でした。
しかしながら、私にはなんとなく憧れがあったのです。「最初のクルマはぜひともW124」。いわゆるメルセデス・ベンツのミディアムクラスですね。私が一番カーグラフィック誌を読みふけっていた時、長期テスト車の中に、ウィローグリーンのメルセデス・ベンツ260Eがいました。毎月コンスタントに3300kmほどの距離を重ね、あっという間に20万キロを突破。一見そっけないデザインに感じられるそのスタイルも品がよく飽きのこないもの。メルセデスのスタイル、そしてクラススタンスのベースのようなものをあのレポートから学んでいたような気がします。
当時、私が勤めていた会社に入庫するW124の情報はかなりくまなくチェックしていました。当時すでに相当年式の古い輸入車の部類でして、中には会社の規定で、距離などの理由から販売できないクルマもありました。それだけに販売可能なW124は、そのままでもかなりきれいなクルマが多く、好きな人間からすると、そのデータを見ているだけでも飽きませんでした。
ある時、和歌山の店舗で、大変綺麗なセダンを買い取ったという情報が入ってきました。そのクルマは距離が77000km、ミッドナイトブルーの外装にヤナセが用意していた、まるでクラウンにでもかける様なハーフのシートカバーがついていました。左ハンドルのそのクルマは、セダンとしては珍しい4マチック、4輪駆動だったのです。
「いいなあ、いいなあ」と指をくわえてみていても、そんなクルマはすぐには売れません。3日ほど経つと、店舗の仲間が「買っちゃったら?」と言い始めます。結局もう一晩考えて、ぽちっと発注してしまいました。この時、私は一度も現車を見ることなくシステム上の発注ボタンを押していたのです。今では考えられません、が、故なき自信がありました。