風が穏やかなよく晴れた日に、アスファルトや線路から湯気のようなものがゆらゆらと立ち上っているのを見て、不思議に思ったことはありませんか?これは「陽炎(かげろう)」と呼ばれる現象で、空気の温度(密度)のむらが生じることで、不規則に光が屈折して起こります。
また、同じく道路上で見られる「逃げ水」も光の屈折による現象ですが、陽炎と逃げ水ではある違いがあります。
今回は、身近にある不思議な現象「陽炎」について、仕組みや類似現象との違いを詳しく解説していきます。
陽炎とは
陽炎(かげろう)とは、地面などから空気がゆらゆらと立ち上って見える現象のことです。
晴れて日差しが強く、風が穏やかな日に、アスファルトの道路や砂浜・線路・車のボンネットの上などでよく見られます。また、飛行機のジェットエンジン付近やたき火の上でゆらゆらと揺らめいて見えるのも、同じく陽炎です。
なお、陽炎は文学的には春の季語で、「はかないもの」や「ほのかなもの」といった意味で使われることもあります。
ですが、実際に現象が起こるのは春に限ったことではなく、条件さえそろえば一年中見ることができます。特に日差しが強くなる春から夏にかけては、あちこちで見られるようになります。アスファルトに囲まれた現代に暮らす私たちにとっては、陽炎は、”春”や”はかなさ”というよりも、むしろ”夏”や”高温の道路”といったイメージの方が強いかもしれません。
飛行機のジェットエンジン付近でも見られる「陽炎」
なぜ起こる?「陽炎」の仕組み
では、いったいなぜ「陽炎」が起こるのでしょうか。
それは、暖かい空気と冷たい空気が入り混じってできた空気の密度のむらによって、光が不規則に屈折するためです。このランダムな光の屈折が、ゆらゆらした揺らめきの正体です。
と、一言で言ってもイメージしにくいと思いますので、もう少し詳しくみていきましょう。
①空気が温められ、密度の異なる空気がかき混ぜられる
強い日射によって、アスファルトなどの地面付近では空気が温められます。
みなさん、暖かい空気は軽く、冷たい空気は重いということはご存じですよね?つまり、相対的に暖かい空気は密度が小さく、冷たい空気は密度が大きくなります。
このため、温められた軽い空気は上へ、周辺の冷たい重い空気は下へと動こうとして、空気がかき混ぜられます。かき混ぜられて、空気の温度(密度)分布にむらがある状態になります。
②光が密度の異なる空気を通過するとき、屈折する
光は、密度の異なる物質の間を通るとき、その境界で屈折する性質を持っています(※)。このため、かき混ぜられて空気の密度が不均一かつ変動しているような状況下では、光がさまざまな向きに屈折して、その向こうの景色が歪んだり揺れたりして見えるというわけです。
なお、透明な物質の中で密度の違いがある場合に、光の屈折率の違いによってもやもやが見える現象を、専門用語では「シュリーレン現象」と呼びます。例えば、アイスティーにガムシロップを入れたときにもやもやして見えるのも、シュリーレン現象です。
写真は、シュリーレン現象の実験のようすです。砂糖を入れたフィルターを水につけて溶かすと、もやもやしたものが見えて、背景が歪んでいるのがわかります。
陽炎の正体である「シュリーレン現象」の実験(砂糖が水に溶けてできた密度の差によって光が屈折し、もやもやが見える)
※【もっと深掘り】光が屈折する理由
「そもそも、なぜ光が密度の異なる境界で屈折するの?」と疑問に思った方もいらっしゃるかと思いますので、もう少しだけ深掘りしてみましょう!
光の進むスピードは、物質の密度によって異なります。密度が小さいところは速く、大きいところでは遅くなります。
ここで、光を車に例えて考えてみてください。アスファルトからぬかるみに、車が斜めに進入したとします。
片側のタイヤだけぬかるみにはまってしまうと、はまった方のタイヤは進みにくくなって遅くなりますが、はまっていない方のタイヤはもとのスピードで進みます。左右のタイヤのスピードに差があると、車の進む方向は曲がってしまいます。
光の場合も同じです。密度の異なる境界では、左右の光のスピードの差によって、光が屈折するのです。
密度の差によって光が屈折する理由
逃げ水との違い
陽炎と同じように、日差しが強く暑い日に地面付近で起こる現象に「逃げ水」があります。
似ているように見える二つの現象、一体なにが違うのでしょうか?
逃げ水は、アスファルトの道路などで遠くに水たまりがあるように見える現象です。近づいてもそこに水たまりはなく、また遠くに水たまりが見えるようになります。水たまりが逃げていくように見えることから、そのように呼ばれます。
逃げ水は、遠く離れた景色が実際とは違う形や向きに見える「蜃気楼」の一種で、光の屈折によって地面に空などが反転して映ることで、水たまりのように見えています。
陽炎も逃げ水も、空気の密度(温度)の差がもたらす光の屈折によって起こる点は同じです。ただし、陽炎は局所的な密度(温度)のむらや揺らぎによって起こるのに対して、逃げ水は密度(温度)の差が層状になっている点で異なります。
逃げ水の場合、地面付近に温められた密度の小さな空気の層、その上に冷たい密度の大きな空気の層がある状態になっているため、光は密度の小さい地面付近の方が速く進みます。ただし、この密度の境界はすぱっと分かれているのではなく段階的に変化しているので、密度の差による光の屈折も段階的に起こり、光は下方向にカーブを描きながら私たちの目に届きます。
このとき、人は目に入ってくる光の延長線上にその物体があると錯覚するため、地面の方向に遠くの空や景色が映ったように見えるというわけです。
空気の密度の分布状態によって、見える現象が変わるなんて、なんだか不思議ですよね。
逃げ水の仕組み
陽炎が現れるような日には、紫外線対策を忘れずに
今回は、身近な不思議な現象、陽炎について解説してきました。
春から夏にかけて日射が強くなるにつれて、陽炎が見える日や場所も多くなります。揺らめく陽炎を見かけたら、夏に限らず日差しが強いという証拠ですから、外出時には日焼け止めや日傘でしっかりと紫外線対策を行ってくださいね。
日差しにご注意!紫外線対策を万全に