「大寒」にはその名にふさわしい寒さがやってきます。「氷」こそ厳しい寒さが自然の中で作り出す芸術といえましょう。一つ一つの姿や表情はどれをとっても独特なもの。気温が零度で水が凍るのは誰もが知っています。ところで凍る時に音が鳴るって知っていましたか？「氷の声」というそうです。発する声もまた千差万別。不思議な魅力がいっぱいだから「氷の世界」は神秘的。今しか体験できない氷点下の別世界を探検しに行きませんか？
長野県 木曽 白川の氷柱
「氷瀑」まさに荘厳！流れ落ちる滝が凍る？
熊本県で滝が凍る！ ちょっと驚きです。熊本県は九州にあるから南、何となく温かいイメージですが、阿蘇にある「古閑の滝」は冬になると凍ります。落差およそ100mほどもある滝を一瞬で凍らせた、と思わせるような景色が冬になると出現します。
この壮大な景色の始まりは、阿蘇山の巨大な噴火で大地が陥没したことだそうです。陥没の結果できたのが阿蘇の外輪山です。「古閑の滝」はこの外輪山の東側の断崖にあります。滝の上流が平なために水が集まって大きな流れを作ることはありません。夏場は岩肌に沿って流れる水が吹き上げられる風で水しぶきとなり上に飛んでくる、というのが阿蘇山の自然が作る「古閑の滝」です。
それではこの壮大な「氷瀑」はどのようにしてできるのでしょうか。主役は夏にも吹いていた阿蘇の谷から吹き上げてくる風。冬になると冷え切った風が「古閑の滝」の岩肌を流れるしずくを氷つかせます。寒風に吹き付けられた氷が成長しやがて迫力満点の「氷瀑」を作りだすのです。つららのように真下に向かうものもあれば、円を描いてアーチとなる氷など、風の向きや強さで作りだされる造形は多彩です。
「氷瀑」が巨大となる1月から2月にかけてが見ごろとのこと。地元ではこの時期ライトアップも行っているそうです。明るい光の中で輝く氷とはまた異なった、幻想の世界を楽しむことができそうですね。
参考：古閑の滝｜阿蘇の冬の風物詩、氷の芸術“凍り付いた滝”ライトアップ／阿蘇
熊本県阿蘇 古閑(こが)の氷瀑
可憐な氷、一度は見たい「氷華」
枯れた茎にまるで氷の花が咲いたように見える現象、それが「氷華」です。こんな氷、見たことありますか？ これも寒さが作り出す小さな氷の営みといえそうです。どのようにして「氷華」は咲くのでしょうか？ 寒さの中で生きぬく植物の強さに秘密があるようです。
枯れても根は地中でしっかりと生きている植物があります。根が吸い上げた大地の水分は茎の導管へと上がっていきます。冷えこんだ朝、導管中の水分が凍ると茎の外へ張り出し、霜柱となって作られるのが「氷華」です。茎が枯れても根が生きているシソ科の植物、たとえばシモバシラやカメバヒキオコシなどに、この現象が見られるとのこと。ポイントは霜柱が出来る環境。地表面に充分な水分があり寒さもほどほど、地中が凍るような寒さではないこと、などの条件が整う必要があります。
せっかくできた「氷華」も太陽が昇り気温が上がれば、あっけなく溶けて無くなってしまいます。ほんの一時の短い命なのでなかなか目にする機会に恵まれないのかもしれません。それだけに白く輝き咲く「氷華」を一度は見てみたいものです。朝日に溶けゆく姿のはかなさもまた「氷華」の美しさといえましょう。
氷華(ひょうか)
「アイスバブル」は大地の呼吸？
「氷瀑」や「氷華」といった美しい氷ができるには、寒さだけではない天候や自然環境などの条件が必要なことがわかりました。
「アイスバブル」は豊かな水をたたえた湖が厳しい寒さの到来とともに、呼吸をするように作り出す氷の美といえましょう。北海道は道東の湖沼でよく見られる冬のお楽しみのようです。
バブルを作るのは空気ばかりではありません。水中に生息するバクテリアなどが発生させるメタンガス、また火山地帯にある湖沼でしたら火山性のガスなどが考えられます。ふだんなら湖面にでて気泡となって消えてしまうこれらのガスが、冬になり湖面に氷が張るようになると逃げ場を失っていきます。湖面全体が凍ったとき気泡は氷の中に閉じ込められ、白く丸い「アイスバブル」となり透明な湖の氷の中に浮かびます。
厳しい寒さゆえにできる「アイスバブル」ですが、湖面に雪が積もってしまってはその美しさを楽しむことはできません。ここにも美を作り出す冬の自然の条件があるのです。
「アイスバブル」のお楽しみは湖面に現れる美しさだけではありません。バブル発生のときピュンピュンと音が鳴るというのです。まさに「氷の声」ですね。冬の寒さが厳しければ厳しいほど氷が作り出す造形はバラエティに富んでいくようです。そこには寒さだけではない地形や天候といった、予測できない何かの力もまた必要なのですね。
参考：【北海道ファンマガジン】
北海道 糠平湖のアイスバブル
