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季節は晩秋へ、二十四節気は「寒露」深まりゆく歩みは半歩から大きく一歩


仲秋に輝いていた「白露」は、陰寒の気に出合い結んで「寒露」となりました。空気中の水蒸気の変化を寒さの進みにより感じ取る鋭い目に改めて驚かされます。現代の感覚では、暑くもなく寒くもない、大変すごしやすい時季といえるのがこの頃です。とはいえ、気づかないほど静かに進む季節を知らせてくれるのが自然の動き。空には到来する冬鳥たちの姿、地上に聞こえてくるのは虫の鳴き声や咲き競う秋の花々。窓を開け、風を入れてゆっくりと自然をながめてみませんか。


初候「鴻雁来(こうがんきたる)」雁が持ってくるのは何?

ツバメが南へ渡ると入れ替わるように北からやって来るのが雁。雁が持ってくるのは「雁渡し」。初秋から仲秋にかけて吹く北風のこと。暑さの名残を引きずる中にひやりと北風を感じた時、季節が変わったと実感します。澄み渡る空にやってくる雁に季節の移ろいを感じていたのですね。
「雁来紅(がんらいこう)」は雁の渡ってくる頃に色づくことでと名づけられた「葉鶏頭」のもう一つの名前です。花がニワトリのトサカのように紅くなる「鶏頭」と違って葉っぱが紅くなります。「雁来紅」とともに秋を鮮やかに彩ります。江戸時代の俳人、芭蕉が秋を見つめてこんな句を残しています。
「鶏頭や雁の来る時尚あかし」
天気のいい日には秋の空を見上げてみませんか? 雁はやって来ているでしょうか、もし鶏頭や葉鶏頭が紅く染まっていたならば、もう雁はどこからかやって来ているはずです。


次候「菊花開(きくのはなひらく)」したたり落ちる露には…

旧暦でいう「重陽の節句」が新暦では今頃にあたります。陽の最大数「九」が重なるめでたさと、花の盛りをむかえる菊からしたたり落ちる露を飲んだ人は長生きする、という伝説も合わさり、古来から宮中で「重陽の節句」が行われてきました。長寿を祝い宴をひらき、盃に菊の花を浮かべたお酒を酌みかわして、詩歌を作り楽しんだということです。
「菊の露のしたたりを飲むと長生きする」という伝説をしらべてみると、紀元前に遡る中国の故事にいきつくようです。
帝に仕えた童子が間違いをおこし流罪となります。帝はそれを哀れみ法華経の偈を書いた枕を渡し、毎朝偈を唱えて礼拝しなさいと教えます。童子がそれを忘れないようにと菊の葉に偈を写したところ、そこに結ぶ露が不老不死の霊薬となり飲んだ童子は仙人に。帝にもこの秘伝を伝え、長寿を祝ったということです。帝が童子に書いた偈がどのようなものかはわかりませんが、実は法華経のありがたい教えが菊の露のしたたりには含まれていた、という点が重要だったのではないでしょうか。
この話が平安時代に日本に伝わり、菊の水の霊妙は重陽の節句とともに長寿のお祝いとなりました。この故事がもととなり「菊慈童」または「枕慈童」の演目名で能や歌舞伎でも上演され、日本人の文化として浸透していきました。
参考:
[銕仙会~能と狂言~「菊慈童」]


末候「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」耳を澄まそう!

起源はやはり中国に。最も古い詩集『詩経』の一編「七月」。
七月は野に在り、
八月は宇(=軒)に在り、
九月は戸に在り、
十月は蟋蟀我が牀下(=床下)にあり
「蟋蟀」は「キリギリス」とも「コオロギ」とも読ませます。今の時季でしたら「コオロギ」の方が自然でしょうか。夏から秋へ、野で鳴いていた蟋蟀もしだいに人家に近づいてくる。秋が深まれば鳴き声も身近に。言われてみればそのような気がしてきます。
虫の声を聴きに野山へでかける「虫聞き」は、涼しさや秋のしみじみとした寂しさを感じるための行事。虫の音を聴きながら虫を選び、虫籠に入れてその音を楽しみ、またお互いが虫籠を持ち寄って音色を競う「虫合わせ」と、どこまでも秋を楽しもうという感性は日本人独特のものかもしれません。
参考:
目加田誠著『詩経』講談社学術文庫

カヤコオロギ(オス)

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