11月も終わりに近づき、いよいよ冬の気配が漂ってきましたね。街中ではダウンを着ている人もいたり、家では暖房器具を出したり……。いよいよ本格的に寒さ対策をする時季を迎えました。
冬といえば、雪の降らない地域では「乾燥」が最大の悩みどころ。けれども、初冬のこの時季は意外に雨が多いと思いませんか? 季語では「冬の雨」「時雨(しぐれ)」と呼び、寒いなか静かに降る雨をイメージできますが、実は“時雨”は単なる冬の雨とは違うらしいのです。
そこで今回は、“時雨”の意味や使い方などについて調べてみました。
「時雨(しぐれ)」の本来の意味を知ろう
まず、“時雨”の意味は以下の通りです。
── 冬の初めころから中ごろにかけ、さっと降ってさっと上がり、時にはしばらく断続的に降り続く雨。山から山へ夕立のように移動しながら降ったり、降ったかと思えば太陽が顔を出し、また降るといった具合の雨のこと。──(合本俳句歳時記より)
「しぐれ」は「過ぐる」から転じた言葉ともいわれ、いわゆる天気雨・通り雨をさすことが多いことがわかります。
そもそも“時雨”とは、北西の季節風に流された雲が日本海側から太平洋側へ移動する際に盆地で雨を降らせることで、日本海側や京都盆地、岐阜、長野、福島などの山間部ではよく見られる現象だそうです。
ある地域では頻繁に見られることから、下記のような言葉が生まれました。
○北山時雨(きたやましぐれ)
京都の北山とは、「船岡山」「衣笠山」「岩倉山」の山の総称で、その方面から降る雨を「北山時雨」と呼んでいる。「時雨」といえば「北山」というほど昔から有名な場所。
○高島時雨(たかしましぐれ)
滋賀県湖西で多い「時雨」は、滋賀県の高島市や大津市北部地域の特有の気象のため「高島時雨」」と呼ばれている。
○七時雨山(ななしぐれやま)
岩手県八幡平市、北上川水系の最北端に位置する七時雨山(1063m)は、「一日に七回もしぐれるほど天気が変わりやすい」ことから、その名の由来を持つといわれている。
“時雨”が入る季語とは?
いかがでしたか? 「時雨」は特定の地域で見られる冬ならではの通り雨のような現象だったのですね。
その地域では当たり前のように見られるかもしれませんが、関東地方に住むかくいう私も、数年前に雨の中で遠くに虹を見た経験があります。それが“時雨”だったかは定かではありませんが、意外に普段の生活の中で遭遇しているのかもしれませんね。
最後に“時雨”が入る四季の季語をご紹介しましょう。
○「時雨月(しぐれづき)」冬
陰暦10月のこと。時雨がよく降る月だから、このように呼ばれた。
○「時雨忌(しぐれき)」冬
陰暦10月12日。俳人松尾芭蕉の忌日をいう。特に芭蕉は「時雨」の情緒を愛していたことと、「時雨月」に亡くなったため。
○「初時雨(はつしぐれ)」冬
その年に降った最初の時雨。夜は「小夜(さよ)時雨」、朝は「朝時雨」、夕方は「夕時雨」と呼ぶ。
○「春時雨」「秋時雨」春・秋
春と秋にも時雨と同じような雨が降ることがあるため。
○「蝉時雨(せみしぐれ)」夏
時雨の意味のなかの、断続的に続く雨を例えた。
(参照:俳句歳時記(春~新年) 角川学芸出版 角川文庫)
「時雨」はレアでも身近でもある季語
──言葉や漢字の成り立ちを知ることは、日常生活に膨らみを持たせてくれるはず。
本来“時雨”とは、めったに見られないレアな気象現象なのですが、今では単なる冬の通り雨も“時雨”と呼ぶようになったそうです。確かにいわれてみれば、この頃の雨は、降ったりやんだりが多いですね。
季節感はいかに身近にあるか。「知って得する季語」で実感できるのかもしれません。