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8月16日は月遅れ盆の最終日。送り火にこめられた信仰とは?


8月16日は、多くの地域でお盆明けにあたり、送り火が焚かれる日となります。懐かしい我が家で数日を過ごした故人を、送り火を焚いてふたたびあの世へと送り出します。でも、どうして8月16日?どうして火を焚くの?そもそもどうしてお盆の季節は8月13日から16日?そういえば新盆っていうのもあったような?ややこしくてちょっとよくわからないお盆について、ちょっと詳しく解説してみましょう。

京都五山の送り火

京都五山の送り火


旧盆・新盆・月遅れ盆・盂蘭盆。ややこしい「お盆」用語をまずは整理しましょう

「盆暮れ正月」「盆と正月が一緒に来た」「盆踊り」などの成語ことわざ・行事を見ても、正月と並び立つほど重要な日であるととらえられてきたことがわかるお盆。でも「実家に帰省する夏休みのイベント」「ご先祖様が家に帰ってくるイベント」とはわかっていても、なぜ夏のこの時期なのか、どうして故人が帰ってくるのかなど、考えてみると理由がわかりませんよね。

しかも、お盆にも七月と八月があって、新だとか旧だとか聞くとさらにややこしい。そこに「うら盆」などと聞くと「ん?おもて盆もあるの?じゃあ七月のお盆が表で八月が裏のお盆=うら盆?」とか考えてしまう人もいるとか。

「うら盆」は「盂蘭盆会(うらぼんえ)」で、お盆の正式名です。「盂蘭盆」とは三世紀ごろの中国で成立した儒教的道徳を教えるための仏教経典のていを取った「仏説盂蘭盆経」から来ています。修行者目連が、その神通力で亡くなった実母が冥界で餓鬼として苦しんでいる様子を透視し、救うために手を尽くしますがどうしても母親は救えません。お釈迦様に教えを請うと、「すべての救われないものの為に供養をする心で祈れば救われる、と説き、その通りにすると母親も地獄の責め苦から救われた、といういきさつを語ったものです。この親孝行の象徴的な物語が民間に浸透し、盂蘭盆経信仰は次第に中元節とむすびついて、「盂蘭節」となっていきました。お中元の語源でもある「中元節」とは、旧暦7月15日にあたり、死者があの世からこの世に出てくる期間であるために丁重にお迎えしてもてなす行事。この行事が日本に伝わり「お盆」となっていきました。

明治以前の太陰暦だった時代には、この盂蘭盆会(中元節)は太陰暦(旧暦)の文月の満月の日、つまり7月15日でした。明治政府が西洋に倣い太陽暦を採用した際、今後お盆は新暦の7月15日とするように、と通達しました。東京近郊の都市部などはこのため新暦のお盆、つまり現代の暦の7月15日をお盆とする地域が出てきましたが、地方ではその通達も十分行き届かず、そのまま旧暦のお盆の日にちを踏襲していました。

けれどもカレンダーや新聞などの日付と旧暦のずれの不便が次第に問題となり、それならと旧暦のお盆の日付に近い8月15日を「月遅れ盆」として丸ごと一ヶ月ずらして行われるようになりました。

つまり「新盆」は毎年7月15日を中心とした7月13~16日、「月遅れ盆」は毎年8月15日を中心とした8月13~16日、そして「旧盆」は今年は8月25日を中心にした前後の期間、ということになります。

送り火 迎え火

送り火 迎え火


本来お盆は一ヶ月続く!

現代の風習では、15日の二日前、13日に墓所などの祖霊のいる場所に一族もしくは代表者が赴いてちょうちんをかざして祖霊をお迎えし、お盆の翌日の16日に今度は送り火でふたたびあの世に帰ってもらう、と言うものが一般的。

けれども本来、お盆は旧暦の7月の間続く長いものでした。先述したとおり旧暦七月は別名「鬼月」また「鬼節」と呼ばれ、旧暦の一月と七月は閉じられていた冥界の出入り口が開き、月が閉じる三十日まで一ヶ月間この世に死者たちがさまよい出てくるという言い伝えがあります。「鬼」というのは、あの昔話に出てくる悪い妖怪ではなく、本来死者の魂全般を指す言葉です。「魂」にも鬼の字が入っていますよね。

ですから、かつてはお盆も旧暦七月の間ずっと続くものでした。岩手県の花巻では、現代でも長く続く昔ながらのお盆のかたちが残存する地域。日にちの設定こそ「月遅れ盆」で行われますが、そのはじまりは8月7日。これを「ナヌカビ」と呼び、墓地の清掃を行った後、一族全員で墓参りをします。なぜ七日なのかは、「七日帰り」という習俗信仰と関係があるものと思われます。人は死ぬと、七日目に一度家に帰ってくる、とかつて日本では信じられていたのです。ですから故人が死んで七日目には自宅の縁側に編み笠姿の三本足の依代人形を作って供えておき、日付が変わる深夜12時に人形を村はずれまでもって行き置き去りにします。死者は人形とともにを送り返されるのです。こうした信仰のため、旧暦7月、つまり月遅れで8月の1日に地獄の釜の蓋が開くと、七日かけて故郷に帰ってくる、ということになります。墓所はいわば死者と生者の待ち合わせスポット。墓石の上に干し昆布をたらし、墓前には松根を炊き、「オフカシ」という赤飯や青果類、煮物などの供物を供え、そのまま放置。貧者や野生動物の食べるに任せます。14~16日はお盆の中心で、連日夕方に家族の誰かが墓参りをします。また、14日以降の夜には「カドヒ(門火)」と称して連日必ず火をたきます。20日は「ハツカボン」で寺での施餓鬼供養が行われ、30日の「送り盆」で最後のカドヒを炊いて死者を送り出し、ようやくお盆は終わります。かつてのお盆はこのように約一ヶ月続く念入りなものでしたが、現代は四日間ほどに省略されているのです。

京都大文字送り火 灯篭流し

京都大文字送り火 灯篭流し


なぜ「送り火」なのか?日本各地のお盆さまざま

お盆の祭礼としてもっとも有名な京都五山の送り火(大文字焼き)も、素朴な村の送り火を壮大にしたもので、室町時代から続く冥界に戻る死者たちを送り届けるかがり火です。歴史があるにもかかわらず、旧盆ではなく月遅れ盆の日付で8月16日に行われるのはちょっと不思議ですね。

長崎県を中心に、佐賀県、熊本県の一部で行われる初盆(前年のお盆以降に四十九日の忌明けを迎えた故人が迎える初めてのお盆)行事に、精霊(しょうろう)流しがあります。さだまさしの同名の唄でしんみりした行事かのように思っていると、そのドハデさとにぎやかさに意表を突かれます。真っ赤なしずく型の「みよし」と呼ばれる舳先に家紋や家名、町名などを印した大小さまざまな精霊船に故人の御霊を乗せ、火消しのまといのような印灯篭をつきあげて煽る若者を先頭に、そろいの法被で爆竹を辻々で鳴らし、鉦を鳴らしながら、「ちゃんこんちゃんこん(鎮魂の意)どーいどい」と掛け声をかけあいながら、炊き上げの場所まで町を引き回して練り歩きます。

長崎市や諫早市では、お盆の墓参りではそれぞれの家の墓前で花火をする風習もあります。この花火もまた「送り火」のバリエーションの形です。夏祭りで各所で花火が上がるのもまた、送り火の意味があるのです。

このように、形はさまざまでも「火で死者を送る」というならわしは、意識的であれ無意識的であれ、日本人の心理の深層に根付いたものなのです。

実は日本では死者を火によって弔うというならわしの起源は古く、縄文時代や弥生時代に既に火葬を行っていましたし、古墳時代の遺跡のかまど塚は、さまざまな副葬品とともに貴人が焼かれた施設が見つかっています。文献で登場するのは「続日本紀」の文武4(AD700)年の僧・道昭の火葬で、「天下の火葬、これよりはじまれり」と記されています。その後、持統天皇をはじめとして天皇の火葬が行われるなど、主に上流階級の一部で火葬は行われていました。また、近世になると家屋の密集する大都市、江戸、京都、大阪などで一般市民も火葬され、無縁仏の遺骨は「江戸の五三昧」(小塚原、千駄ヶ谷、桐ヶ谷、渋谷、炮禄新田)、などの共同埋葬場に埋められ、お盆には夜にちょうちんを点し、鉦を鳴らしながらこれらの墓所を巡って供養をするという風習があり、これは歴史の中のひとつのお盆の形でした。

もちろん全国的に見るとほとんどの地域は土葬で、火葬は風葬や水葬などとともに少数派の埋葬法でした。それが大きく変換したのは昭和40~50年代、つまり1970年代前後の比較的近年、市営・町営の火葬場が続々と建設され、短時間で重油で焼き尽くしてしまう葬送法が一般的となってから。でも、先進国でも未だに土葬が当たり前のアメリカなどと比べて日本が火葬を急速に一般化させたのは、日本の基層に火葬の風習は存在し続けたこと、そして小正月のどんど焼き、お焚き上げなどでのご神体や古い縁起物を焼き払う行事などで、穢れたもの、この世で機能を果たさなくなったものを丁重に焼き払い、炎と煙に換えることで別世界に返す、という習俗が深く広く根付いていたためであろうと思われます。

お盆の迎え火からはじまって送り火で結ぶならわしも、そのような日本の民俗風習と大きく関わっているものなのでしょう。

長崎の精霊流し

長崎の精霊流し

お盆のアイテムに「精霊馬」があります。夏野菜で作った馬と牛で、馬はきゅうりで、牛はナスでつくるのがポピュラーですが、馬は家に来るときにできるだけ早がけで到着してもらうため、牛は帰るとき名残を惜しんでゆっくり黄泉へお戻りください、という思いをこめてのものといわれます。いかにも素朴な民俗信仰ですが、それだけに故人と一族の絆や思いをあらわしているようで、道端に精霊馬を見かけると、心が温まりますよね。皆さんの生まれ故郷には、どんなお盆の行事がありますか?



参照

死・墓・霊の信仰民俗史 (新谷尚紀 歴博ブックレット)

日本人の原風景3-田園祝祭 さと (旺文社)

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