今年の冬は「最強寒波」「過去最強クラスの寒気」「年に数度レベルの寒気」といった言葉を度々耳にし、東京でも34年ぶりの「氷点下3度」を記録。1月22日には20cm以上の積雪が観測されましたね。雪が降ると雪が音を吸収するからか、街がいつもより静かになったように感じます。もちろんその静けさは、天気や季節、街の規模、時間帯などによっても変わります。
街に限ったことではありませんが、場所や時間は、固有の「音の風景」もしくは「音の環境」を持っているのです。こうした考えは、1970年代から「サウンドスケープ」という学問の一分野にもなりました。
生活を彩り、ときに病気の原因にもなりうる様々な「音」たち……
雀やカラスの鳴き声などは、もっともありふれた「音の風景」を構成するもの。風の音や雨だれの音も自然が作る音の風景です。もし、海の近くに住んでいるとすると、海鳴りの音が24時間聞こえてくるでしょう。
その一方で人為的な音もあります。
たとえば住宅街でよく耳にする人為的環境音には、新聞配達のバイクの音、廃品回収のアナウンス、ピアノのおけいこ、夕方になると ── これは最近あまり聞きませんが、豆腐屋のラッパの音、お寺の鐘、夕方5時に鳴る夕焼け小焼けのメロディ、そして夜には犬の遠吠えなどが聞こえてきます。
これらの音は日常生活のリズムの一部となっていることも多いのではないでしょうか。
なかでも建設現場の音や飛行機の発着音などは「騒音」と位置づけられています。工事現場の壁に「ただいまの騒音◯◯デシベル」と表示された電子掲示板を見ることがありますが、こちらは重機の音などの工事音が近隣住人のストレス原因になることがあるため、こうした掲示板が設けられるようになりました。
ちなみに、デジベルが示す音の大きさを見てみると……
●30デジベル……静まり返った深夜で、路上の人が交わすささやき声
●50デジベル……家庭用クーラーや換気扇の音。小さな声で話す声
●80デジベル……地下鉄の車内で感じる走行音、麻雀牌をかき混ぜる音、かなり大きな声
●90デジベル……犬の鳴き声、カラオケで歌う時の音量、ブルドーザーの動作音、怒鳴り声
●100デジベル……列車が通過する際にガード下で感じる音、声楽家が歌う声
●110デジベル……自動車のクラクション(ホーン)、会話は成り立たない
●120デジベル……近くでの落雷、飛行機の近くで感じるエンジン音、会話は成り立たない
100デジベルを超えると、聴力機能に障害が発生するレベルであることがわかりますね。
意識的に音の「風景」を考えると、不思議なことがたくさんあるはず!
お祭りのお囃子の音、花火の音、稲妻の音など非日常的な音もあり、人間は様々な「音」に取り囲まれて生きているのです。
旅をすると、場所によってこの「音の風景」ががらっと変わるのに気がつくはずです。NHKラジオでは、「音の風景」という毎日世界各地の音風景を流す、短い番組を放送しています。
こうした「音の風景」を総合的に考えるのが「サウンドスケープ」という考え方です。
このような音の環境は、人間の気分や行動パターンなどに影響することも多いはずですから、文化人類学調査や環境デザイン、都市計画に応用されたりすることもあります。カナダの音楽学者マリー・シェーファーは『世界の調律』(平凡社ライブラリー)という本を書いています。
街歩きの楽しみのひとつとして、この「サウンドスケープ」のことをちょっと頭に入れてみてはどうでしょうか。「音の風景」を意識してみると、いつもの見慣れた街の表情が大きく変わってくるはず。
たとえば地下鉄を利用する際、繰り返し駅構内に反響する「ピーンポーン」の音には、どんな意味が込められているかをご存じでしょうか?
あるいは、スーバーで買い物をしている最中、ずっと店内にかかっている同じ音色の曲にはどんな秘密が隠されているのか……など、普段何気なく耳にしている音楽を意識的に聞いてみると、違った音風景が感じられることでしょう。
── 最近では、ヘッドフォンから大音量のリズム音が漏れ聞こえる人が少なくなりましたね。でも、スマホに視線を落とし、ヘッドフォンで耳をふさいでいては、街のもう一つの表情を聞き逃してしまっているかもしれませんね。